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訳のわからないものに懐かれてしまった

前回のあらすじ

1人で霧の魔物を討伐できたクラムは村人たちから感謝をされながら街へと帰る。

道中、邪な感情が浮かび上がるのだった。

 クラムが街に着いたのは村を出てから1日と10時間過ぎた夕方だった。

 「すっかり遅くなったな……酒場に行く前に家に行って、お前を洗うからな」

 クラムの懐には紫色の何かが動いていた。

 「ナンデ?」

 「今の俺達結構匂うからな。っと、少しだけ静かにしてろよ。お前のことがバレたらヤバいからな」

 「ワカッタ」


 紫の何かはそう言うと懐の中に隠れ、動かなくなった。


 このよくわからない何かはクラムが街に帰ってくる最中に見つけた霧の魔物だ。

 厳密に言えばこの個体はモンスターというらしい。


 クラムが街道を辿っている最中、人語で助けを求めながら獣に襲われているところを発見し、彼が人が襲われていると勘違いして助けたことが始まりだった。

 最初彼はこの魔物を認識したとき、普通の魔物だと思って剣を抜いて臨戦態勢をとった。しかしこの魔物は片言ではあるが敵意の無しを表明し、自分がモンスターだということをクラムに伝えた。

 が、クラムはモンスターという単語について知らなかった。そのためこの魔物は必死に事情を説明した。

 曰く、モンスターというのは人類に敵意を見せない魔物のことを呼ぶらしい。

 だがそのことについて知る者は、この世界で生き残っている中では本当に限られた者である。それも、魔物についての研究者や一部の金持ちなどの特別な存在だ。

 故に、クラムが知らないというのは無理もないのであった。


 彼は剣を振り上げて倒そうとしたが、

 「イヤダ…シヌヤダ……オネガイ」

 と命乞いする魔物を見て、彼はその一度息を吐いてから剣を下ろした。


 「本当に俺達に危害を加えないと約束できるか?」

 クラムの問いに、魔物は必死に頷いた。

 「わかった」


 彼がそう言うと魔物は喜びの表情になった。


 これがこのモンスターとクラムの出会いだった。



 「本当に帰ってくるとはな」


 馬の管理人は馬が無事な事に安心し、クラムが無事に帰ってこれたことに感嘆した。


 「だから言ったじゃないですか。自分は生きて帰ってくるって」


 「そうだな。まあ、今回は偶然だったかもしれんな」


 「それは……あり得ますね」


 「だがまあ、今後もあんたに馬を貸すことにしよう。馬も元気だしな」クラムが借りた馬は怪我も無く、体調も良かった。


 「それじゃあ、次もよろしくお願いしますね」


 「おう。次も無事に帰って来いよな」


 「はい」


 馬を返し終えたクラムは自宅へと向かった。


 彼が家に入る時には、既に日が沈んでいた。暗い家の明かりを点けると、椅子を自分の後ろに引っ張って、それに腰かけた。

 「帰ってこれたのか」


 「クラムクラム!」


 少しだけ自分の生還の実感に浸っていたかったが、モンスターはそれを許さずに懐から飛び出てきてテーブルの上に着地した。


 このモンスター、見た目は紫色の人形であるが、本体は人形ではなくそれが着ている「服」である。

 おおかた人類が生存していない辺りにある廃墟に干してあった服に霧が集まって魔物化したのだろう。

 この魔物は様々な服に憑依し、己を身に着けたものを乗っ取り、自分の体として扱うらしい。しかし、人や動物に着させると意思があるために乗っ取ることはできないとのこと。そのため、普段は意思のない人形に己を着させて自由に動いていると魔物は話した。


 今の大きさは、人形がクラムの肘から手首までの大きさなので、本体の部分は手の平程である。しかし、憑依できる服は自在に変えられると話しており、クラムが着れる服にもなれるとのこと。

