ロザリーの病は何の病?
ツンデレ甘々につき注意
最近の私、ずっとイライラしてる。
原因は今も訓練場で兵士の調練に勤しむアイツのせい。
訓練場は屋敷の敷地外にあり、教会の裏手、森を切り開いた先の広場にある。
「レナード様……素敵~!」
「だよねだよね!あんな人が彼氏だったらな~…」
「あっ!ねえ今の見た?!カッコ良すぎだよ~!」
調練をしてると、何人もの街の女の子がこっそり覗きに来るなんていつものこと。
え?私は何してるかって?そ、そんなの監視に決まってるじゃない!あの女ったらしが街のみんなを毒牙にかけないように見張ってなきゃ!
「次!ゲリラ戦を想定し、散開から包囲陣形!」
「「「イエッサー!」」」
掛け声一つで手足の如く兵士を操るアイツ。
…か、カッコ良……くなんてないんだから!まったく、なんであんなのにアメリアたちが騙されてるのか分かったもんじゃないわっ!
え?私の尻尾がどうかしたの?顔?別に普通よっ!
「よし、そこまで!最後に軽く流して終わるぞ。午後の哨戒に立つ者は昼食後に兵舎へ、非番の者はこの場で解散!」
「「「ありがとうございましたっ!」」」
あ、訓練終わったみたい!
するといつものように女の子たちは我先にと目当ての男に駆け寄っていく。町を守ったあの一件以来、ホイエットの私兵団は人気が急上昇。…ちょっと守ってもらったからって男なんかに恋しちゃうなんて信じられないわ。
…って! アイツったらまたデレデレして…!!
私は気付いたら茂みから飛び出してしまっていた。
「…ん?ロザリーか。そんなところからどうした?」
「~~~っ!」
どうしてか頬がパンパンに膨らむ私。これはきっと大嫌いなアイツが目の前にいるから。
そんな私の手には、手ぬぐいと水筒。べ、別に、コイツに渡すためとかじゃない。これはたまたま……
「今日も持ってきてくれたのか。ありがとう。」
「っ!ち、違うわよっ!これはその…ぐ、偶然持ってたっていうか……あ、アンタのためじゃないんだからねっ!」
まったく…!変な勘違いしないでよ!それじゃまるで私が…
「そうか…。誰かに渡すつもりなら呼んでくるが…」
「な、なな、なんでそうなるのよっ!」
別にコイツのために持ってきたわけじゃないけど!たまたま持ってただけだけど!でもせっかく用意した…じゃなかった、偶然持ってきてたこれが他の男の手に渡るなんて……考えただけでもゾッとする。
「…つ、使いたければ使えば?もう用済みだし。」
「いいのか?」
「ふ、ふんっ!」
仕方ないから放り投げるようにして渡す。
喉が渇いていたのか、手ぬぐいを首にかけるとすぐさま水筒に口を付けた。
「…ん?なんだ、変わった水だな。」
「水じゃないわよ。疲れた体にはハチミツとレモンが良いみたいだからジュースを作ったの。」
「そうなのか。……うん、美味いな。ありがとう。」
「っ…~~~~」
微かに笑みを浮かべて礼を言う。
私はなんだが胸がぎゅ~っとして、その顔を直視出来なかった。
やっぱり男は苦手ね。目の前にいるとこうドキドキして頭に血が上ってきちゃう。他の男が相手なら逆に血の気が引く感じがするから、私はよほどコイツを警戒してるみたい。
じゃないとおかしいもん、こんなの。
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ウチは今、とんでもなくむしゃくしゃしてる。
(何なのあの二人は!!)
心の中で叫んでみた。
あの二人というのは勿論、ロザリーちゃんとレナード。半年の間になんとかあの二人の関係を進展させなきゃいけないウチにとって、この状況は激ヤバだった。最善の未来に辿り着くにはあの子自身で頑張らないといけないから何とももどかしい。
「ロザリー、昼はもう食べたのか?」
「…ま、まだよ。だからなに?」
物陰から覗きつつ後をつけると、そんな二人の会話が聞こえてきた。
ロザリーちゃんはそれはもう次の言葉を期待しちゃって尻尾が踊り狂ってる。顔なんて見てられない程トロトロだ。
「そうか。どこかへ食べに行くか?この半端な時間だと教会の食事場も困るだろう。」
「っ…! ふ、ふんっ! どうしてアンタなんかと行かなきゃいけないのよっ!」
なんで正直に「行く」って言えないかな~!?本人たちは知らないけどこの世の危機なのよ?!うかうかしてたら半年後なんてあっという間なんだからツンツンしてないではよくっつけ!
「…そうか。」
「あっ……」
その一言で終わらせてしまったレナードを寂しそうな顔でチラチラ覗く。尻尾はしゅんと垂れ下がっている。
レナードもレナードよね。何でアレで気がつかないかな!?
ロザリーちゃんが男性恐怖症だからって言うのもあるんだろうけど、それにしたってキミにだけは特別だって分かるでしょうに!その頭には筋肉しか詰まってないの?馬鹿なの?なんなの?
