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神眼のトラブルトラベラー   作者: sasa
1 大森林 ~サバイバル編~
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04 群狼

 スライムの核を回収しに森の奥に向かったのだが、予想通り、また面倒になりそうな状況に思わずため息をつきたくなる。

 目的のスライムの核は少し地面に埋まって汚れているが、今のところ暴発や復活の兆しも無く、安定しているようだ。

 問題は核の前で、立ちはだかる一匹の狼系の魔物、少し汚れているが、体毛は白く、大きさも大型犬に近いサイズもある。

 魔物らしく、鋭くて長い爪や牙、そしてかなりの魔力を持っているようで、なかなか強そうだ。

 それだけなら、ちょっと面倒だけど勝てない相手では無いんだが、問題は顔つきが、どう見ても仔犬の感じが抜けていない事だ。

 しかも、今まであった魔物は出会うとすぐに襲って来たのだが、こいつは警戒はしているものの、すぐには襲ってこない。

 大きさを考えなければ、じゃれついてくる仔犬にしか見えない相手に、どうしても攻撃がためらわれる。

 隙をみて核を回収するにも、察知能力や反応速度がやたらと素早く、それも難しそうだ。


 「えーと、そいつは俺のなんだけど、返してくれないかな?」


 ダメ元で声を掛けてみたのだが、やはり譲ってくれたりはしなかった。

 だが、意外な事に、声を掛けた直後に小首をかしげる動作をしていたのだが、愛嬌たっぷりで、尚更攻撃がためらわれる。

 時間があったら飼いならして可愛がりたくなるが、そんな時間は残されていないようだ。


 「お仲間が到着するのを待ってたのかな?」


 先ほどから近づいてきていた魔物の数は5匹、いずれも狼型の魔物だ。

 しかし、目の前にいる奴と違い、体毛は暗い茶色、大きさも全然大きく、ライオンを一回りも、二回りも大きくしたサイズだ。

 この仔犬の仲間かもとも思っていたのだが、こうやって見比べてみると、体色はもちろん、魔力の質も強さも違っており、やはり別種族だったようだ。

 そんな風に観察している間に、狼達はこっちに3匹、残りが仔犬の方をと攻撃目標を定めたようだ。

 自分が観た感じだと、1対1であれば仔犬の方が強そうだが、宿している魔力の属性の違いや体躯の差から複数相手にするのはちょっと分が悪そうな気がする。

 魔力の質や強さ、動きの速さでは圧倒的に仔犬の方に分があるが、仔犬の牙や爪では場所を選ばないと対してダメージを与えられないだろう。

 素早く各個撃破か、上手く連携を乱れさせないと追い詰められて、力で押さえつけられる可能性がある。


 「まあ、危なくなったら対処すれば良いか。」


 仔犬を見捨てるつもりも無いので、さっさと自分の分を終わらせて見守ってやろう。

 とりあえず方針が決まったので、狼達に向けて隙をみせるように一歩踏み出すと、タイミングを伺っていたのか、一匹が首目がけて襲って来た。

 しかも、残りの奴らも連携し、足元と死角に回り込んで同時に攻撃してくるなんて、中々上手い攻撃だった。


 「キャン!」

 「ガァ!」

 「・・・」


 まずは首に飛び込んで来た奴には拾っていた小石を親指ではじいて飛ばす技、『指弾』によるカウンターを左目に決め、足元に来た奴は踏み抜くように首をへし折り、ついでに最後の一匹の首を肘と膝で挟み込むようにして潰した。