 この話を聞いて、クラムは間違えて着ないようにしないとなと考えた。


 ここまでの説明は彼が街に帰還するまでに話した中で得た情報である。


 「なんだよ」クラムは少し気だるげな態度でモンスターを見た。


 「アラウ、アラウ」モンスターは自分の腕の臭いを嗅いで臭がる素振りをする。


 「ああ、そうだったな」

 彼は立ち上がって自宅外にある井戸で水を汲み、自宅の洗い場で自分の体を洗いながらモンスターを洗った。人形の体と本体の「服」は別々にし、本体の方は普通の服と同じように洗う。


 「アブブブブ…」


 「直ぐに終わるからな……そういえば、お前のこと何て呼べばいい?いつまでもモンスターじゃ面倒くさいだろ」


 「クラム、キメテ」


 「ええ!?……俺そういうの苦手なんだがな」


 「ダイジョブダイジョブ」


 「それなら後悔するなよ……そうだな、そんじゃフックてのは「ヤッパヤダ!」…おいこら」


 「チガウコタイ、ウノ、イワレテタ」


 「ウノ?」


 モンスターは袖の部分を動かしてUNОと順に表した。


 「別の個体がUNOか……なら、アンってのはどうだ?」


 人を襲わないという魔物の常識から外れた存在というアンチミスティック。そこからクラムはアンを取った。恐らくウノと名付けた者も同じような考えだろう。


 「アン…アン!イイ!」


 「よし、それなら今日からお前はアンだ」


 「アン!アン!アン!」


 モンスター改めアンは自分の名前に喜び連呼する。

 「……名前の連呼はやめような」

 が、それに対して思う所があったのか、クラムはこの名前にしたことを少し後悔したのだった。


 数分後、身体を洗い終えたクラムは念入りに体を拭いていた。

 モンスターの本体は普通の服と一緒に部屋干しで乾かすことにした。


 「クラム、マホウツカワナイ?」アンは水が滴り落ちるのを気にしてはいないが、恐らく乾くまでここにいるということに不満を持っているのだろう。本体を通している干す用の紐を使って体を揺らして遊んでいる。


 「魔法?体を乾かす用の魔法なんてあるのか?」


 クラムは攻撃をするための魔法しか知らない。それ以外の用途で使用するとすれば焚火や一時的な水分補給くらいに火や水を出すくらいだ。


 「アタタカイカゼ、マホウデダス」


 「……火と風の魔法じゃダメか?」そう言いながら片方の手に炎を、もう片方には風を発生させる。


 「チガウチガウ。レイ、ミセテ、イイ?」


 「アン、お前魔法使えるのか?」


 「デキルデキル」


 それなら攻撃しないのならいいぞとクラムは許可した。


 するとアンは服の真ん中から魔法陣を発生させる。次の瞬間、温かい風が魔法陣から発生したが、それは一瞬で、体を固定していなかったアンは温風によってぐるりと縦に回転し、その際に魔法が途切れてしまった。


 「アババババ」


 「……凄い」


 クラムは自分ができない魔法を使用したアンを素直に凄いと感じた。もしかしたらこいつはまだまだ自分が知らない魔法を知っているかもしれないという可能性も感じた。


 「なあアン。お前、他にも魔法使えるか?」


 「デキルデキル」


 クラムの口角が意識せずに上がってくる。


 「俺にそれを教えてくれないか?もちろん報酬は用意するからさ」


 「ココ、スマセテクレタラ、イイゾ」


 (よし!)


 「ああ、住ませてやる。飯も食わせてやるからな」


 「メシ、イラナイ。クラム、イッショニ、ドコカイキタイ」


 「なら、依頼の際にアンを連れて行こう。お前は俺が守ってやる。だからアンは俺に魔法を教えてくれ」


 「ウン!」


(変なのに懐かれたと思ったが、これは正解だったな)


 こうしてクラムはアンから魔法を教わることが決まったのだった。

補足

アンを着たぬいぐるみは全て紫色の小さい人型の何かになる。

また、アンがもういいと判断すると普通のぬいぐるみに戻る。そうなるとアンは違う服に移動するのだ。

死体も乗り移って動かすこともできるが、死体はすぐに腐るから嫌とのこと。

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