「…」
「……」
黙って並んで歩く二人の距離は3mほど離れてる。これもロザリーちゃんの病を気にかけてレナードが空けてるんだろう。それも優しさだし、紳士なのは人として正しいけどさ……
「っ……」
一歩進むごとに、微かにだけど距離が詰まっていく。それはロザリーちゃんが(たぶん無意識に)そうしてるから。
だけどレナードがそれに気が付くとサッと距離を開ける。
そんなんだから歩くルートは徐々に左へと逸れていく。結局、目的に着くまでにグルっと円を描くように遠回り。
……まあ、ロザリーちゃん的にはそれも嬉しいんだろうけど。
(ホント、困ったな~。)
呟く。
ロザリーちゃんは、ウチが思うに自分の気持ちが理解できていないんだと思う。
かなり重度の男性恐怖症。
だから自分の胸の鼓動が、“好意からくるドキドキ”なのか“ただ怖いから”なのかを判別できない。それに加えて右も左も分からない初めての恋なんだからさて困った。頭では「嫌い!」と思い込んでいても、体と心が言う事を聞いてくれなくて戸惑ってもいるんだろう。
レナードも自分だけにキツく当たる彼女に嫌われてると思い込んでしまってる。…いや、何でこの様子を見てそう思えるのかは謎だけど。でも惚れた女と瓜二つの彼女に思うところがあるのは間違いない。
「…ロザリー、教会に着いたが入らないのか?」
「……。」
扉の前で立ち止まり、俯きながらつま先で地面に何かを書くようにモジモジしているロザリーちゃん。
…そりゃね。折角誘ってもらったのに諦めきれないよね。
「俺は汗を流しに水場に行くが…」
「っ!」
レナードがそう言った時、ロザリーちゃんが彼の裾を掴んだ。
(おっ?!これは…!)
一歩前進じゃない?!確かにこんな未来もあったにはあったけど……頑張った!頑張ったよロザリーちゃん!
目をギュッと瞑ったまま、真っ赤な顔で俯くロザリーちゃん。でも彼はそんなんで察せられるほど器用じゃない。
「どうした?」
問いかけても答えない、いや、答えられない。でも心と体は「行きたい!」って叫んでる。
「具合が悪いのか?」
「ん~っ!」
真っ赤な顔でギュッと目を瞑った彼女は掴んでいる裾を引っ張りながら首を振る。
表情が乏しすぎるから分かりにくいけど、レナードは少し困っているようだ。助け船を出してあげたいけど、ここは自分で何とかしないとあの未来には辿り着けない。
…頑張れ!ロザリーちゃん!
「…お、お腹、すいたわ。」
おお!頑張った!
「そうか。俺もだ。食事場にまだ何か残っていればいいんだが…」
馬鹿野郎-------------!!
分かってたけど少しは察してやれよ!!その高いステータスの知力は飾りか?!ホントに筋肉でも詰まってんのか?!
「ん~~~っ!!」
先ほどよりも強く振られる。
そしてフルフルと震える指で街の方を指さした。そう!そうよロザリーちゃん、頑張って!
「……街の方へ行くのか?」
「っ!っ!」
まだ目を瞑ったままコクコクと頷く。
「そうか。……なら少し待っていてくれないか?汗を流したら一緒に行こう。護衛が必要だし丁度いいだろう。」
「っ~~~~!」
ぱあっと一気に華やいだロザリーちゃん。そうだよね!そうなっちゃうよね!
口調こそ「し、仕方ないわね!」なんて言ってるけど手はしっかりガッツポーズだし、尻尾はもちろん狂喜乱舞。
ここまでは頑張ったんだから、少しくらいはお手伝いしても未来は崩れなさそう。この後レナードはきっと「リースリットも」とか馬鹿なこと言い出すから…
「リー…」
「あ~、レノっち!丁度いいところに!」
「ん?ピェグリットか。どうした?」
「いや~、実はちょっと森へ行くのにリースちゃん借りたくてさ~。いい?」
「構わんが…」
「さんきゅ!」
よし!でもこれだけだと不安だからもう一押し!
「それから、占い師的に言っておくけど……これから街に行くなら二人っきりじゃないとだめよ?」
「何故だ?」
分かれよ馬鹿野郎!
っといけないいけない。
「それは…ほら!占いによるともう悪いことが起きまくるから!ウチのオススメは冒険者ギルドの向かいにある“あのお店”が吉よ!」
そう言ってロザリーちゃんにウインク。
男嫌いでも流石にあの店のことは知ってるんだろう。急にワタワタし始めるロザリーちゃん。
「…なるほど、分かった。済まないがロザリー、俺は汗を流すから屋敷の噴水前で待っていてくれ。」
そう言い残して井戸のある裏手へと去っていったレナード。
ウチに許された限界まではやった。後は進展する道を祈るのみだけど…
「こ、ここ、これ、って……アレだよね?でもでも、ただお昼を一緒するだけだし?なんなら朝はいつも一緒に食べてるんだから特別なことなんて何も…!」
赤く染まる頬に両手を当ててクネクネと悶え続けるロザリーちゃん。
「監視!そう監視よ!街で悪さしないように私が見張るだけ!だ、だから決してアレなんかじゃ…うぅ~、でもアイツと二人っきりなんて怖くて胸が痛いよぉ~!」
とろとろフェイスで怖いとか言っても説得力はない。
本人は気付けないんだろうけど、その胸の痛みは、ただ単純に期待で胸を膨らませてるだけなんだから。食べ過ぎてお腹が痛いのと一緒。胸に“嬉しい”を詰め込み過ぎて、溢れちゃってるだけ。
ウチは今も「きゃ~!」と一人悶えるロザリーちゃんを尻目に、リースリットの元へと向かうのだった。
けど、ウチとしたことがこの時、あることを見落としていたのに気付けていなかった。
もう一人の少女が、この様子を建物の影で見ていたことを。
「ロザリー……」
お読みいただきありがとうございました。次回も甘々です。皆さんのご感想お待ちしております。
それでは、次回もお楽しみに。