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割れた卵  作者: 徳光 小唄
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03 小動物

「しっかりつかまっとけ。振り落とされるなよ?」


「わかってるって…ってうぉおお」


起き上がった彼の上で言われた通り振り落とされないようにうろこに手をかけてたが振動に思わず声を上げてしまう。

バランスを崩してしまいそうになったが彼のうろこに指をかけて何とか体制を持ちなおす。


「---------」


これもついでにやるともらった厚手のカバンの中からちみっこが顔を出してちろちろと下で顔を舐めてくる。


「こ、こら、くすぐったいからやめろって!」


「ふむ、なかなか余裕そうだな。それではいいな?」


「はい、よろしくお願いします!」


ズシンズシンと彼が洞窟の外に向けて歩き始めるとそれに合わせて小規模な地震が起きる。

背中に乗っているとしかし意外となぜか安定した。


「ま、まぶしい…」


彼に出て行けと言われてそれから早二日。

そのあいだはゆっくりと体を休めることができた。

と、いうよりもこれほどゆっくりし過ぎで本当にいいのだろうかと思ってしまうほどだった。

しかし、なぜか彼は今日になるまで外に出ることは一切認めてくれなかった。

洞窟の入り口に近づくのもだめだと言われたほどだ。


「飛ぶぞ。…おい、手を離すな、振り落とすぞ?」


反射的に手を太陽に掲げていたのでそれを注意された。


「わかりました…っと、これでいい?」


「あぁ、しっかり握っていろよ?それと、ちゃんとゴーグルもつけろ。目をやられるぞ」


彼からのプレゼントは水食糧笛から始まり、どこからとってきたのか衣類にまで及んだのだ。


『あぁそうだ、余っていたからこれもやる』


といって何度も”おなさけ”を渡されるうちに僕の服装はどんどんより砂漠に適応した格好になっていった。


今では帽子もかぶってできるだけ肌の露出の少なくてなおかつ通気性もいい格好をしている。

てっきりファンタジー然り魔法の衣類かと思ったが


『魔法?なんだそれは』


と、彼はそもそも魔法というものを知らなかったみたいだ。




「ほら、ちーちゃんも鞄に首を引っ込めな」


そして、いつまでもちみっこと呼ぶのも何だったので件の子竜にはちーちゃんという名前を付けた。


まんま『ちみっこ』からの引用だったけどちーちゃんはとてもうれしそうだった。

ちなみに、ちーちゃんとつけているがこのちみっこが女の子なのかどうなのかはいまだ不明だ。


彼曰く

『私たち竜は何年もたってから生殖器が発達するからな。それまでそれが雌なのか雄なのかなのかは判別がつかん』

とのことだ。


彼にも名前を聞いてみたのだけど最後の最後まで結局教えてくれなかった、




「いやー、しかしすごい眺めだねこりゃぁ」


雲を背後に追い抜き風で飛んでいきそうな帽子を必死に抑える。

けれど、目線だけは前後左右ときょろきょろしっぱなしだ。


「おい、あまり動くな。落としてしまっても私は知らんぞ!?」


「大丈夫大丈夫!」


ほら、と言わんばかりに帽子を押さえていた片手に加えもう一方の手も放して万歳して見せる。


「だから、手を離すなといっているだろうが!!」

急にスピードを彼が落としたせいで慣性にしたがって彼の硬いうろこに鼻を思いっきりぶつける。


「だ、大丈夫か?」


「大丈夫大丈夫!」


空を飛ぶというのがこれほど気持ちいものだったとは。

高揚した今の気持ちでは鼻血なんて何のそのだ。


幸い鼻血こそ出なかったが絶対に赤くなっているだろうなと思うほど痛かった。


「------------」


ちーちゃんも鞄から首を出して外を眺めている。

時たま隣に近づく雲に首を突っ込んでは不思議そうな顔をしてこちらを見つめてくる。


「それは曇って言って触れないんだよ」


「-------------?」


なんて説明したけどやっぱり理解なんてできるわけもなく何度も雲に顔を突っ込んでそのたびに僕の顔を舐めて来る。

触れないのがそれほど不思議なのだろうか。





「それじゃ、お世話になりました」


さすがに街の真ん中に竜が突然現れたらパニックになりそうだったので近くの砂漠の中に浮かんでいたオアシスで下してもらった。


先ほど空から見た町までは歩いてしばらくかかりそうだったが、なに今僕のバックの中には水分もあれば食料もあるし、お金もある。


今は人通りはなかったけど馬車も通るみたいで草に車輪の後もあるから運が良ければ拾ってもらえるかもしれない。


「何かあれば笛を吹け。気が向いたら助けてやる」


それだけ言うと彼は颯爽と空へと旅立っていった。


(…わかりやすいなぁ)


それはそれとして、こちらもそろそろ行動をしないと日が暮れてしまいそうだ。


「よし、とりあえずは野営の準備しようか」


「--------」


水場の近くに行き、今日限りのベットになりそうなものがないか探す。

場所の選択はただ何となくだけど、近くにいい感じで枕になりそうな木の枝があったのでそれを拠点にはこぶ。

そのあいだちーちゃんはといえば水たまりの中で嬉しそうに跳ね回っていた。


「ほら、そろそろこっちにおいで」


それが日が暮れるまで続いていたのだから元気なものだとおもったのだが、やっぱり遊び疲れたのかすぐにこっちによってきて隣で丸くなってしまった。


「ふぁあ、僕も寝ようっと…」


砂漠といえど夜はとても冷えるとのことだったので砂の中に穴を掘ってその中で眠ってみることにした。

昼間の熱が残っていたのか砂の中は夜でもあたたくてまるで湯たんぽのようだった。


------------------------------------


ザッざっと、人の歩く音が聞こえて目が覚めた。

あたりを見回してみてもいまだ夜なので遠くまでは暗くて見えないが、何かがいる、という気配だけがわかった。

別にそれは僕が何かブドウの達人だとかそういうわけではなくて、湖からごくごくと水を飲んでいる音が隠す気配もなく聞こえてきていたからだ。

むしろ、ちーちゃんはといえば僕が起きる前から気が付いていたらしく目をらんらんと光らせて音の発生源のほうへ首を向けている。


(誰だろこんな時間帯に…)


