01 砂漠
テレビの中、森の奥深くのその場所へと引き込まれた僕はと方位に暮れていた。
まず、第一に不思議だったのは森だというのに、動物の気配が何もしなかったことだ。
動物とまではいわない、せめて虫か何かがいなくてはおかしいのに藪をつついてみてもバッタのいっぴこも現れなかった。
その異変に気が付いたのは、手に持っていた大きな卵の中で何かが動いたような気配がしたからだ。
(これって何か生まれるのかな…)
何が生まれてくるかわからないけど、生まれてきたとしたら何か食べさせないといけないよな、と思った。そう思ったゆえの藪つつきだった。
ここでクマか何か大きな動物が出てくる可能性を考えなかったのは何も不思議なこととかじゃなくてただ単にそこまで考えが浮かばなかっただけだ。
それに、卵と言ったらやはり鳥類か何かだろうとあたりをつけていたから虫の一匹でも捕まえておきたいと思っただけだったのだ。
家で飼っていた鶏は勝手に草むらの中のバッタとか羽虫とかを食っていたような気がしたからそこら辺の虫でもいいと思ったのだ。
人間、どうしようもない、というか摩訶不思議なことに出会ったらまず第一に体が覚えていることをするというけれども僕の行動もそれに合ったものだった。
「でも、本当にここどこなんだろう…」
藪をつついて虫も出てこなkれば、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくるようなこともない。
うっすらと周りから漂ってくる薄い霧以外は一見何の変哲もない森なのだが、やはりどこか違和感を感じさせられる。
その大たるものが、今僕がたっている前後に伸びている一本の道だろう。
右に進むべきか、それとも左に進むべきか。
大き目の卵を抱え途方に暮れるしかない。
そう思っていたら、どこからか不思議な声が聞こえてきた。
…そもそも、思い返してみればここに来たのだってなんて不思議なことによるものなんだろうか。
いつの間にか部屋の中に覚えのない女性の死体があって、そして気が付いたらテレビの中に吸い込まれて。
普通、こんなことはあり得ない。
だって常識的に考えてみてもすべてがおかしいとしか言えない。
このいま手に持っている卵だっておかしい。
その大きさはダチョウの卵ほどの大きさだけど、それの模様はまるで某ゲームに出てくる緑色の恐竜の卵のようだ。
それはともかく。
その時不思議な声が聞こえてきたんだ。
どこかわからないけど、細く、か弱く、そしてとぎれとぎれなその声。
声というよりもむしろ音と形容するのが正しいかもしれないそれは小さいけれど確かに聞こえた。
「だ、だれですか…?」
尋ねてみても聞こえてくる音に変化はない。
変化のない声の代わりに、耳鳴りがひどくなっていく。
キーンと、だんだん強く、高く、大きく。
頭痛がしてきた。
だんだんと、耳が痛くなってきた。
思わず耳をふさぐが効果がない。
目の前が再び回り始めてきた。
まるでメニエールの症状のように気分が悪くなる。
思わず膝をつき、のどをさす吐き気に体が従うままにする。
視界が真っ白になり、何も考えれなくなった。
そして、気が付いたらすでにそこは森ではなくて、どこぞと知れない砂漠の中だった。
そして、落としてしまった卵があった場所には一匹の≪灰色≫の子どもの…
竜がいた。
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「しっかし、さっきから一体全体何なんだよ…」
部屋の中から森の中、そして今は砂漠の中だ。
頭上から照らしつける太陽の熱がこれが夢でないと伝えてくる。
のどを伝う汗の不快感もあまりにも現実味あふれている。
これだけ僕は不快感にあふれているというのに件の竜はといえばぺろぺろと卵から出たばかりで粘液にまみれたその体をきれいにしている。
「お気楽そうだな…」
「‐------?」
僕の言葉がわかったわけでもないだろうが、反応してこちらに顔を向けてくるその顔にはどこか愛嬌があった。
「お前も突然こんなところにきちゃってもう何がなんやらだよな」
「---」
高めの、形容しがたい声で子竜が返事を返す。
体をすべて舐め終わったのか、ちみっこが足元にじゃれついてきた。
「----」
「ん?どうした」
何か近くに建造物か、せめて陰になるようなところがないかと周りを見渡していると、足元から鳴き声が聞こえてそちらに首を回すと遊んでほしそうにこちらを見つめるちみっこがいた。
「トカゲっぽいからお前は大丈夫かもしれないけど、僕はこんな日照りの中だと干からびちゃいそうなんだよ、だから遊ぶのはあとでな」
そう言って頭をなでると、気持ちよさそうに目を細め手を放すともっともっとと首を伸ばしてくる。
「だから、あーとーで」
今はまだいいけど、事実さっきから暑くて暑くて汗が止まらない。
着ていた制服はもうできるだけ薄着になっていた。
…後で聞いた話だと、こういった日差しの強い場所ではむしろ肌をさらしちゃいけないらしいがその時の僕が知っているわけもなく。
「あぁ、アッツ・・・とりあえずどっか歩くか」
今かんがえてみると、さっきまでいた森の居心地の良さが身に染みてくる。
霧が多くてじめじめしていたがこの日差しに比べてみればまだまだ天国だと感じられる。
「-------?」
と、歩き出したところ、その場を動かないちみっこが此方を見て鳴き始めた。
「どうした、お前もついて来いよ」
と、声をかけたところでついてくるわけもなく。
また近くに寄ってちみっこに手を伸ばす。
また撫でてもらえると思ったのか首を伸ばしてくるがその翼の付け根のあたりに手を伸ばして抱きかかえる。
そのまま先ほどのほうに歩を進めようとするがなぜかちみっこがいやいやと逆の方向に来たそうにするのでどうせどっちに進んでも変わりないかとその方向にあった砂丘を上りはじめる。
こんなところにいたからって何かがあるわけもないし、近くに何もなさそうだったからせめて何か行動を起こさないとと思って歩を進める。
一歩歩くたびに汗が弾のように浮かんでは流れていく。
砂に落ちたとたんにそれは蒸発するのかそれとも砂に吸い込まれるのかわからないけど残るのは足跡しかない。
このままだと確実に脱水症間違いなしだな、と思うがこんなところに突っ立ていては脂肪確実なわけで。
運が良ければオアシスとかそういった水場に出くわすかもしれないし。
ーそして、天か神様が味方したのか歩いてすぐの砂丘を越えたその先に砂漠の中にポツンと緑の木々が茂る場所を見つけることができたのだった。
ーよくやったちみっこ!