16・変人と異端は何処の世界にでもいるんだな
小屋に誰も居なかった事にホッとした。さて、この鳩共はどうすれば良いのだろうか?
「これ、今日の飯かな?」
「こんな珍味、なかなかありつけないのに、ざっと15はいるんじゃないか?」
「こんなにいたらさすがの珍味も飽きが来そうだな」
兵士たちのそんな声が聞こえた。そうか、食うのか。イノシシも食えるんだから、鳩も食えて不思議はない。
魔物だ何だと言うが、魔物の意味が前世知識の魔物とは似て非なるモノらしい。
考えても見れば人間だって魔力を持って居るんだ。いわば同じ体内器官や物質を持つ者同士なのだから食えるのも不思議ではないか。しかし、珍味ってなんだ。そんな名前が付くモノって好き嫌いが極端に分かれる類のもんじゃないだろうな?
そんな不安はあったものの、数人に荷馬車を取りに行かせて残った兵士たちは倒した鳩を集めてもらう。
「コイツは三つも喰らってるな」
「こいつも二つあるぞ」
「お、コイツは見事急所に一つだ」
集めてみれば複数の鳩に二つ以上の弾痕が見られた。大勢で同じ群を狙ってるんだから仕方がないのかもしれないが、何か対策した方が良いのかもしれないな。
そうやって集めた鳩をやってきた荷馬車へと積み上げ、街へと戻る。
さすがに鳩の解体は素人に出来る者ではなく、専門の職人が行うとの事なので、そこへと持ち込まれていく。
多すぎると文句も出たが、どちらかというとうれし泣きに近い様だった。
ちなみに、館に届けられた鳩肉に大喜びしたのは犬獣人のフェケテだった。酒を飲みそうな文官も喜色を浮かべていたが、きっとそう言う料理に使うんだろうな。
その日の夕食に出された鳩料理は確かに酒に合いそうな香草まみれの品だった。ああ、こりゃ珍味だ。酒さえ飲んでれば問題なさそうな珍味だ。が、マチカも僕も酒好きという訳ではないので、あくまで添え物程度に頂いた。大半は酒飲みのフェケテが明け方まで食い散らかしたそうだ。
さて、翌日、面倒だとは思ったが、解体時に出て来た弾の数や種類を個体ごとに記録してもらった資料が届いたのだが、どうやら最初の射撃で三羽は倒していた様だ。豆鉄砲を食らった顔してたうちの三羽はその時すでに瀕死だったんだろう。
複数発受けた個体であっても、致命傷は一発だけだったモノも居たことも分かった。
結局、軟鉄弾でも急所を狙えたならば問題なく、徹甲弾であっても軽傷にしかならない場合もあることが分かったのは収穫だった。銃だからどこを狙っても良いわけではないと。そんなありきたりな結論になった。
後日、兵士長にそのことを伝えると、すでに急所を狙って撃つ訓練を始めていた。
「そうか。職人からの報告では赤色でなくとも倒せるとのことだ。念のため、両方持たせた方が良いが、どちらでも倒せることを頭において対処してほしい」
そう伝えてフルチャの所へと向かう。
「ご領主、ちょうど良かった。ポンプや大型ボンベも作ってたんだが、筒の威力をもう少し上げた方が良いと思ってな、色々試してたんでさぁ」
そう言って、僕が作った物より口径が大きい試作銃がいくつも並んでいた。
構造を理解したら即応用が出来るって、これで獣人追いかけずに仕事してたら今頃ヴァイス一の鍛冶師だったんじゃないのか?もしかして。
それらの得失を聞いて、前世に存在した口径に近いサイズのモノを二人で選び出していった。
「おお!このサイズならば消費量も多すぎず、飛距離も伸ばせて威力も上がりますな!!」
結局、その日はフルチャの所で日暮れ近くまであれこれ弄っていたのでマチカが迎えに来て連れ帰られてしまった。
「これはご領主。最近は風変わりなクロスボウを造り、スケイルピジョン討伐をやっているとか。そのクロスボウ、我らにも頂けませんかね?」
館に帰るとトルディがそんな事を言って来た。イノシシ狩りがひと段落して余裕があるので兵士たちに剣や槍を教えているようだが、そこで空気銃について知ったらしい。
「そうしても良いが、お荷物になりはしないか?」
そう聞き返す。
前世の常識で考えれば、銃なんて品が出て来たならば、一気に槍や剣を駆逐していくと考えるだろう。
しかし、この世界にはこの世界の常識というのがある。
それが、魔法の存在だ。
いや、魔法の効果範囲というのはたかが知れている。スケイルピジョンを倒すには50mだが、歩兵を倒すなら弓より射程があるだろう。100mでも有効かもしれない。当然、鱗を貫通するんだ。50m程度の距離ならば弓同様に騎士の甲冑すら貫通可能な事だろう。
それに対し、魔法の効果範囲はせいぜい30mやそこらなので、弓による長距離戦を抜けて白兵戦に至る段階でなければ役に立たない。
が、それこそが騎士の見せ場であり、栄達の道でもある。それが名も知らぬ雑兵に次々討たれたらどうなる?
いや、逆だな。
騎士の出る幕もなく、雑兵が相手騎士を倒してしまったらどうなるのか。現在東方国境で魔物を乗りこなす民族と戦う兄たちだが、彼らの戦い方はまさに、騎射のあとに突入してくる異民族を魔法で蹂躙する事で武功を上げている訳だ。
それが出来なくなっては、騎士の価値が無くなる。
「私は騎士だからとかそう言う意識は無いんですよ。騎士であれ、兵士であれ、畑を守る百姓だって、ソレがあれば等しくスケイルピジョンが倒せる。騎士はその知識を生かして後方で隊列が乱れない様に指揮を執ってれば良いって思ってましてね」
トルディの考えは、確かにこの世界では異端だ。