昼間に寝床を探すついでにあたりを見回ってみたけど確かに誰もいなかったはずだ。

しかも、足音は水を飲んでいる方途は別の場所から聞こえてくる。

幸いにしてこちらに向かっている様子はないけど、なんだか嫌な予感がする。


「少し静かにしててな…」


しーっと指をあててちーちゃんに訊かせると分かったとでもいうつもりなのかゆっくりと首を縦に振る。

ふむ、なかなかに愛嬌のあるやつだ。


(さて、とりあえず私もここから出ないと…)


砂の中に埋まっていたのでまずは体を出さないともしもの際逃げることもままならない。


(うわ、服の中まで砂まみれだよこれ)


口には出さないように、でも心の中で精一杯の悪態を砂にこぼす。

ーそもそも砂の中にもぐろうというあほな考えを出したのは己自身だったのに。


(よし、とりあえずすぐに逃げる用意はできた…どうするかね)


今はこちらに気づいていないようだが今動けば相手が気づく可能性もある。


(とにかく今は相手の動きの観察かな)

いま歩いている人あるいは水を飲んでいる人がとっても優しくて親切で面白いところに連れて行ってくれるかもしれないのだ、できる限りかかわりたくないしそんな危険犯したくもないし、巻き込まれくない。


さて、どう動くか。

足音の主はどうやら水場の近くまでたどり着いたようだ。

しかし、相変わらず水を飲む音は断続して聞こえる。

ということは二人は仲間なのだろうか。


「んーーーーーー!?」


と、思ったその瞬間、水を飲んでいたほうが歩いてきた人に羽谷いじめにされていた。

あれはどう見たって仲間同士でするような行為でもまた雰囲気でもない。


(ちーちゃん、今のうちに逃げるぞ!)


逃げるが勝ちだ、かからわないことに越したことはない



そして、逃げようとしたそのやさき、ちーちゃんは思わぬ行動に出たのだった。



(なんでそっちに行くんだよ!!)


しかも、まるでなんで君は来ないのかと言わんばかりに一歩先でこちらを眺めてくるのだから得体が知れない。

本当に、これはいったい何を考えているのだ、と。


しかし、なぜか僕にちーちゃんを置いて逃げるという選択は思い浮かばなかった。

ちーちゃんがそっちに行きたいというのならば、気は進まないが仕方がないという気持ちだ。


とにかく、探索中に見つけたいい長さでいい太さの木の枝を手に持ち、ちーちゃんの後をそっとつける。

そうして気配を出来得る限り消しながら水辺に近寄ればそこから声が聞こえてきた。


「よーしよしよし、そのままじっとしていてくれよ…」


それは人と人が話し合うような声ではなく、炉端の猫に声をかけるおっさんの声の様なもので


「よっしつかまえたー!」


抱えられた水音の原因たるそれは人に抱えられるほど小さな何かで。



「ってうを、なんだおまえ!?」


おっさんの慌てた声を引き出した犯人はちーちゃんであって。


(こうなったらやるしかないのか!?)


手にもつ棒をぎゅっと握りしめ暗闇に乗じて体重を乗せた一発を彼に叩き込んだのだった。


「っが!?」


ドグッと、君の悪い音が手の先からした。

なぜこの時、躊躇せずに彼を思いっきりたたくことができたのか今でも不思議だが、まさしく不思議なことにそれで間違いはなく、むしろ攻勢に出たことで僕の命は助かったといってもいいだろう。


「キューーーーーーーー!」


気を失って倒れかけていた男の手から、その小さな何かが慌てて飛び出す。

そしてそれと同時に男が地面に突っ伏すこととなったのだが。


「------?」


「きゅ?」


その倒れた男の上でちいさなちいさな小動物二匹が並んでこちらを眺めてくるのだからそれがもうかわいいっていったらありゃしない。

ちーちゃんのとなりでキューキュー鳴いていたのはどこか子犬に似ていながら葉っぱの様なそんなものを耳につけている奴だったのだ。

二匹とも目がくりくりしていてもうそれがマジエンジェル。


「さて、それはともかく…」


この倒れている男性をどうしようかと思慮にふけることにする。

思いっきりたたいたわけだがそこはほら、素人によるただの木の棒によるただの振り落としなわけで。

うまくいっていたらそうでもないかもしれないが彼はどうやら気を失っているだけの様子で時折唸り声の様なものを発するのだ。


「と、とりあえず縛っておくか…?」


竜の彼に渡されたバックの中にはご丁寧になめされた荒縄もあったわけで。


「よし、これでおっけいだろ」


そこには両手両足を縛られ、気に括り付けられた彼の姿があったのであった。






「って、この格好はなんじゃーーーーーーーーー!」


日が昇り、彼を見つけた人はこういった。


「しかし、なんて卑猥な縛り方をするんだ…い、いや、何を考えているんだ俺は、なんで彼女がこう、その…」

そして彼が情事に及ぶとき相手がどうなったかを知る人はいないとかなんとか。


ちなみに、彼は賞金首だったらしく、見事に首ちょんぱされていたとさ。






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