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6 初めての武器と初めての魔物、そして初めての露出プレイ

「おぉぉ!!」

「す、すげぇ...!」


 がっぽり稼いだ日の翌日。二人は昂っていた。

 理由はただ一つ──いよいよ武器を手にする事が出来たからだ。

 果物ナイフとは鋭利さが違う。輝きが違う。重みが違う。どんな肉でも切れそうだ。

 合わせて30000G。高い買い物だ。だがこの為にナツは身を張ったのだ。手持ちは5000Gだが後悔は無い。


「ついに冒険者って感じだな...!」

「そうね...これで早く魔物をぶったぎってやりたいわ。ふん! とりゃ!」

「お客さん振り回さないで下さい! 危ないです!」


 疼く身体を抑えきれず、狭い店内から飛び出し見慣れた街を前に二人揃って仁王立ち。

 昨日までとは違う。全世界の主役にでもなった気分だ。街の人々みんな、俺達のことを見てる気がする──二人は自分でも分からないほどハイテンションになっていた。


 早くこの武器を試したい。早いとこ魔物を狩ってみたい。走りながらギルドへと向かう。

 ドアを勢いよく開ける。


「お姉さん見てください! 武器買ってきました!」

「すごいでしょ、ほら! 私でも軽々扱えるのよ!」


 入るなり何なり、武器を振り回すナツと千世を見て、他の冒険者は彼らを盗賊だと認識せざるを得なかった。今にもその内の一人が叫ばんとしていた。騒ぎになる前にお姉さんは二人を止める。


「分かったから落ち着けって! 物騒なもん振り回すな! クエストだろ? さっさとやらせてやっから、こっち来い!」


 お姉さんは頭を下げつつ二人を引っ張っていった。他の冒険者は安堵した。


「...ったく。嬢ちゃんはともかく、テメェはいい歳してなにやってんだ」

「ふふ...童心を忘れてはいけませんよ?」

「ただ幼稚なだけだろうが! ぶん殴るぞコラ!」


 初対面ぶりの怒りっぷりであった。当然である。


「...で、魔物討伐のクエストだろ。ほらよ」

「...『犬型魔獣Aの一掃討伐』?」


 適当な名前だなぁ。


「どうやら最近森の方で頻繁に出没しているらしいくてな。10体くらい討伐してきてほしいらしい」

「10体...それ本当に初心者向けのやつですか?」

「誰がいつ初心者向けだなんて言った。残ってるのがこれしか無いってだけだ」

「...難易度的にはキツイ方なんすかね」

「初魔物退治にしちゃキツイ。でも早急にやりてぇってんならこれしかない。これが嫌なら今日はもう止めるしかねぇ」

「...そうか」

「どうした、すっかり元気が無いな。怖気付いたか?」

「そ、そんなんじゃないです!」

「はははっ、大丈夫だって。噛まれたって死にはしねぇから。骨折はするけど」

「結構危ねぇ!?」

「その代わり報酬は高くつくぞ。最低でも数万。出来によっては10万だ」

「マジで!? じゃあやります、俺!」

「金になると食いつきがいいな...。あんたはいいだろうけど──そこの嬢ちゃんの了承も得た方が良いんじゃないか?」

「カタカタカタカタ...」

「震えてる!? 大丈夫かよ!?」

「ははっ、今日は止めたほうがいいんじゃねぇか?」

「い......いや。やるわ。わ、わわわたしを誰だと思ってるの。コロナツインテ、よ...! 怖くなんかない!」

「まぁ、万が一の時は鼓舞すれば大丈夫か」

「いや、さすがに大ピンチの時は罵ったって意味ないからね」

「...何の話してんだおめぇら」

「...な、なんでもないわ」



 会話もほどほどに、街を抜け、お姉さんに渡された地図を頼りに山を歩く。相変わらず頼りにはならないが今のとこ何とか行けている...気がする。

 残った金で薬草もある程度買い揃えてきた。これで多少の負傷は大丈夫。さぁ、どっからでもかかってきやがれ──。


「──ふふ...その前に。ちっと腕試ししてみたくないか?」

「そうね。出来るならしてみたいけど」

「見ろ。あそこに良い練習相手がいるぞ」


 千世が指さす先には、数日前危うく食われそうになったヤツの姿。


「あれは...食虫植物! 確かにアイツならこれを試すのに最適だわ」

「俺達の憎むべき相手だ。思う存分切って来い」


 この前とは打って変わって強気の姿勢のナツ。剣を片手に勇敢に立ち向かう。


 ある一定距離まで近づくと──植物の口が開く!

