01 転落
ROM専が妄想のままに見切り発車^^;
ごく普通の人が異世界の人里離れたところに転生・転移したらチートあっても生きていけるのだろうか?という疑問から生まれた話。
転生前後の話や設定についてはおいおい語られていく予定で、やっと人里近くまでたどり着いたところから話は始まります。
「良い天気だなぁ・・・空が高い。」
仰向けで見上げるとどこまでも青く、雲一つ無い晴天で、見ていると吸い込まれそうな空が広がっている。
背面から吹き付ける風が少しばかり強いが、日差しは強すぎる事もなく、柔らかで温かく、こんな状況でなければ昼寝をしたくなる・・・そう、こんな状況でなければだ。
横になって空を見上げているのに背面から風が吹き付ける状況を想像してもらいたい。 細い足場や網の上で寝転がっているのだったら良かったのだが、残念ながらここは秘境と呼ばれる前人未踏の大森林の奥深く。
少し前まではそんな大森林を見下ろす断崖絶壁の上にいたのだが、崖の下を覗き込んでいたら、足場がもろくなっていたのか俺を乗せたまま崩れてしまった。
「下までざっと150メートル位はあったし。普通だったら詰みなんだろうけどな・・・」
崖はオーバーハングになっており、底まで途中に障害物は無い。
底は上から見た限り小さな水溜まりに見えたが、実際はかなり巨大な水の様な何かだった。
例えただの水だったとしても深さは精々10メートル程度だろうし、この高さの前ではあっという間に底に激突するのがおちだ。
そもそも40メートルの高さから落下した場合、水面もコンクリート並みの硬さになると聞いたことがある。
高飛び込みの世界記録も50メートル前後だったはずだし、100メートルを超えて生還した例は聞いたことが無い。
つまりどうあがいても助かる見込みは無い。ここが現実世界の地球上であればだが。
「現実らしいけど、ファンタージな世界への異世界転生、それもチート付きね・・・」
この世界に来てすぐ、異世界だということは思い知らされた。
正確には夢かゲームだと思い、正直最初のうちは浮かれていた。
漫画か小説にしか存在しないと思っていた異世界転生、それもチート付きだぞ?
日本に住むごく普通のおっさんが、気が付いたら森の中で子供の頃の体になっているだけでも驚きだが、チートな力に気づくたびに驚きを通り越してあきれる程だった。
「どう考えても子供の頃の体になったからでは説明つかないんだよな・・・」
体重が100キロを軽く超す巨体が3分の1以下になったので身軽になったのはわかるが、それでも軽くジャンプしたら数メートル跳んでしまったのは明らかにおかしすぎる。
おかげで少し上にあった枝に飛びつくつもりが、目測を誤り、ずっと上の太い枝に首から突っ込んでしまいパニックになってしまったのは秘密だ。
その後、暴れておかげで枝ごと落下し、軽い衝撃や落下中に当たった葉っぱの感触は感じたものの、傷どころか痛みも無かった。
数メートルもの高さから受け身も取れずに落ちたのにだぞ?
ゲーム風にいうなら『筋力up』『敏捷up』それに『防御力up』もしくは『耐衝撃力up』になるのか?
