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国王と対面

 昼食後にアマンダちゃんと、クリストフのおじいさんの二人に連絡を入れて段取りを整え、今はモルちゃんの上に乗ってパルテノ王都の上空を飛んでいる。

 国王直々に出頭命令が伝わっているのか、矢や魔法で攻撃こそされないが、こちらも訪問を知らせるためにわざと低空を飛んでいるので、辺境伯の城下町よりも人口が桁違いの王都は、ただ今大混乱中だ。


 今回は最初から天使の仮装をしているので、天使様! 巫女姫様! 創世竜! …と、まるで今日が大祭りのように、民衆たちのワッショイワッショイが止まらない。

 肉体的には無傷でも羞恥心で死にそうになるので、手を合わせて涙を流し、持ち上げたり祈りを捧げるのは、出来れば止めてもらいたい。

 アタシの中身は普通の村娘なので、褒め称えられるような立派な人物ではない。


 そのままキラキラとした光の粒子を撒き散らし、王都の皆に笑顔で手を振りながら、ゆっくりと王城に近づいていく。

 王様の娘さんに巫女姫の肩書を譲り渡せば、アタシの役目は終わりだ。そうすれば普通の村娘に戻れるはずだ。願望だがそうなって欲しい。


 立派な白亜の王城との距離が近くなり、城下町の民衆だけでなく城内の兵士や関係者も何事かと外に出て、皆がアタシとモルちゃんを見て畏怖、驚愕、崇拝等が広がっていく。

 そろそろ頃合いかなと考え、まずは出会い頭の拡声の魔石で自分の周囲の音を王都の隅々まで届け、ガツンと一発殴って怯ませておく。

 こういうのは最初の主導権を握ることこそが、勝負の勝率を高めるのだ。村の子供時代に近所のガキンチョどもと喧嘩していた時は、先手を取って何人も沈めてきた。


 相手は一方的に命令を聞かせる気だろうが、こっちはパルテノ国王という中年のおじさんの夜のご奉仕を回避したくて必死なのだ。相手のほうが立場が上だから喜んで従うと思ったら大間違いだ。

 アタシはそんなに物分りは良くない。嫌なことははっきり嫌だと言えるのだ。


「今すぐパルテノ王城に出頭し、創世竜の巫女姫の資格を白薔薇姫に差し出し、その職を辞した後、パルテノ国王の奉仕の役に就くことを命じる!

 …と、パルテノ国王の書面通りに参上したよ!」


 アタシとモルちゃんを一目見ようと周りに集まってきた群衆から、天使様になんと罰当たりな! 国王様は乱心されたか! 王都終わったな! ああ…巫女姫様、凄く綺麗! …などと、色々な声が聞こえてくる。

 そんなアタシを持ち上げて国王を貶す民衆たちの声に、モルちゃん鼻高々になり、いつもよりも白銀の輝きが増しているようだ。

 一方自分はこれからの交渉を考えると気が重い。


「お城のバルコニーに出てるのがパルテノ国王と…白薔薇姫かな? モルちゃん、ここは敵本陣目がけて突撃するよ」


 遠目で見る限り、国王は厚手のマントと王冠をかぶった金髪で渋めのおじさん。娘さんは自分と年が近く、美しい金髪で白磁のように白く美しい肌と、純白のドレスで着飾っている。

 村娘のアタシでは、ビジュアル面で大敗北していると見ていいだろう。


「任せておけ。キャロルには指一本触れさせぬわ」

「それは良いけど、話し合いが目的なのを忘れないでね。

 アタシの失態で、二代目巫女姫の人気が下がったら嫌だよ」


 風の魔石はアタシたちの声を拾って全自動で王都中に拡散している。今回の交渉が終わるまでは、効果が切れることはない。

 バルコニーでこちらを見上げている集団がこれから何が起きるかを理解して、驚愕の表情で一斉に固まる。

 相手がこちらを恐れるほどに、ノリノリで邪竜役を演じるモルちゃんを落ち着けながら、正面のバルコニーを目指して一直線に飛び込んで行く。


 あわや王城に激突する寸前に進路を変更し、今度は壁を登るように垂直に勢い良く上昇し、城の天辺を越えた辺りで速度を緩め、そのままゆっくりと降下していく。

 突風で髪や服装が乱れて驚きに身を竦ませるパルテノ国王と家臣や兵士たちを観察する。そんな中で白薔薇姫も驚いてはいるのだろうが、若干リアクションが薄い。

 やがて彼らのすぐ近くまで高度が下がる。


「はじめまして、パルテノ国王」

「おっ…おう、よく馳せ参じてくれた。巫女姫の忠節に感謝する」


 別にパルテノ国王に対する忠誠心など欠片も持ち合わせていないのだが、取りあえず白薔薇姫や家臣団と一緒に、足を腰を震わせながら必死に虚勢を張っているので、彼らの名誉のために黙っておく。

