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討伐隊がダメなら、ミスティックハンターになるまでだ

前回のあらすじ

魔物討伐隊で戦力外通告を受けたクラムは討伐隊自体からを脱隊し、悔しさで枕を濡らしながら眠りにつくのだった。

 夜が明ける。彼が住む街、モーアブルに朝が来る。

 ここは人類の生存圏の中でも5番目に大きな街であり、魔物討伐隊の本部が存在する。街は毎日活気に包まれており、それはそこに住む者達が元気に生きているということを表している。


 クラムは8年前に魔物から逃げてこの街に来た。そして、そこで優しい人物と過ごしたことでこの街で育ち、そして討伐隊に入隊した。そんな隊は昨日脱隊したが。

 親兄弟はいない。8年前に魔物に襲われて、生き残ったのは彼だけだった。

そのため、魔物に対しては憎悪を抱いている。

 彼が入隊したのはそのためである。と言っても、もう脱隊してしまったのだが。

彼と住む家族はいない。家主であり、彼を拾ってくれた優しい人物は、1年前に亡くなっている。


 「よし」


 彼は家にあった食材で朝食を済ますと、本部がある方向とは違う方向に歩き始めた。彼が向かったのは、魔物討伐隊とは別に魔物を討伐することができる団体がある傭兵(と言っても実態は街の何でも屋なのではあるのだが)団の拠点である建物だった。


 その建物は、傭兵達が仕事終わりに酒を飲むため、それなら最初から酒場として営業すれば儲かるのではとなり、酒場となっていた。


 隊員時代の彼もここで任務終了の祝杯でここに来たことがある。


 古ぼけた扉を開けるとそこでは様々な武装をした者達がいた。ある者はテーブルで食事をし、ある者は受付カウンターで依頼の紙に指印を押していたり、またある者は依頼の紙が貼られた掲示板を眺めている。


 「依頼」というのはこの傭兵団の拠点に来る「こーしてほしいあーしてほしい」という要望である。

 ドブさらいに、買い物の手伝い、ベビーシッター、農園の手伝いなどの平和なものもあるが、建築工事、鉱石発掘の手伝い、遠征や交易、行商の護衛や、害獣や魔物討伐の依頼などの危険が伴うものもある。


 クラムがここに来たのは、そんな危険な魔物討伐の依頼を受けるためである。


 「あれ?おめー確か討伐隊のやつだよな?」


 酒場にいた傭兵の一人がクラムに気付いて声をかけてきた。


 「はい。クラムって言います」

 彼はそう言うと傭兵が人当たりの良さそうな顔で彼に近づいた。


 「今日はどーしたんだよ。酒飲むならはえーからまだ出されねーぞ」


 「違いますよ。今日は依頼を受けに来たんです」


 そう言う彼に対して傭兵は疑問が生じた。


 「あれ?討伐隊ってのは給料が良いって聞くぜ。傭兵の依頼なんてやらなくても良いんじゃねーのか?」


 「いやーまあそうなんですけど」


 彼は自分が脱隊したことを伝えると、傭兵は彼に同情した。


 「そうか…それで傭兵になりに来たんだな。よし、それなら俺が案内してやろう!」

 腕まくりしながら言う傭兵を、彼は信じることにした。


 「俺の名はテリー・シンフィルだ。気軽にテリーって呼んでくれ」


 屈託の無い笑顔で傭兵ことテリーは握手を求めてきたため、クラムも自分の自己紹介をしてその握手に応じることにした。


 「自分はクラム・バレーと言います。よろしくお願いします」


 「おう!んじゃクラム。ここで依頼を受ける前にまずやることをするぞ」


 彼はそう言うと、受付カウンターへとクラムを案内した。カウンター内で本を読んでいた受付嬢は二人の姿を認めると、笑顔で対応する。

 「あれ?テリーさん。ツケ払いの返済ですか?」

 「ちげーよ。どーせあんたもさっきの話を聞いてただろ?」


 クラムはこのやり取りでこの二人はかなり癖のある人物なのだと察した。


 「ええまあ、そうですね。お二人の会話はここで響いていたので聞かせてもらいました」


 それを聞いてクラムは辺りを見回した。すると酒場にいた何人かが一斉に動いた気配がした。

 どうやらここにいる者には自分の事情は知られたようだと理解する。


 「それなら話がはえー。早速だが、クラムを傭兵として登録しちゃくれねーか」


 「わかりました。ではクラムさん、紙に氏名などを書くのですが、文字の読み書きはできますでしょうか。もしできないのであれば私がお書きしますけれど」


 「いえ、多少の読み書きはできますよ。自分で書きます」


 かしこまりました。と受付嬢は言うと一枚の紙をクラムに渡した。


 クラムは名前を書く欄だったり他にも必要な情報をスラスラと書いていく。


 「ほえースゲー。討伐隊のやつは頭がいいってのはマジなんだな」


 「まあ、討伐隊だと色々と書類を読まなくてはいけなかったので、文字の読み書きは訓練生時代に教わるんです」


 「いいですねそれ。こちらは読み書きできる人が稀なので仕事が減るのはありがたいです」

 受付嬢はジト目でテリーを見る。

「おいおいそんな目で俺を見るなよ。照れちまうぜ」

「はあ……こちらもその期間を設けたいと申請してみようかな」


 「あははは……っと、できました。これでいいですか?」クラムは苦笑いの後に紙を渡した。


 「はい……はい。これで大丈夫です」受付嬢は必要項目欄に目を通してチェックを終えた。


 「それではこちらで登録をしましたので、次は依頼について説明をしますね」


 その後、受付嬢は依頼の説明を始めた。

 その結果、クラムは討伐系の依頼は赤色の紙、それ以外の依頼は違う色ということを理解した。また、依頼達成時は依頼者、又はその代理人から依頼書に指印をしてもらい、それを受付に渡したら報酬が貰える。また、現地でも報酬が貰えるが、その際は指印を押してもらった依頼書に受付に届けるだけでよい。といっても、討伐系以外はそういうのは無いのだが。


