06 リスポーン
仔犬を庇いながら「魔力が凝縮されていく怪現象、その実態がついに明らかに!」・・・なんてナレーションを、頭に浮かべながら観察していた。
魔力や魔法に関わる事なんて、まだほとんど分かっていないのだ。
ならば学べそうな機会は積極的に学ぶべきだよな?
・・・ただの『好奇心』や『野次馬』的な興味では無いからな?
まあ、ここまで実体化している以上、いきなり暴発したりと、いきなり危険になったりはしないだろう。
「いざとなったら逃げれば良いだけだろうし・・・って、まずいっ!」
逃げる準備はちゃっかりして安心していたのだが、ちょうど怪現象の起こっている真下辺りに肉を埋めていた事を思い出した。
一晩掛けてゆっくりと蒸らすように、そしてパサパサになり過ぎないようにと、魔術でコーティングを施した特製料理。
それを味見もすること無く諦めるのは惜しい。
かと言って、下手に今手を出すと何が起こるか分からない以上、様子を見るしかないか。
「まあ、予想通りならすぐ排除出来るだろう。」
魔力が集まり、何かが実体化する現象といえば、召喚や転移系の魔法、それでなければモンスターの発生、『リスポーン』とか言われていた現象だろう。
前者であれば、便利な魔法のヒントになる可能性が高く、後者であれば魔物の発生地点の特定、つまり危険地帯を避けるのに役立つのではないか?
転移にしろ、モンスターの発生にしろ、相手が出現して状況を把握しないうちにこちらから先手を打てるだろう。
オンラインゲームではそれを利用した技、『リスポーンキル』という物があったが、これは、出現した直後に殺すハメ技の一つだった・・・プレイヤーが復活した直後に殺す、主にPKが使う技としても有名だった気もするが。
「幸い、極端に魔力がある訳では無いし、何とかなるか?」
観察を続けていた怪現象は一瞬光ったかと思うと、「ピチャン」という音と共にあっけなく終結した。
後に残ったのは水溜まりのようなドロドロの魔物が一匹。
「って、やっぱりスライムか。」
考えてみれば、当たり前の事なのかもしれない。
この場所は巨大スライムが居た場所であり、オンラインゲームのリスポーンも倒したモンスターと同族が出てきたはずだしな。
この場所は恐らく、スライムが発生しやすい場所なのだろうと、納得しかけたが、いくつか疑問が出てきた。
「一つ目は、大きさや魔力の強さだが。」
これはまだ説明がつくと思う。
恐らくだが、先の巨大スライムは、こいつのような小さいスライムが時間を掛けて魔力を蓄え、成長した姿なのだろう。
どれくらい時間が掛かるかは分からないが、手に負えない脅威になるまで少なくとも数日は掛かるだろう。
一晩とか短時間で急成長するには、成長に必要な魔力が足りなすぎる。
「二つ目は、属性も違っていないか?」
巨大スライムはほとんど水属性の魔力しか持ってなかったのに、目の前のこいつは水属性が多めとはいえ、他の属性もそれなりにもっているようだ。
更に不思議な事に、こいつは焚火の横でも平然としているように見える。
巨大スライムは火属性を嫌っており、強い火属性を近づけると白煙と共に少しだが溶けていたが、こいつにはそんな雰囲気は感じられない。
「もしかして、耐火能力が上がったのか?」
害虫とかを殺虫剤で退治していると、殺虫剤が効かなくなることがある。
これは殺虫剤に強い個体の遺伝子が遺伝して、次世代以降、どんどんと殺虫剤に強い個体に進化しているからだと言われているが、もしかして同じ事が起こっているのか?
もしそうだとすると、地球上の黒いアイツ並みの脅威になるのだろうか?
いや、小説やゲームではアイツ以上になんでも食べるスライム、そして何よりも進化が早すぎるこいつはそれ以上の脅威になるだろう。
「幸い、核を抜き取る方までは防がれていないようだが。」
このスライムの半透明な体にも、小さいとは言え核が存在し、しかも体が小さいので核を抜き取るなり、壊すなり容易にできそうだ。
ただ、あの巨大スライムの核はほとんど動いていなかった気がするのだが、こいつの場合、核がやたらと動き回っている。
もし、手が届かない位の大きさに成長し、しかも核を自由に動かせるままだとしたら少しやっかいになる可能性が出てきた。
大きくなると動かなくなるのかもしれないが、魔力の質や属性の違いから別種族の可能性も高い今、油断しない方が良いだろう。
「で、最後の疑問だが、お前、今何をした?」
このスライム、出現した直後は水溜まりの様にほとんど高さもなかった。
やがて、ゆっくりと広がるように移動したのだが、急に一か所に集まったかと思うと、今はガラスの上に落とした一滴の水のように丸く盛り上がった形になっている。
そして、心なしか魔力や体積が増えた気もするが、成長でもしたのか?
だとしたら、なんでそんな急に成長したり出来るのか?
