22・スタンピードの片付けが大変すぎてどうしようもない
翌日、外へ出ると辺りには数千というイノシシが転がり、中には踏みつぶされてグチャグチャなものまである始末だ。
何を考えるでもなく、まずはこの亡骸を片付けなければ何も始まらないのでせっせと片付けに励むこと一週間。何とか片が付いた。
「多くは手近に埋めてしまいましたので影響は残らないと思われます」
そんな報告を受けたが、適当に埋める場所すらない壁下に折り重なったそれをどうするかが最後まで残された課題だ。
さらに、当然のごとく処理場も破壊されているのでその修繕にも取り掛からないといけない。ただ、モノがスライムだけに、勝手に増殖して周囲のイノシシを吸収している姿を見る事が出来た。
「スライムが地上で増殖してしまわない様に適切な処理も必要だな」
これ幸いに処理場周辺へとイノシシを投棄する動きもあったが、それに待ったをかけてスライム管理も再開する。
とにかくやることだらけだった。
「ご領主、外の小屋に置いていた農具が随分壊れてやす。イノシシの処理も必要ですが、魔鋼や神銀の生産も始めねぇと修理に取り掛かれやせん」
総動員で処理にあたっていた僕らだが、次の話が早くも舞い込んでくる。ごく限られた鍛冶師や僕しか作れない材料の話だから無視も出来ない。
「ご領主。処理の先が見えたので山へのフライングヒートの探索へ向かってもよろしいでしょうか?」
トルディからはそんな提案もなされた。
そう、連中がまだ居座っているのか、どこかへ行ってしまったのかすら判明していないのだから、それも必要だ。そうしないと材料の採掘にすら支障が出かねない
本当にやることが多い。
ある程度キリが良い所でそれぞれが新たな役割へと動き出していく。
百姓たちは農具の状態を確認し、無事なものを使って早速畑を耕す動きまで出ている。放置しては草が伸び放題になって良いことは無いからだそうだ。
小屋の再建に出る者も居るが、神銀が使えないかという話を持ってくる。
「簡易の組み立て式なら可能だろうが・・・・・・」
この忙しい時にと思うが、神銀を扱える僕やフルチャには新しいモノづくりなのでやってみたいとも思うが今すぐは無理だ。
街が平静を取り戻す頃には初夏の麦播きすら行う余裕がなく、忙しく再建作業だけが続いている状態だった。
「イシュトヴァン様、領都からの使者がお越しですよ」
材料精製に忙しい僕へとマチカが声を掛けてくる。
「分かった。が、着替えたいから待ってもらってくれ」
この忙しい時にと思いながら手早く着替えて執務室へと向かう。
「ゾルターン兄上?」
使者として訪れた中に兄を見付けた。
「久しいな、イシュトヴァン。今回はすまなかった」
あの兄が素直に謝って来る。どうした事だろうか。
「今回は東砦での作戦にミスがあった。大筋では作戦は成功して東方の賊に大打撃を与える事が出来たが、この周辺には多大な被害をもたらしたと聞いている」
どこかこちらを窺うようにそう話す兄。
フライングヒートとかいう危険極まりない魔物を煽ってスタンピードを誘発させることで東方異民族を蹴散らしたそうだ。
が、その一部が南へと向かった事でこの様な事態になったらしい。
「・・・すでに山地の探索へトルディ達を向かわせ、フライングヒートの所在を確かめましたが、この周囲には既に居ない事が確認されました」
僕が一通り、今の状態について説明した。
それを聞いて胸をなでおろす兄。
「それでだ、お前はそこの獣人を正婦人とするそうだが、私が正婦人を・・・」
「いえ、結構です」
すかさず僕は話を断る。マチカを見ると不満そうにしているが、こればかりは譲れない。
「そうか・・・、父上からだ」
そう言って書状を示す。
「イシュトヴァンにスタンピード鎮圧の功を認めマーレタティ地方領主の地位を授ける」
つまり、受けたければ自身の提案も受け入れろと言いたいらしい。
僕は別に受けなくても良いと兄を睨む。
兄は困った顔でトルディを見た。
「ゾルターン、そうむきになるな。イシュトヴァンは昔から強情なところがある。それはフェレンツに似ている」
公的な話ではなく私的な話。父親の親友としての話らしい。
「叔父貴はそれで良くとも、俺と父はそうも行かん」
兄には譲れない一線らしい。
「だろうな。なあ、イシュトヴァン。一つだけ例外がある。正婦人を二人持てる例外だ」
トルディがそんな事を言いだした。
「ちょっと他の者は席をはずせ。マチカ、お前は残る様に」
そう言って使者としてやってきた騎士を部屋から追い出すトルディ。
「ゾルターンの推すのは誰だ?」
他に人が居なくなったことを確認してトルディが口を開く。
「タシュ大公の御息女、マーリア嬢・・・」
という驚きの答えが返ってきた。
タシュ大公と言えば王様の弟であり、その娘となるとトンデモナイ家格じゃないか。僕は驚くしかなかった。
「やはり、そんなところか。でなければフェレンツが蹴っていただろうな」
そう言ってトルディは頭を掻きだす。トルディが辺境伯家にこうもタメ口を叩けるのも、彼の家格の所為だが、まあ、それは良いか。
「しかし、例外を適用するならそこの獣人がすでに正婦人じゃ無ければ無理ですよ、叔父貴」
そう兄が言い、マチカを見る。トルディはマチカに視線で何か促している。
「あの、イシュトヴァン様・・・・・・」
マチカが何か申し訳なさそうに口を開いた。
それを聞いた僕はどう反応して良いか悩んでしまう。
「どんなに強情でも優しくされりゃあ流されるから、そうなるのは仕方がない」
思い当たる節はいくらでもあった。トルディがフライングヒートの探索から戻った後辺りからだ。
そうか、あれから三か月にはなるもんな。