 グロテスクな中身が晒される。


「ひぃっ...!」


 一瞬躊躇いを見せたものの。


「気持ち悪いわね──くらえーっ! ふん!」


 すかさず剣を振り降ろす。茎に対してななめに切る。ナツは目を閉じる。肉を切断する感覚と音により、切断に成功したと判断できた。

 ドチャ...と生々しい音と共に地面に落ちる花。


「やった!」


 と、喜んだのも束の間。次の瞬間、ナツの体に透明な液体が降り掛かった。かなりヌルッとしている。

 ──茎を切断したのが間違いだった。この液体は茎から大量に放出されている。


「ひゃっ、なんなのこれっ!」


 ナツは思わずその場に倒れ込む。

 千世はその姿に目を奪われる。ヌルヌル液体の影響でかなり過激な見た目になっていたからだ。


 ワンピースに液体が染み込み、ピタッと張り付いてアンダーや素肌が薄く透けている。ボディラインもくっきり。液体が女の子座りをする太ももの内側を這うようにして伝う光景。一向に止まらない液体の分泌、その目の当てられなさは増すばかり。


 植物から逃げ千世の方へ向かうナツ。千世は目を逸らす。己を抑えんと踏ん張る。


「んっ...最悪...! このまま討伐にいかなきゃいけないの?」


 まとわりついた液体をはらおうと、両手で胸のあたりを上下にスライドさせる。弾力のある控えめな胸の形が動きに合わせて変化する。生唾を飲む。


「...なにじろじろ見てんのよ」

「いや。縞模様の下着を着てるのは意外だなぁと思ってな」

「へぇ!? あんたなんでそれを知って──って、透けてるぅー!?」

「気づいてなかったんかい」

「今すぐ街に帰ろう! 服を買ってそれに着替えないと!」

「えぇ、めんどくさい。いいじゃん別に」

「嫌よ! これじゃ裸同然じゃない!」

「お前にとっては光栄なことじゃないか」

「NO! 露出プレイはNOなのー!!」

「こらっ、逃げるなっ! 諦めてさっさと魔物を倒しに行くぞ!」

「離して!」

「くそっ、ヌルついててうまく掴めねぇ。こうなったら──」


 ナツの太ももの下に腕をくぐらせる。肩を抱えてぐっと持ち上げる。


「う、うわぁ!」


 お姫様だっこの体勢だ。ナツくらいの重さであれば千世でも軽く持ち上げることが出来た。しっかりと抱えれば落とす事も無い。


「さぁ! 初めての露出プレイの始まりだぁ!」

「ちょっと、まっ──」


 千世はナツを抱えたまま、高笑いと共に軽快なステップで走り出す。


「はっはっはっ、はははははーっ!!」

「初めてのお姫様だっこがこんなのってないわ...。うぅぅぅ...」



「はぁはぁ...疲れた」

「じゃあ下ろそうよ!」

「下ろすのは魔物が現れた時だ。それにしても...なかなか出てこねぇな。出没する範囲は広くないって言ってたからすぐ見つかると思ったが」

「...しっ! 何か聞こえない?」

「んん?」


 耳を澄ますと草木の揺れる音。低く響く唸り声のような音。言い知れぬ嫌な予感がする。


「ようやくお出ましか」


 千世は武器を持ち戦いの準備を整え──って。あれ、あれ?


「な、無い。武器が無い」

「はいーっ!?」

「ナツを抱っこする時に置いてきちゃったみたいだ...」

「どうすんの!」

「そうだ。またナツに蹴ってもらえば」

「骨折しちゃうかもしれないんでしょ! 嫌よ!」


 足音は近づく。木々の奥に見える影。忍び寄る。

 徐々に具体的な形が顕になる。


「ひっ...」


 息を呑む。犬型魔獣と聞いてたから、プリティな小型犬を想像してたが──現れたのはごっついおっさんみたいな魔物だった。

 確かにシルエットは犬たが、顔はいかついし、角が生えてるし、筋骨隆々だし、その実態は犬ではない。


 頭が真っ白になる。必死に頭で考えて出した結論──。


「よし、逃げよう」


 すぐさま来た道を引き返す。ナツを抱えたまま全力疾走。振動でナツは大きく揺れる。


「わっ、わっ、追いかけてきてるっ!」


 犬らしからぬ二足歩行で人間のように迫る。なかなかの速さだ。あれを10体も倒せだなんて、これは明らかな上級者向けクエストだ。千世は後悔した。明日まで待って、簡単なクエストにすれば良かった。