 「これで説明は終わりになります。では、そちらの掲示板で依頼をお選びください」


 「うっし!そんじゃ見にいこうかこっちだ」

 テリーの案内のもと掲示板へと向かう。掲示板には緑色の紙、つまり討伐の依頼以外のものが大量に貼られていた。


 「これが依頼なんだが、今はそこまで高額な依頼はねー。ま、今あるヤツならこれがお勧めかな」

 そう言ってテリーは「貴婦人の買い物手伝い」という依頼を指差した。なるほど確かにこれは他の依頼よりも報酬額が高い。

 しかしクラムが気になったのは掲示板の左上にある一枚の赤い紙、つまり討伐の依頼だった。


 「これじゃダメなんですか?」


 クラムがそれを指差すとテリーは驚きの色を見せた。それもそうだろう。依頼内容はとある村の近くの森に出現した魔物の討伐依頼であったのだから。

 「おいおいクラム、確かにこいつの額はたけーけどよ…ちょいと考え直した方が良いと思うぞ。魔物狩り(ミスティックハンター)を目指すわけでもないならな」


 魔物狩りとは文字通り魔物を討伐する者であり、傭兵ならではの敬称である。危険な依頼をこなし、高額な大金を得るため、その強さと資産に傭兵の中で憧れる者も少なくない。

 しかし目指そうとして簡単になれるものではない。

 魔物は魔法が無ければ倒すのは難しく、更に、魔法を使える者は限られている。

 魔法を使えるようになるには覚醒しなければならない。覚醒してしまえばあとは魔法使い訓練所で一年間過ごした後討伐隊なりなんなりとなることができる。しかしその覚醒がいつ、何故起こるのかわからないため、魔物を倒せる存在は少ないままだ。


 「目指しているんですよ。その魔物狩りに」


 クラムの目は本気だった。


 「そうか。まあクラムは元討伐隊だから大丈夫だな……」

 テリーはおとなしく引き下がった。しかしそれでも彼はクラムを説得しようと考えているようだった。


 「大丈夫ですよ。相手は魔物でも、こっちに回されるのは弱い個体です。それくらいなら俺でも倒すことができます。なんなら一緒に来ますか?」


 「……いや、俺は遠慮しておくよ」

 テリーはそれを聞いて諦めた。


 「そんじゃ次は依頼の紙を受付カウンターに持っていくぞ」


 クラムは討伐依頼の紙を剥がすと、テリーと共に先程のカウンターへと戻った。


 渡された紙を見て受付嬢は眉をひそめた。

 「本当に受けるんですか?」


 「はい」クラムはそう言うと書類用に置かれたペンを手に取った。書類にサインするためだ。

 受付嬢は数秒間難しい顔をしたが、一つ息をつくと依頼を受けるのに必要な書類を渡した。この書類にサインをして指印を押せば依頼の受注が完了する。


 クラムの指印が終わるまで、受付嬢とテリーは複雑そうな表情をしていた。


 「はい。これで大丈夫です……それでは!お気を付けていってらっしゃいませ!」

 受付嬢が笑顔でそう言うと、クラムは笑顔で返事する。


 「はい。生きて帰ってきますよ」


 そう言うとクラムは酒場の出入口へと向かった。


 「クラム」テリーが彼を呼び止めると、彼はどうしたのかと振り向く。


 「帰ってきたら、飯を奢ってやるよ」


 「ありがとうございます。それじゃ、一番高いものでも奢ってもらおうかな」


 「……おう。必ず奢ってやる」


 今度こそクラムは酒場を後にするのだった。


 「今度は帰ってこれそうですか?」

 「……さーな」



 クラムは出発するのを明日にして、今日のところは準備に時間を当てることにした。その準備でも時間を食ったのが移動に関してだった。


 「ええ!?あんたマジで言ってんのか?」


 移動用に馬を借りたかったクラムだが、馬小屋でそれを話すと先の反応が返ってきた。


 討伐の依頼で馬を貸した傭兵が死んでしまい、馬が返ってこなかったことがあり、そういうのを警戒しているからだ。


 「大丈夫です。必ず生きて帰ってきます」


 「………」


 馬を管理している者はクラムをじっと見ると、何かを考え、やがて口を開いた。


 「わかった。ならあんたの住所を教えてくれ。もしあんたが帰ってこれなかった場合や、馬を失った場合、あんたの家の家具を片っ端から売り飛ばさせてもらう」

 大事な馬を帰ってこれるかわからない者に貸す。それには本当に生きて帰ってこれるかの信用が必要だ。ならば、それを証明するためにその覚悟を示してほしいという意味であった。

 「わかりました。俺の家は」


 そうしてクラムは自分の家の情報を話し、馬を借りてから2週間以内に帰ってこなければ彼の家の家具、土地を全て払うという契約をした。


 「それではまた明日」


 クラムは馬小屋を後にすると、買い物に向かった。そうして、その日の夕飯と朝食の材料、昼食用の携帯食料を購入し、帰路に就いた。


 そして翌日、朝食を終えたクラムは馬小屋で馬を一頭借り、街の門をくぐり、討伐対象がいる地へと向かった。

テリー…28歳。金髪で赤いポロシャツを着た男。この酒場の受付嬢から借金がある。

受付嬢…年齢は不明。茶髪で緑色の服を着ている女。テリーにかなりの額の金を貸している。

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