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割れた卵  作者: 徳光 小唄
1/7

00-卵の中身

『皆さんこんにちは、今日も良い天気ですね』


ピッ


『今日の降水確率は3%。雲も少なく、良い洗濯日和になるでしょう』


ピッ


『本日未明、○○マンションで殺人事件が』


ピッ


『いやいや、それはチャイマンがなー』


チャンネルを変えても、何一つ、どれも僕の求めている情報を流している番組はない。

昨日、いや、おとといだっただろうか。

時間の感覚がおかしくなった。

もう、あれから何時間過ぎたのか、それとも何日かたったのか、はたまたほんの数分しかたっていないのか。


部屋の中に鉄のにおいが立ち込める中、僕は何度も何度もチャンネルを回し続ける。


事の発端はそう、ある雨の降る日のことだった。



ここで回想をうまく挟み込めればいいのだろうけれど、あいにく僕にはすでにそんなことに頭の容量を割く余裕はない。

巣でのその当時の記憶はあやふやで、何が本当にあったのか、何が僕の考えた妄想なのかすでに判別がづかない。


で、あるからしてここはひとつ映像(真実)ではなく、話語りの過去語り、まるで僕がねつ造したかもしれない夢物語(虚偽)を皆さんにはお聞きしていただこうと思う。


そう、それは、きっと、雨の降りしきる寒い夜のことだった。


物語(僕の妄想)は、きっとその日から、その時から始まったんだ。


それはきっと、甘く切なく、苦く味深く、いろいろな色が混ざりこんで黒色ではなく灰色に近づくように、きっと混沌とした物語だ。

それはきっと、耳うるさく、とがっていて、いろいろな刺激が混ざりこんで肌色ではなく赤色に近づくようなきっと、恐ろしい物語だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日は本当に運がなかった。

まず、朝のことだが僕はいつの間にか目覚ましを止めていたらしく盛大に学校に遅刻してしまった。

しかも、前日に翌日の準備の何もしていなかったものだから、被った教材以外のすべてのそれを忘れてしまっていた。


そして、泣きっ面に鉢、水たまりで転んで犬の糞を踏むとはこのことで、朝は晴れていたのに雨は降りだすし、弁当は忘れるし、お金は忘れるでもう何をしに学校に来ているのか全く分からないような状態だった。


幸い、その時は隣のクラスの関口君やらに教科書を借りて、隣の席の山田君にお金を借りて何とかしのげたが、帰り道だけはいかんともした難かった。


帰り道は友達の誰とも被ることもなかった故、一人で雨に濡れて帰ることを強制された。


ー一瞬誰かの傘を取ることも頭をよぎったが、それは人間としてはすべき行為なのですぐさま頭の中からご退場してもらった。


そして、その日の不幸はまだ続いていたんだ。

きっと、その日の僕の星座占いは最下位で、血液型選手権もびりっけつだったに違いない。


学校を出た瞬間はまだ小ぶりであったのに、次第に雨足はつよくなり、道半ばに来た時にはすでに豪雨と呼んで差支えないほどだった。

服はすでにびしょぬれで、鞄の中の教科書もきっともう濡れ濡れに違いない。


ひたすら前へ前へと歩を進め、とりあえずの雨宿りになりそうなところを探す。


ここでさらに不幸なことだが、僕の家はいわゆる農家で、付近は田んぼばっかりに覆われている。

季節によっては風も強い日なので家々には防風林らしきものも並んでいるため、その中に一時お邪魔させてもらうことも僕の人見知りの性格ではとても難しい。


家まで残り走って数分のところにあったバス停でとりあえず上がった息を整えることにする。

もう、汗で濡れているのか、雨でぬれているのか、寒いのか熱いのか全く分からない状態だ。


「でも、今日は本当についてないな…」


もう、朝から散々だったためか、僕はもうため息しか出ない。

これで明日もこの調子だったらもうそれは僕が何かに呪われた、憑かれたと思いたくなるほどだろう。


ー中学二年生である僕としてはそれもまたなぜか心惹かれる要素であったのはすでに疑いようのない事実であったのだが、ここではあえて自分が厨二ではなかったここを宣言させてもらおう。


