表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

剣と魔法

「ーー『回想おもいだ』したゼ……!!おいらァ、あの『マブ』い『姉』ちゃんのおかげ?で『新生うまれかわ』ったんだ……!!」


津張は思い出した。


トラックとの真剣勝負しょうめんしょうとつにより、弾き出された自身の意識たましいは天界へ召され、そこで出会った女神に異世界転生させられたことをーー。


「しッかし……」


津張は、その場で足踏みし土の感触を確かめながら、辺りを見回した。


「『真剣マジ』で『コイツ』ァ、『映画』の中に『出演』るみてェだゼ……!!」


百戦錬磨にして常に沈着冷静の津張をもってしても、やはりこの光景は動揺を禁じ得ない。


彼が足をつけるこの大地はーー彼が新たに生を受けたこの世界はまさに、『剣と魔法のファンタジー世界』であった。


往来の人々を注視すると、前世では見たこともなかったさまざまな人種の存在、交流、共存が確認できたが、そんな多種多様な彼らの多くに共通していることがあった。


帯刀をしているーーということである。ある者は腰から提げ、またある者はショルダーバッグのように肩から提げている。


さらには、彼らの多くがさながら日用品として、魔法を多用しているのも見て取れた。例えばそれは、煙草を蒸すために指先から火を起こしたり、あるいは動物と会話をしたり、もしくは羽を持たずに空を飛んだりーー。


そのすべてがーーその世界にとっての日常あたりまえのすべてが、何の変哲もない不良高校生である津張剛にとっては、あまりにも非日常で、非現実であった。


「頭が『痛』くならァ……」


果たして津張が取った選択は、『深く考えず、とりあえず受け入れる』ことであった。


見たところこの『世界』は、魔法については目を見張る発達を遂げているが、津張が元いた世界のような科学の発展は迎えていない。


見たこともない怪物に引かれる馬車?のようなものは走っているものの、津張の転生の直接の原因となった大型トラックのようなものの走行は、一台として見られない。


また、大型ショッピングモールもなければ、スマホを携帯する人も見受けられない。


自分にとって、『剣や魔法』が非日常であるように、『この世界』に住まう『彼ら』にとっては、トラックやスマホこそ非日常そのものであろうーー津張はそう思った。すっかり思い込んでいた。


津張の長所とは、このように短絡的で楽観的な点にある。


一見すると短所とも取れるこの個性だが、このようなケースにおいては、そう断ずるのは早計である。


とりわけオタク文化に明るいわけでもないのに、異世界転生という『トンデモ』をすんなりと受け入れられてしまえるーー今回に限っては、彼の生来の長所が幸いしたといえよう。




さてーー、


津張はあらためて、辺りを見回した。


今度はとりわけ、人々の様子に注目して。


彼らの多くは帯刀こそしているものの、誰も抜剣はしない。そもそもそんなに荒れた雰囲気ではない。


魔法もまた、我々にとっての科学技術同様、便利ツール程度にしか、その世界の人々は活用していないように見えた。


しかし!!


道行く人々ーーカバンを提げる主婦らしき三つ目の女、杖をたよりに危なげに歩く角の生えた老人、無邪気に駆け獣の耳を揺らす子ども、友人と歩きながら談笑を交わす青肌の生娘ーーその誰も彼もが、『尋常ならざる者』であった!!


なんでもない日常を過ごす彼らが皆、『ぶき魔法ぶき』を所持っている。なんでもない日常の中に『ぶき魔法ぶき』を置いている。なんでもない日常を『ぶき魔法ぶき』と共に生きている。




つまりーー誰も彼もが『喧嘩れる』!!




一瞥だけで、津張はそれを見抜いた。


一瞥だけで、津張は彼らの強さを知った。


一瞥だけで、津張は『ここ』がどういう『世界』なのか痛感した。




津張が元いた世界では、往来の人々は皆、平和を日常あたりまえとして享受していた。そんな彼らは皆等しく津張にとっては、取るに足らない羽虫であり、雑魚であった。そもそも喧嘩相手ですらなかったのだ。


それがーーどうだ。


この世界では、皆が日常の中に『喧嘩たたかい』が常在することを知り、それを享受して生きている。


きっと、すれ違いざまに適当に声をかけた通行人Bですらが、人並外れた『一級品』の喧嘩相手に違いないーー誰も彼もが、喧嘩れてしまえるのだ。


津張にしてみれば、眼前に馳走の山を築かれたようなものである。


さらにーーだ。


闘争を日常とするーーそんな超アナーキーな喧嘩師ツワモノたちを、『力』だけでねじ伏せ、その『テッペン』に君臨する絶対的喧嘩番長テッペンである『魔王』が、この世界には確かに存在るーー!!


そして、その魔王の討伐こそが、津張剛がこの世界において課された『試練』ときたもんだーー!!




津張、図らずも垂涎ーー!!




「ッとと……いけねェいけねェ……!!」




さて、この高揚、どこにぶっつけたものかーー。


いくら強いとはいえ、無垢な子どもに突然殴りかかるわけにもいかない。


津張は不良でこそあれ、分別がないわけではない。


どうにも『闘気ヤるき』を持て余していたそのときーーすぐ近くの広場から、津張めがけて一人の少女の悲鳴が飛んできた。




「キャーーー!!舐めんじゃねえ!!ですわよ!!」




普通であれば、ただちに関わることをやめようと思うセリフである。


しかし!!