気になるのは水が集まるように寄っていく直前、一瞬だがスライムの周囲の魔力が高まり、その時にスライムを中心とした幾何学模様のようなものが確かに見えていた。
「とりあえず、まだ動かないでくれよ?」
今は大人しくしているから良いが、襲って来たリ、暴れるようなら脅威になる前に排除した方が良いだろう。
とりあえず、大人しくしている間に原因が分からないと、ここに留まる事が出来ない。
何しろ寝ている間にまた発生、更に急成長をして襲われる可能性がある場所で呑気に寝ていられないだろう。
となると、疲れている体に鞭打って、危険な密林を夜通し移動する羽目になる。
「スライムが成長する基って何だ?」
ゲームや小説ではスライムはなんでも食べる魔物の一種、そして魔物の成長の基といえば・・・魔力しか考えられない。
ゲームや小説でも瘴気や魔力を取り込んで成長する物が多かったと思う。
瘴気は魔力に汚れが付いたような物だし、広義では魔力の一種、それにここにはそれほど瘴気は残っていなかったので、狭義でも魔力という線が濃厚だ。
だが、魔力を吸収して成長したとするにも疑問は残ったままだ。
確かにここは他のところより魔力濃度が高かったが、それもこいつが出現するまでの話だ。
こいつが出現する時に、周囲の濃い魔力を取り込んだせいか、今では周囲とほとんど変わりが無い。
それなのに成長したのだとしたら、その増えた体積と魔力はどこからきた?
「ん?さっきから動かないと思ったら、核まで止まっているのか?」
スライムは水滴型になってからほとんど移動して無かったとはいえ、表面は波打つように動いていた。
それが今や、表面の揺れはおろか、さっきまで活発に動いていた核すらも全く動きを止めている姿は心なしか辛そうに見える。
観察するには良いのだが、さっきから自分の下を意識しているように見える。
スライムの半透明な体越しに観察してみると、あるのは何の変哲もない地面と、さっきまで加工していた穂先か?
ここからではスライムの体越しでちゃんと見えないが、端が丸まり、一回り小さくなっていないか?
「ちょっとそこをどいてくれると助かるんだけどな。」
気になったので、手に取って観察したくとも、スライムが邪魔で思わずぼやいてしまったのだが、スライムは名残惜しそうにしつつもゆっくりと脇に退いた。
本当聞き分けが良いこの姿を、どこかのツンデレさんにも見習って欲しいものだと、傍らで寝そべっている仔犬の方を振り返った。
さっきまでは一緒に目の前のスライムに警戒していたのだが、今はほとんど警戒を解いて気怠そうにしていやがる。
「まあ、良い、今はこっちの検証がさきだな。」
穂先を取り上げ確認してみたが、鋭く削った端は丸まっており、全体的に溶けて一回り小さくなっていた。
多分だが、岩ごと魔力を溶かして取り込んで成長したのだろう。
まあ、この穂先は作り直した早いし、これくらいなら脅威にはならないだろう。
「こいつ、いるか?」
ダメになった穂先をスライムに差し出すと、喜んで穂先にまとわりつき、味わうかのようにゆっくりと取り込み始めた。
その食べるさまを見ていると、オンラインゲームをしていた時に飼っていたスライムを思い出す。
そのゲームではスライムは別名『動くゴミ箱』とも言われ、自分のような一部の生産職にとって強い味方だった。
何しろそのゲーム、生産職は苦行とも言えるくらいスキルを上げるのがつらく、修行中は足の踏み場どころか物がおけなくなるほどゴミや失敗作を作りだしてしまう。
ゴミを片付けないと、次の物が作れず、ゴミを片付けるにも普通は手間か時間が掛かるという仕様だったので、なんでも、そしていくらでも食べてくれるスライムは本当重宝した。
それに自分が移動すると、遅くても懸命に追いかけてくれる様は愛着が湧いていた。
「って、なんでそう思うんだ?」
さっきから何となくこのスライムの感情が分かる気がしていたのだが、表情どころか、顔もどこにあるのか分からないのになんでそう思ったのだ?
もしかして、ゲームの様に調教が出来るのか?
あのゲームでもテイムしたペットは、ある程度感情が分かり、意思疎通も出来た。
と、ここまで考えたところで、やけに聞き分けが良かった事に思い至った。
「もしかして、言葉が分かるのか?」
結論から言うと、言葉を認識しており、どうやら既にテイムしている状態だった。
ただ、明確な指示には従うが、質問に回答する術が無く、ただ曖昧な感情のような物が分かるだけだった。
会話はともかく、出来たら「はい」と「いいえ」位は分かるようにしたいな。
「はい、なら縦に一回、いいえ、なら横に二回震えられる?」
――プルッ
どうやら簡単な教育は成功したようだ。
それにしても、厄介ごとは今度こそ打ち止めだよな?
代わりに色々と疑問が増えて、考え事で寝れなくなりそうな気はするけどな。
まあ、諸々の疑問はゆっくり考えていけば良いかと思い直し、スライムに餌付けをしながら夜は更けていく。
やっとここまで書けたけど
何時になったら人里に出れるのだろう?