3・スライムってどんな奴だっけ?
さて、一応の視察を終えた。
「さて、帰るとするか」
可能性も見えたし後はスライムが排せつ物や残飯を食べるかどうか、もし、食べて瘴気を出すというのであればボツだが、そうならないなら前世の物語の様にスライムを下水処理や廃棄物処理に使って街を清潔にしたい。
そんな事を想いながら街門をくぐって中へと戻る。メインストリートではなく、一本奥まった路地を選んで歩いていると流石に臭いがきつくなった。というか酷い。よくこんなところで生活できるな。
バシャ
建物の二階から残飯を棄てる姿を見かけた。
この世界ではこれが普通だ。メインストリート以外は本当に汚くて歩けたものじゃない。それは領都だって変わりはない。
魔法があるだろうって?そう考えもするけれど、魔法が使えるのはちゃんと習った貴族や富裕商人などの限られた上流階層や選ばれた騎士や神官に限られる。平民が魔法を使えるということは無い。いや、違うな。使い方を知らない。
この世界では誰もが魔力を持つが、だから魔法が使えるという訳ではない。
第一、考えても見て欲しい。平民まで魔法が使えるならば、騎士や貴族、神官の権威は何で成り立つ?火や水や風を操れるという力あってこそなんだ。それらを誰もが操れる。きっと平民にも魔力量がずば抜けて高い者がいるだろう。
実際に居るんだ。そう、錬金魔法というのは鉱山や鍛冶屋で働く魔力の高い者が編み出した魔法だから、多くの貴族が嫌っている。
そして、百姓にだってそうと知らずに植物の生育を手助けする者たちが居るはずだ。いや、居る。
ただし、武力となり得る火、水、風といった魔法は貴族や神官の専売であり、下々には広げることは無い。コレが貴族や神官の権威の源泉。
そんな事を考えながら歩いていると、とうとう館へと帰って来ていた。
「お疲れさまでした。イシュトヴァン様」
マチカがそう言って僕を労ってくれる。ただ労ってくれるだけだが。この世界にケアとかクリーンという魔法はない。いや、研究はされているらしいが実現していないというべきか。前世の物語ほどの先進的な魔法世界とは言い難いのかもしれない。
さて、それは良いとして、スライムを捕獲する方法だな。
「マチカ、スライムって人が触って大丈夫だと思うか?」
そう聞くと、すぐさま否定された。
「ダメに決まってるじゃないですか。瘴気で侵されますよ?それに、下手をしたら手を失います」
だよな。そう習ったもんな。そして、動植物を溶かして栄養にしているから、捕まえるにしても網は使えない。金網で掬うか?
錬金術というのは金や金属を扱う術になる。間違ってもポーションを作ったりはしない。まだ科学は誕生していないからね。ポーションなんてのは、錬金が科学に転化しないと作成は無理じゃないのかな?
では、錬金は何が出来るかって?
何と凄い事に、鉱石から金属を抽出、精製するだけでなく、それをまるで粘土の様にこね回す事が出来る。といっても、鍛冶師の秘伝は弟子や子供への一子相伝だから、外部の人間には実態は分からない。
彼らは魔鉄や魔銀、魔金を造り出す。魔鉄は魔術を使わない鍛冶師が苦労して作る鋼と同等かそれ以上の鋼鉄に仕上がる事もある。僕がやってもただ鉄に魔素を送り込んだ魔化鉄とでもいうべきものが出来ただけだった。
銀や金は魔化させて魔術を増幅する効果を持たせている物だ。決してミスリルやアダマンタイトという武器に使える魔金属ではない。触媒という言い方の方が適切だろうか。
何はともあれ、鉄を常温で粘土の様に捏ねまわせる僕は、自分で網を作ることにした。
マチカに手ごろな屑鉄を用意してもらってそれを捏ねる。そして伸ばしていくと針金になる訳だ。
そしてふと考える。前世の記憶によると、表面の炭素を多く含ませる浸炭という処理をすれば硬くなるという知識がある。鉄にほかの材料を混ぜる合金というモノがある。
そこで、浸炭や還元といった鋼材に関する知識をイメージしながら捏ねてみた。
針金状にして金網を作り、枠や取っ手も作ってそれらしく成形してみた。
鑑定すると魔鋼と出た。
魔鋼って、魔鉄より上位の素材だったはずだ。まさか。しかし、鑑定を屋敷にある金属類に行うと、いや陶器も鑑定できた。アルミナ?それってセラミックじゃないか。
つまり、魔鋼が作れてしまったらしい。イマイチよく分からないモノだ。
なんにせよ、これでスライムを掬う事が出来るだろう。
「イシュトヴァン様、お食事のお時間ですよ」
マチカに呼ばれて気が付いたらすでにあたりは暗くなっていた。時間が経つのが早いな。