 決着は一瞬で、後に残ったのは頭蓋骨や頸椎を折られた狼二匹と、左目と脳が潰された一匹と、ほとんど出血も無い、綺麗な死体だけ。

 戦闘事態は簡単に終わったが、やっぱり複数を同時に相手をするのは緊張する。

 どんなに身体能力が高くても、同時に対処出来る数は限られるし、攻撃した直後には隙が出やすい。

 今回は半数近く引き受けてくれた奴がいるので、随分楽に終らせることが出来た。


 「もうちょっと待っててくれよな?」


 今回の功労者の方を確認すると、二匹を相手に攻めあぐねているものの、まだ平気そうだ。

 その間に今回の獲物が痛む前に、そして、今のうちにスライムの核も回収しておかないとね。

 基本的に自分が倒した相手は無駄にせず、大抵食べている。

 その時に気づいた事だが、魔力が多くこもっている物ほど美味しくなりやすい。

 魔力そのものには味が無く、鉱物とか普通食べないような物だとこの法則は適用されないが、果実や肉など、ほとんどの食材は美味しくなった。

 今回もそこそこ魔力がこもっている肉が手に入ったので、今日はちょっとしたご馳走を食べれると、ホクホクしながら確保した。


 「お待たせ〜って、もったいない!」


 仔犬は善戦しているようにみえたが、やはり体躯と数、そして経験の差が出ているようだ。

 狼達は一匹が傷を負うのも気にせずに追い詰め、もう一匹が移動先を潰すようにけん制を繰り返しており、仔犬の行動範囲を確実に狭めていた。

 やり方によっては、充分勝てそうなのに、という意味もあるが、それよりも問題は素材が痛む。


 生物の体内に宿る魔力は水分や血液にも溶け込んでおり、傷を負った箇所は魔力は『汚れ』が付き易い。

 この汚れがついた魔力は『瘴気』と言われるものらしく、この瘴気となった魔力は傷口を中心に広がって血肉に溶け込む。

 そして瘴気が多い箇所は傷みやすく、味も落ちたりと、良い事が一つも無い。

 獲物を美味しく仕留めるには、なるべく一撃で、仕留めた後は血抜きならぬ、瘴気抜きをして、なるべく綺麗な魔力だけにした方が良い。

 それに、皮もボロボロになったら素材としてももったいないしね。


 「・・・やっぱ、我慢出来ん!」


 窮地に落ちるまでは、手を出すのは控えようと思っていたが、素材がダメになっていくのに我慢できず、気が付いたら手を出していた。

 狼達は仔犬を追い詰めるのに夢中だったようで、隙をついておなじみの指弾と、手刀で頸椎をへし折るだけの簡単なお仕事でした。

 そして、今目の前には狼の死体二つと、何故か固まっているように動きを止めた仔犬が一匹。


 「一匹は分けてやるから簡便な。」


 にらめっこを続けているわけにもいかず、倒した二匹のうち、大きい方を仔犬の前に放ってやった。

 大きい方が傷も多く、それだけダメージを与えた相手から奪うのは悪いしな。

 決して、傷みやすい方を譲ったわけじゃないぞ?

 それなのに仔犬の奴は、匂いを少し嗅いだと思ったら、獲物に見向きもしなく、こちらを見つめていた。


 「いらないんだったら、もらっちゃうぞ?」


 別な種族とはいえ、同じ狼系の魔物同士、やっぱり共食いになるから食わないのかな? そのまま捨てていくのはもったいないので、こいつはさっさと食べてしまおう。

 となれば、まずは血が固まる前に血抜きと瘴気抜きを行う事にする。


 血抜きは頸動脈など、大きな血管に切った後、流水にさらしたり、傷口を下にして吊り下げる事で余計な血を抜く。

 そうしておかないと、血液は傷んだり、酸化し易く、肉の味が落ちやすい。

 自分の場合はその血抜きをする時にちょっとひと手間加えるようにしている。

 傷をつけた血管の心臓と逆の方の血液に自分の魔力を乗せて押し流すイメージで魔力を込めておく。


 するとどうでしょう、流れが滞っていた血液が勢い良く流れていくではありませんか。 瘴気も浸透する暇も無く一緒に流れ、更に元々こびりつくようにあった瘴気も綺麗な魔力に押しのけられて血液と共に流れていきます。

 もう、瘴気だらけだった肉はどこにもなく、綺麗な魔力をたたえたお肉の塊です。


 ・・・なんてどこかの匠の技をイメージしながら血抜きと瘴気抜きをしていた。


 「ん?やっぱりこいつが欲しいのか?」


 さっきまで興味なさそうな様子だったのだが、いつの間にか俺では無く、血抜きをしている獲物の方を、それも今にもよだれを垂らしそうな雰囲気で観ている。

 食べれるのだったらそのままあげても良いのだが、せっかくここまで下ごしらえしたのだし、どうせなら調理して、一緒に食べる方がより美味しくなるよな?


 「ちゃんと分けてやるから、ちょっとだけ待っててな?」


 火を使った調理をしようと思っているので、開けている場所に移動した方が良いだろう。

 それに、崖下のあの場所には別の理由で気になる事もあったので、どちらにせよ戻るつもりだったしな。


 あの場所はスライムを回収した後も魔素のバランスが極端に偏っていたし、他のところよりも濃かった気がする。

 あれが巨大スライムの影響が残っているだけなのか、それともあそこに何かあるのか確かめておきたい。

 やる事が決まったら即行動。ということで、獲物を担いで早速戻る事にした。


 「場所を移すからついて来てね?」


 仔犬はまだ完全には警戒を解いていないようだが、大人しく一定の距離をおいてついてくる。

 慣れてくれたら、あの気持ち良さそうな毛並みをなでたり、モフモフしたりしたいのだが、今はこれで良しとしておこう。

 それよりも、あの狼達はまるで軍隊か何かのように、連携が上手だった気がする。

 今後、もっと大きな規模の群れ、それも群れを統率するリーダー格が狩りを統率するような奴らに遭遇した場合、困る事になるかもしれない。

 もっとも、やすやす負けるとは思わないが、対策は考えておいた方が良いだろうな。


 「とりあえず、すぐに食事を作らないとな。」


 思わず考え事に耽って歩みが遅くなっていたが、先ほどから後ろからの重圧が大きくなってきている気がする。

 あまりお預け状態にしていたら、怒らせてしまいそうなので、急いで食事の準備をしないとな。


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