4.色仕掛けになんか負けません。
「すごいですね、さすが流民と言いましょうか。しかし、それでもその力は異常すぎる」
イルハは俺が片手で椅子の背もたれを壊したのを見て驚愕の表情を見せる。
「他の流民はこんなに強くないの?」
「転移したばかりだと私どもと大差はないと聞いております。とは言え言い伝えなので正確なことはわかりませんが」
普通はここまで強くないのか。まあ、宅配業で他の流民より鍛えているというのも加味されてるのかもしれないな。運送業は身体が資本だから仕事が終わってから会社にあるトレーニングマシーンで体を鍛えてたからな。
「もしかして、流民様は魔物を倒されましたか?」
「魔物? 緑色の化け物なら倒した」
まあ、倒したというか轢き殺したんだけど。
「そ、そうですか。倒されたのですか。何体ほどでしょうか?」
何体と言われても数など数えていなから正確な数はわからないけど100以上はいたと思う。俺はゆびを指しそちらの方に倒した魔物の死体があるはずだと伝えた。
それを聞いたイルハは急に焦りだし、護衛の者になにかを話すと護衛は部屋を出ていった。
「もしかして、倒したらいけなかった?」
「い、いいえ、そんなことは。魔物が攻めてきており厳戒体制だったもので。その魔物を倒したとなると……」
なるほど、それで正門があんなに兵士がいたのか。
兵士が出ていってから俺たちは他愛もない話をした。それで、イルハは魔物を倒したと聞いたときはかなりビクビクしていたのだが、宅配業で培った俺のコミュ力の前には笑顔で笑うしかないのだ。
まあ、その話でわかったことは、流民は基本狂暴である。そしてその力はたった一人で万の兵に値するという。というか倒す手段が物量しかないのだという。この世界の武器では流民の体に擦り傷程度しか与えられない。つまりおれが与えた包丁は流民を殺せる唯一の武器でもあるのだ。ちょっと早計だったか?
「だから、みんな流民様に怯えていたのです」
「イルハさん勘弁してくださいよ、俺ってそんな狂暴に見えます?」
「いいえ、話してて分かりますがあなたは優しい人だと思います」
「そうですよ、虫も殺せない男、小鳥遊 明斗とは俺のことですよ」と俺は満面の笑みでドヤ顔をした。イルハはクスクスと笑いそういえばあなたの名前も聞いていなかったと、緊張しすぎですねと舌を出す。ヤバイ惚れそう。
部屋のドアがノックされ先程の兵士が入ってきてイルハに耳元で囁く。
「そうですか、ご苦労様です」
兵士は会釈をし石板をイルハに渡し部屋を出た。
「兵からの報告によれば大量のゴブリンの死体が発見されたそうです」
なるほど、あれがゴブリンと言うやつか実物と絵じゃ全然違うんだな。正直アニメや映画のゴブリンはあの怖さを1割も出せていない。
「申し訳ありませんが、この石板に手をおいていただけますか?」
そう言うとイルハは先程の兵士が持ってきた石板を俺の前に置く。俺は言われるがまま石板に手を置いた。信頼関係は行動から得られるものだ。相手をうたがっていたらいつまでも信頼関係を結べない。
石板の上には数字が現れたが読むことはできなかった。ペンダントは言葉は理解させてくれるが文字はダメなようだ。
「すごい、13,684匹も倒されたんですか」
「1,3684匹? 分かるんですか」
彼女が言うにはゴブリン一匹につき1ソウルエナジーが手に入るのだと言う。もちろん強い魔物ならそれに合わせた量のソウルエナジーになるらしい。と言うか1万匹もいたのか。
「ソラリス王国の危機を救っていただきなんと言って良いか」
イルハは日本式のお辞儀をして俺に頭を下げる。何でも本当は色仕掛けで俺をこちらの陣営に率いれ魔物を倒させようとしたらしい。なるほどそれでこんなにエロい服装なのか。おっさん危うく悩殺されるところだったわ。まあ、少し残念ではあるが。
「良いですよそんなにかしこまらなくても。俺も助けようと思って助けた訳じゃないですから」
「ありがとうございます」
イルハはそういう俺に再度お礼を言う。正直胸があれだから目のやり場に困る。
「それでアキト様はこの国に帰属していただけると言うことでよろしいのでしょうか?」
「ええ、お願いします。ただ兵士として働くには技術もありませんし難しいとは思うのですが」
「ご謙遜を、1万以上の魔物を屠った方の言葉とは思えませんわ」
俺が冗談を言っていると思っているイルハはクスクスと笑う。まあ殺したのは本当だけど、俺の力と言うよりトラックのお陰だからな。それでも俺がやったと言うことにした方が後々良いのかもしれないと思いそれ以上否定するのはやめることにした。