まあとにかく、この体が無ければ3日と経たずに詰んでいただろう。
何しろこの世界、もしかしたらこの森が特殊なのかもしれないが、ほとんど全て物が巨大で、特に動物や昆虫は凶暴すぎる。
「世界一の木ってセコイアだったっけ?」
記憶が確かなら地球上で最も高い木はアメリカのセコイアと呼う杉の木で、150メートル位になるものがあるらしいが、それをはるかに越す高さの木々が何本も視認できた。
動物の方は大きくなった分だけ鈍重になったのなら良かったのだが、動きは却って俊敏になっている気がする。
しかも、捕食側であるはずのウサギや鹿といった草食動物も攻撃的で凶悪に進化しているようだ。
「麻痺毒を持った一角ウサギに切れ味が鋭い剣鹿に、歩いて捕食する木までいるしな・・・」
どれもUMAと呼ばれる生物としてや神話にあったような動物が聞いた以上に凶悪になって跋扈しているような世界にチート無しのひ弱な体だったらどうなっていたことやら。
ちなみにチートな体についてだが、それ以上にチートだったのは『眼』だった。
元の世界では中学生位から急激に悪くなりはじめ、『近視』『乱視』『斜視』『不同視』と診断されたくらいひどかった。
更に20代で進行性の『網膜剥離』になり、40代で軽い『老眼』まで併発したものだから眼鏡が必須どころか眼鏡があってもまともには見えていない位目が悪かった。
それがこの世界で目を覚ました時は眼鏡が無いにも関わらず、物が良く見えた。
いや、見えすぎて逆に見えなかったというのが正しいか?
何しろ、普通の視界に暗視カメラの映像のようなモノクロ画像や、サーモグラフィーのカラフルな映像なんかを全部一つに重ねた状態をいきなり見せられてみろ。
しかもそれだけでなく、『魔素』だの『霊素』だの訳の分からないものまで重なって見えていたからついに目が見えなくなったのかと勘違いしてしまった。
ちなみに今わかっているだけで普通の視力の他に前述した『暗視』、『熱源視』、『魔力視』、『霊視』それに加えて『俯瞰視』に『拡大視』と『透視』も制限があるようだがあるようだ。
それぞれの能力は加減が難しく、使いこなせていないが、なんとか個別にオン・オフを切り替えられるようになったのでやっと行動する事が出来るようになった。
なお、魔素とは魔法の基となるものらしいが、残念ながら魔法はまだ使えない。
霊視も幽霊をでは無く、特定属性が結合した『精霊』と言われる存在を視る能力のようだ。
この『精霊』とは魔法をブーストする存在らしいが、どのみち魔法を使えないので、今のところ魔力視も霊視も直接的にはあまり役に立っていない。
もっとも、認識出来る事で自分の体とその周囲の魔素を制御する魔法もどきを身に着ける手助けにはなった。
「と、そろそろ終点だな。」
もう間もなく水属性魔力の塊のような何かに到着するので、落下の衝撃に備える事にする。
まず、反応速度や思考速度を高める『風属性』を、自分の体と衣服の硬度を一時的に高める『地属性』、落下の衝撃に耐える力を上げるための『火属性』、最後に衝撃を逃がし、タフにするために『水属性』と、認識している属性に変質させた魔力を身にまとって衝撃に備えたのだが・・・
――ピチャン
「へっ?」
想像していた程の衝撃もせず、逆に情けない音と共に水のような物の底に到達していた。
周りを見渡すと、自分を中心に水のようなものが周りに吹き飛び、高い津波のようにそそり立っていたが、粘性が高いようで、ゆっくりと周りの液体に溶け込んでいった。
「池に水棲の魔物でもいるのかと思ったら池そのものが魔物ってそんなのありか?」
思わず文句を言っても相手は言葉も通じない水のような魔物、巨大な『スライム』は引き下がってくれる訳も無く、ゆっくりと包囲を狭めてきた。
スライムというと某国産RPGでは初期に出てくる雑魚キャラというイメージがあるが、こいつは海外のRPGに出てくるような衝撃無効に近い厄介なタイプらしい。
こんな時ゲームや小説なら対抗する属性魔法や武器で攻撃するか、制御コントローラーである核を槍のような長柄の武器で破壊するのだろうが、この巨体を焼き尽くすような火も奥深くに見えている核に届くような武器も無い。
「今度こそ詰みなんていうなよな・・・」
落下から助かったもののまたもや窮地に陥ったようだがそれでも素直に諦める気は無い。
精々最後の最後まであがくとしますか・・・・
角ウサギ=UMAのジャッカローブ
剣鹿=北欧神話だったかに鹿の角で戦ったという話から
歩いて捕食する木=実在するウォーキングプラント、但し移動は年に数センチ