そして、ここでいったん記憶があやふやになる。

この先の物語を読んでいただければここが一番重要になるじゃないかと、そう突っ込みたくなる気持ちが出てくるだろうが、不思議なことに僕としてもここらの記憶が全くおかしなものになってしまっているのがから仕方がない。


前述した通り、これは記録(真実)ではなく記憶(虚偽)の物語なのだ。その所はぜひご自愛いただきたい所存だ。

追記するならば、それは決して僕が意図的に忘れたわけでも、何にか原因があって本当的に記憶の蓋を閉じたというわけではない(はずだ)。


確かにその時僕は初めてその人にあった。

それは確かに真実であるといえる。

だけれど、摩訶不思議なことに今思い出す彼女との最初の出会いは雨どころか水たまりもない、まったくの晴れた日のことであったはずなのだ。

しかし、当日の僕は確かに雨に打たれ憂鬱な気持ちだったはず。


さて、どちらが正しいのか全く分からないが、きっと摩訶不思議な、電波系な彼女のことだ。

きっと僕の記憶を改ざんしたに違いない。

ゆえに、これは僕の過失ではなく、むしろ僕は被害者であると言えなくもないのだろうか。


豪雨にさらされ、雨でびしょぬれになった僕の目の前に現れた彼女。

その背後には太陽がさんさんと輝き、地面に惹かれたアスファルトには先ほどの水の気配が一滴分もないのだ。

それは明らかにおかしいとしか言いようがいないではないか。


そして、ここでもまた僕の記憶のあやふやさが続くのだ。


なぜか僕はそこで彼女にこう尋ねたんだ。


「今日はいい天気ですね。ところで、顔色が悪いようですが熱中症か何かですか?このバス停のところで休憩してはいかがですか?」


そう、人見知りであるはずの僕が自発的に彼女に声をかけたのだ。

そして、自分は雨でぼろ濡れのはずなのに『今日はいい天気ですね』なんて言ったのだ。


そして彼女はなんて答えたと思う?


『そうです、ね。今日はちょっと日差しが強くてお言葉通り少し休憩することにします。お隣いいですか?』


その声はまるでガラスを何か硬いものにぶつけたときの様な、今にも割れてしまいそうにすら思える透き通った声だった。


ー声の描写はいいから彼女の姿の描写を教えろって?


それまた遺憾ながら、なぜか僕には彼女の姿、顔それどころかいろいろあって名前まで聞いたはずなのにそのすべてを思い出せないんだ。

何度も言うように、これはもしかしたら真実ではないかもしれない、それでも、僕は誠実に、記憶している通りにこの物語を語っている。

だから、どうか、もう一度だけ、もう一度だけ僕に機会をくれないだろうか。


後一度、一か所だけ記憶があやふやなところがあるが、それさえ過ぎれば僕はその後の記憶をすべて覚えているんだ。


ーいま、どこまで話ただろうか。


あぁそうだ、彼女が僕の隣に座ったあたりまで話したんだったか。


その後、僕は彼女があまりにも気分がすぐれなさそうだったから、僕の家に誘ったんだ。

ほら、家に替えれば薬もあるし、もちろん水もある。

親がいればきっともしもの時には車で近くの(といっても車で10分近くかかるが)病院に運んでくれるだろう。

とにかく、こんな日陰であるだけのバス停よりかはよい環境があるはず。


そう思って彼女を僕の家に招待したのだ。


そう、それがおそらくおととい、いや、昨日の話だったか?

何があったかは定かではないが、とりあえずは物語の冒頭に戻るわけだ。


なぜか、いつの間にか僕は普段使い慣れた部屋の中にて、一抱えほどの大きな卵を抱えていた。

そして、彼女とは言えば、なぜかおなかに大きな穴あを開けて血だまりを作って倒れていたのだ。



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