 しばらく走るとさっき食虫植物を倒した場所が見える。そこには投げ捨てられた剣が2つ。


「よっしゃ!」


 とりあえずあれがあれば何とかなる──と確信したのも束の間。


「ガウッッ!!」

「「うわぁあっ!!」」


 行く先を塞ぐように何処からともなくもう一体の魔獣が現れる。

 いや、一体どころではない。気づいた時には十体。二人を包囲するように立っていた。


「ナツ。短い間だったがありがとう。君と過ごした日々は楽しかった。冥土の土産に胸を揉ませてくれ」

「こら、諦めるな! どっかに打開策はあるはずよ!!」

「無理だろもう。俺はここで無様に死ぬのだ...」


 十体の魔獣は機械のように息ピッタリに、距離を詰めてくる。少しずつ近づく死の予感に声も出ない。


「ほ、本当に怖い時って...涙も出ないんだな。あはっ、はははは...」

「...ナツ」


 ナツは千世の手のひらを掴む。自分の胸に寄せて、がっつりと掴ませた。


「!?」

「...ありがとう。私も楽しかったわ。千世の事忘れない」

「あぁ」

「...天使って死んだらどうなるんだろう。天国に行けるのかな。地獄なのかな」

「......」

「...死にたくないよ」


 悲嘆の声も虚しく、魔獣はいよいよナツの体へと手をかけた。掴んで持ち上げる。


「ナツ、ナツ!!」


 ナツの体より2倍も3倍も大きく開かれた魔獣の口。ヤツはナツを食べようとしている。まもなく砕かれようとしている。


「さよなら──」


 何か言っている。しかし聞こえない。ナツの声は魔獣の咆哮にかき消される。


 魔獣は奇形の長い舌を口から出し、舌なめずりをする。これから美味しく頂く獲物をつま先から頭へとゆっくりと舐める。


 千世は目を伏せた。見たくない。見たくない。見たくない。どうか夢であってくれ──!


「──グッ、ヴォッ...」


 スルッと抜ける音。途切れた獣の声。何かが落ちる音。

 何故か、ナツは地面に横たわっていた。


「大丈夫か!」

「う、うん...。でもどうして...」

「ググ...グォオオオ゛オオオオァァア゛オォオオッッ!!!!!」


 魔獣は凄まじく苦しんでいる。両手で口を抑えながら悶えている。やがてぶっ倒れて息絶えた──。

 予想外の事態に残り9体の魔獣どももピタッと止まって動かない。

 ──あの魔獣はナツの事を舐めて、そこから途端に苦しみ出した。それが何を意味するか。千世はすぐに分かった。


「...ローションだ。食虫植物のローションがこいつらの弱点だ!」

「ほ、ほんと?」

「確証は無いけど...試してみるしかねぇ! 行くぞ!」

「うん!」


 今度はナツをおぶって、死んだ魔獣を乗り越えてその先へと走っていった。その頃には魔獣どもの混乱も解けていて、ぴったりとくっつくように後を追ってきていた。


「あった!」


 千世は素早く二本の剣を回収する。二刀流。

 その剣で近くにあった食虫植物を一刀両断。


「くらえ!!」


 茎の切り口を魔獣達の方へと向ける。勢いよく噴射されるその液体。九体全てに満遍なく直撃させる。目を、口を、全身をローションで覆う。


「「「「「「「「「──ウゥ、ウグォオオオオッ...ヴボォオオァァァア!!!!!」」」」」」」」」


 効果は絶大。次々とドミノ倒しのように倒れてゆき、あっさりと彼らは全滅した。

 しばらくして、死体は細かく結晶のように分解され、やがて姿を消し、消えた。代わりにそこにはお金があった。

 数えると一体につき500G。合わせて5000G。ドロップされていた。


 何が起きたかはよく分からない。ただ一つ言えるのは──生きていて良かった。


「うっ......う、うわぁああああん! 怖かった! 怖かった!!」


 今までに無いくらい泣いている。ナツは千世を抱きしめる。強く、抱きしめる。

 千世は男らしく受け止めたかった。受け止めたかったが──耐えられなかった。


「くっ、うぅぅ...。俺も、俺も死ぬかと思ったよ...っ!」


 千世もナツを強く抱擁する。


 その時、ナツは下腹部に違和感を感じた。


「あっ...!」

「おい。どうした」

「い、いやっ! 見ないで!」


 ナツは千世から離れる。両手で一部分を必死で隠していた。


 少し漏らしてしまった──なんて事は口が裂けても言えなかった。

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