23・まさかの急展開にちょっと付いて行けない
「そう言う事だ。形だけでもすぐに整えておけば良い」
そうトルディが言い出した。
辺境伯家というのは巨大な軍権も有するために王家としてもつなぎ止めに策を講じることがままあるという。
しかし、父はそういう事が好きではなく、ただ純粋に王家への自身の忠誠さえあればよいと王族との婚姻を断り続けていた様だ。
俗な言い方をすれば、宮廷貴族の政争に巻き込まれたくなかったと言えばよいだろうか。
その為、武の魔法を使えない僕を王族は欲しがっていたんだそうだ。僕ならば辺境伯家に居なくても問題ない。半ば人質同然に王族へ養子として送り込んでも自身にも害はなく、父も困らないだろうと。
なるほど、全く知らなかった。
「マチカを付けてここへと送り出したのは、僕に王族が近寄らない為?」
そう、トルディに聞いてみる。
「そう言う事だな。王都の学園に行けば、王族筋の勧誘を受けていたことだろう。そこで何かあってはフェレンツも断れなくなる」
確かにそうだろうな。
「にも拘らず、神銀の馬車など造ってしまうから王家が注目してきたんだぞ」
兄から責めるように言われてしまった。
「もしそれで話が終っていれば良かったんだが、今回のスタンピードだ」
そう、偶々起きてしまった今回の騒動は大きな衝撃を与えるに十分だったらしい。
「こんな小都市がウィンドボアのスタンピードを退け、最小の被害で復興を目指しているとなれば、一つの武功と言って良い」
トルディがそう話を続ける。
「申し訳ありません。その話を聞いて、私もイシュトヴァン様から離れたくないあまり破廉恥な事を・・・・・・」
マチカがそう謝って来る。
「本来の武功第一はゾルターンだ。意図的にスタンピードを起こして賊を蹴散らすことに成功している」
そう、トルディが言うが、そこからが問題だったようだ。
「確かにその通り。しかし、父上はその褒賞としての縁談を受け入れる気が無かった。そこでお鉢が回ったのが、イシュトヴァンという訳だ」
何とも迷惑極まる話だ。兄の武功に対する褒賞を蹴ってしまう父にも驚くが、宮廷貴族の政争に巻き込まれたくないという気持ちも分からなくはない。
そして、そこから話がこちらに流れて来たらしい。なにより、スタンピードに立ち向かった僕への褒賞というのも用意する必要があった事も大きいだろう。
「俺は王国の官位を受けることになった。本来、それに伴って行われる筈だった婚姻の話をスタンピードを退けたお前への褒賞に振り向ける事になった訳だ。流石に断りようが無かったらしい」
そりゃあそうだろうな。大功績をあげた兄、スタンピードから街を守った僕。辺境伯家では今回二つの事が起きている。王国からの何らかの話が来るのは当然で、簡単に蹴る事が出来る類の話でも無いわけだ。
「フェレンツとしてはマチカを嫁にする様けしかけて、こうした事態を避けようとしたんだろうがな。相手が王族となってはその謀も上手くいかなかったわけだ」
王族からの婚姻話となれば、婚約者が他に居ようと優先される。まあ、当然だな。慣習に倣っていた隙を突かれた格好だった。
「スタンピードを退けた功績を理由に子爵に叙爵して、しかも王族から嫁がせる。王家としてもフニャディ家の手綱をしっかり握りたいから必死だろう」
諦めたように兄が口にした。
「だから、さっさとマチカを懐妊させ、正婦人が獣人だと示して断りたかった?」
僕がトルディに問うてみた。
「俺が聞いた段階で断るのは無理だった。イシュトヴァンが拒否しない様にする方策を考え出したに過ぎないんだが」
もう、事ここに至って断れないようにする方策が、すでに正婦人が子をなしている事だそうだ。その場合、正婦人の地位を増やす事で対応するという。あくまで相手が王家の場合の緊急回避策なのだそうだが。
「すると、そのマーリア嬢も僕の正婦人となるのだな」
マチカを正婦人とし、序列なくもう1人か・・・・・・
異世界ハーレムと言ってしまえば良い響きに聞こえるが、コレは政治的な話だ。断れないというのも痛いが、どうしたものか。
「そこまで心配する事は無いぞ。タシュ大公は獣人に対しても寛容だ。妾ではなく夫人として獣人を娶る御仁だからな」
兄がそう解説してくれる。そう言う人物の娘なら問題ないかもしれない。
まさかこんな話になるとは驚きだらけだが、これは受けるしかないんだろうな。