『喧嘩狂』津張にとっては、まさに『おあつらえ』ーー『少女を助ける』という大義名分を獲得し、正当に喧嘩ができると知るや否や、広場へ向かい駆け出した。




すでに広場には、人だかりができていた。


輪の中心を見ると、一人の少女に対し、屈強な男が三人。何やら言い合っている。


「デケー声出しちゃってまァ……嬢ちゃん、イイトコの子でしょ?だからさァ、そんな首飾りの一個や二個くらいさァ、俺らに恵んでくれたってさァ、別にイイじゃんかァ」


「なァ」と他の二人に同意を求めるその男は、間違いなく三人組のリーダー格といえる男であった。


三人組の男の中でもとりわけ巨体、他の二人を率いるようにして立つその佇まい、顔に走る深い十字傷ーーその男もまた、尋常ならざる者であることは明白。


一方、対する少女はといえば、悪漢とはまるでミスマッチな、どこか気品のある風格ーー三人組が言うように、なるほど確かに、彼女は高貴な身分であるらしいことが見て取れた。


身につけているものを見れば、おおよそわかることである。


幾重にも織られた複雑な作りでありながら、ときおり素足を覗かせるその裾は、動くたびにふわりと揺れ、うっかりすると彼女の身分など忘れさせてしまえるほど、少女特有の軽やかさを演出している。それでいて、やはり節々にあしらわれた純金のブローチや、窮屈すぎないほどにボディラインにフィットしたサイジングが、着ているだけで彼女の非凡性を思い出させてくれる。


彼女が着用しているドレスはまさにーーそんな職人の鮮やかで細やかなぎじゅつが光る逸品である。


さらに、三人組が奪取せんとするその首飾りは、少女が身につけているものの中でも、いっとう価値のあるものであった。


三人組も、なかなかどうしてめざとく鋭いーー伊達に悪に手を染めていない、といったところか。




「身につけているものをよこせ」という単純かつ理不尽な要求に対して、少女は怒りのまま叫んだ。


「ナマ言ってんじゃねェーですわよッ!!あたくしの所有物をてめェらに差し上げる理由がッ、どこにおありで!?」




せっかくのドレスが……

馬子にも衣装ーーとはまさにこのこと。




その気品のある容貌から発せられるとは思えない暴言ーーに加えて、中途半端に『お嬢様言葉』が抜けていないものだから、なおのこと不自然である。


駆けつけた津張も、さすがにこれには『あんぐり』である。


手の込んだブロンズの巻き髪に、きらびやかなティアラ、上等なドレスに、極めつけは人形のような端正な顔立ちーーそんな絵に描いたような『お嬢様』が、よりにもよって不良さながら啖呵を切っている。


「ヒュウ〜……!!」


観衆の中に紛れ、津張はその少女に向けて、賞賛の口笛を送った。




一方、正面切って怒鳴り散らされた『十字傷』は、特大のため息を吐き出した。


「俺ァ、跳ねっ返りのイイ嬢ちゃんはァ、嫌いじゃあねェがァ、結局どいつもこいつもーー『コイツ』の前では無力なんだよなァ……!!」




「えっーー」




『十字傷』、瞬く間に拳を構える。


刹那、ノーモーションで振りかぶる。


それは、脅しやフリなどではなく、確実に少女を殴り飛ばすために放たれた一撃ーー。


無論、少女はそのような不当で高等な暴力に反応できるはずもなくーー。




「!?」




しかし、『十字傷』の拳に刻まれたのは、空虚な感触ーー空振り。




『あんな嬢ちゃんが、俺の一撃を避けた……?いや、そんなまさかーー』


あえなく空を切った拳を持て余しながら、そんなことを考えていると、




「オイ……!!」


『十字傷』が、声の方に目をやると、そこにいたのは、少女を守るように抱きとめる奇怪な髪型の男ーー津張剛である。


少女の危機にかけつけた『漢』であったが、しかし『十字傷』を含め、その場にいた全員が津張に抱いた思いは『なんだコイツ!?』


それもそのはずーーこの異世界においては、『リーゼント』も『学ラン』も、そして『ツッパリ』も存在しない。何から何まで見慣れぬ外見の男が、突如としてイザコザに乱入してきたのだから、皆が息をのむのも無理はない。


アウェイ全開な津張の腕の中で少女は、静かに瞳を閉じていた。どうやら、『十字傷』の凄まじい『拳圧』にあてられ、気を失ってしまったらしい。


「そうかァ……てめェがーーッ!!」


『十字傷』、即座に理解すーー自身の攻撃が未遂に終わった原因は、この男にある。


気に入らねえーーッ!!


『十字傷』の胸中に沸き上がるはーー、


怒気!怒気!怒気!!


『十字傷』は、額に青筋の軌跡を描きながら、叫びを押し殺すようにして言った。


「……お兄さん、あのさァ、俺と嬢ちゃんが話し合ってるトコ、見てなかったワケ?なァんで割り込んでくるかなァ……!!」


ビキッ!


津張は、赤子を寝かしつけるように、優しく丁重に、少女の身体を近くの柱に預けた。


「『オンナ』に『暴力』ェ上げるような『豚野郎』が、『一丁前』に『吠え』るんじゃあねえョ……!!それとも、何か?『この世界』じゃあ『喧嘩なぐりあ』うことが『話し合い』だってェんならョ……おいらも『交戦』ぜてくれや……!?」


ビキッ!ビキッ!!


「つかテメェ誰だァァァ!!」


「テメェこそ『ドコ中』だコラァァァ!!」




一触即発ーー!!

明日も同じ時間に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