 アタシは小さく息を吐き、翼をはためかせて空中に待機するモルちゃんの上から、彼らをじっと見下ろす。


「それで、アタシへの要求は書面通りなの?」

「ああそうだ。だが重要な話だ。ここは風の魔石を止めて創世竜から降り、奥の部屋へ。

 そちらでワシの家臣団と共に話し合おう」

「絶対に嫌!」


 この展開は読めていた。村娘一人だけならどうとでも言いくるめられると考えているのだ。創世竜の助けがないアタシは、翼での防御手段はあるものの、非力で頭の悪い村娘に過ぎない。

 今ここでモルちゃんと離れるわけにはいかない。と言うか、別れたあとに何かあった場合、心配なのは彼らの命なのだが。


「わっ…ワシはパルテノ国王だぞ?」

「それを言ったらアタシは創世竜の巫女姫だよ? まあ中身は知っての通り、ただの村娘なんだけど」


 ここで白薔薇姫を二代目の巫女姫にすれば、アタシは晴れて村娘に戻れることになる。それでもパルテノ国王の専属娼婦は絶対に嫌なので、是が非でも交渉の主導権を譲らないため、内心では冷や汗をかきながらだがアタシも必死だ。


「もし誠実な国王なら、城下町の広場でパルテノ王国の民の視線に晒されながらでも、堂々と自分の意見を言えるよね!」

「村娘にはわからぬだろうが、王族や貴族には代々続く作法があるのだ!」


 いつの間にか調子を取り戻した国王が一歩前に進む。物理的に排除するつもりはないので、交渉事では王族や貴族の作法や謀略を知らないアタシが不利だ。

 何しろ自分では嘘や腹芸なしに、真正面から裏表のない言葉を口に出すことしか出来ない。この際モルちゃんの威を借りても、勝利をもぎ取るべきだろう。


「そんなの、巫女姫である今のアタシには関係ない! 突然呼び出されたから来ただけよ!

 もし今言った条件が飲めなければ、アタシたちは世界樹に帰る! それでも力尽くで従えたければ、戦争でも何でも起こせばいい!

 貴方個人も含めて、パルテノ王国だけでなく世界中の人間が、一人残らず死に絶えますけどね! パルテノ国王の愚かな決断のせいで!」


 息を切らして言葉を続ける、この勝負は先に一歩でも引いたほうが負ける。中でもドラちゃん以外に何の後ろ盾もなく、口先も達者ではないアタシが話術勝負では断然不利だ。

 相手は海千山千の国家間の交渉事の経験者なのだから。


「ワシを脅すのか? 創世竜の巫女姫ともあろう者が! お前はこの国の村娘だろう!

 ならば国王の命令に従え! 奴隷にまで落ちた小娘は恥を知らんのか!」

「さっきも言ったけど、今のアタシは創世竜の巫女姫よ! 今は何処の国にも属してない!

 パルテノ国王とどちらが力を持っているのかは、比べるまでもないと思うけど?」

「…ぐぬぬっ! わっ…わかった! 巫女姫の言う通り、町の大広場で会談を行おう!」


 勝った。と言ってもまだラウンド1なので、本番はこれからだ。肉体的な疲れはないが、アタシの心の中では実はかなり疲弊していた。

 今の交渉でアタシが言い負かされた場合、十中八九モルちゃんの機嫌が悪くなり、下手をすれば王都が焼け野原になっていた。

 負けても逃げても駄目で、勝利以外の道は残されていない。また心底どうでもいい所で世界を救ってしまった。


「しかし、会談の準備を行うには時間がかかる。そうだな。今日のところは巫女姫来訪を歓迎する宴を開くので、後日にまた…」

「一時間以内」

「…はっ?」

「一時間以内に会談が開かれないと、パルテノ国王の要求を全面的に拒否するから」


 ここで時間を与えて対策を練られたら、せっかく電撃作戦で勝利を掴んだのにあっさり逆転されてしまう。なので一気に畳み掛ける。

 相手が弱っているときにさらなる追撃の殴る蹴るを行い、泣くまで追い打ちをして地面に沈めるのが、喧嘩で勝つための常套手段なのだ。


「いっ…一時間以内に会談を開くことを約束しよう」

「先に行って待ってるよ。

 どんな理由であれ、会談に遅れた時点でまともに話し合いを行う気がないと判断するよ」

「ぐっ…善処する」


 これで逃げ道は封じたはずだ。バルコニーから大広場までの移動時間を考えると、今後の簡単な対応を決めるだけで精一杯のはずだ。アタシはモルちゃんに乗っているので、到着するまで一分もかからない。

 今も国王の返事を聞いた時点で、アタシは軽く頷いて彼女に大広場に飛ぶようにとお願いする。

 こうして大勢の人たちが見ている中で、伝説の天使と創世竜よりも遥かに眩く光り輝き、神々しく飛び去っていったのだった。

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