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マーシャル・ファンタジー  作者: リクヤ
7/10

第五話






 ユリウスは宿を出た後、セントラルの外門に行き通行所を見せ、昨日オークに襲われた森にやってきていたた。


 かれこれ起きてから一時間程度経ち、夜空も薄っすらと明るくなってきていた。


 なぜ、ユリウスはわざわざ昨日襲われたにもかかわらず森に来たのかというと、自身の魔法の練習をするにあたって何かあったときに被害が最小限に抑えられ、尚且つ、人目につかない近場の場所というのがセントラルに来たばかりのユリウスにはここぐらいしか思い浮かばなかったのである。


「……さて、始めるか」


 軽く準備運動をし、ユリウスは『身体強化魔法』の練習を始める。


(本によれば、魔力とは自分の魂の力のようなもの、イメージ的には自分の体内に流れるもう一つの血流といったところかな。身体強化とは文字通り、その魔力でもって自分の体の強度と性能をあげる魔法のこと。さらには、魔力を注げば注ぐほどその効果は上がっていく。……だったか)


 実はユリウスは昨日からほとんど睡眠をとっていない、というのも、隣には見目麗しい美少女であるサヤが寝ているのだ。いくら、伝説の武人と魂が混じり合い精神的に強化されたとはいえ、その辺は12歳の年相応なのである。ようやく眠れたのが起きる少し前ということになり、多少の仮眠をとったという感じなのだ。


 そんな中、ユリウスもただ起きているわけではなく、気を紛らわせるためにカベラからもらった『身体強化魔法』についての本を読んでいた。


 最初は眠気を呼び込もうと読み始めたのだが、これがユリウスの興味をこれでもかと惹いていたのだ。バトルジャンキーとは言わないが、力を求めて武人である椿勇の魂と融合した影響が出ているのかこと自分が強くなることに関しては貪欲になっていた。


 だからこそ、すぐに行動を起こさずにはいられなかったのだ。


 話を戻すが、一般に魔法を攻撃の主体とする魔法使いは身体強化をしない。『身体強化魔法』は他の魔法と違って燃費が悪く、注ぐ魔力に対して強化される度合いが低いからである。


 なので、『身体強化魔法』を使うのは魔力を人よりも多く持っているが他の魔法を使う当てのない騎士や戦士などが気休め程度で使用している。


 しかし、地球の知識があるユリウスはそのことを本で見たときに違和感というよりかはか矛盾のようなものを感じた。


 魔法とはイメージが欠かせない。それならば、『身体強化魔法』を使用する上で身体構造のイメージは必要不可欠のはず。しかし、この世界では生物学や化学と言ったものはそこまで進んだ研究はされておらず、医学なども多少の知識はあるものの、回復魔法やポーションでの治療が多く、その分野での深い研究をする意味がなく、一部に終わっている。


 そこでユリウスは、一般的に使われている『身体強化魔法』は肝心のイメージが中途半端になっているから、つぎ込む魔力のほとんどが意味もなく消費されているのではと考えた。


 医学の進んでないこの世界ではこれは普通のこととしてとらえられており、まず気づくことはない。ユリウスも地球の知識が無かったら永遠に気づくことはなかっただろう。


 ユリウスは足を肩幅に開き、目を瞑って集中し、自分の中にある――魂の力――魔力を感じ取る。


(まず、魔力のイメージだが、これは体内を流れる血液でいい。その血液は循環し、筋肉、内臓、全身の骨格、細胞の一つ一つに染み渡るように全身内外余すところなく)


 この時、ユリウスは知る由もなかったが、ユリウスのいる森のでは周囲の鳥が飛びあがり、地上の動物は異変を感じ逃げまどい、異様なまでに静かになっていた。


 ユリウスは体の中から力が溢れてくるのを感じる。ふぅっと息を吐き、目を開け、そして驚く。


「これはすごいな。どうやら、俺の予測は当たったみたいだな」


 身体強化のおかげかユリウスの視力は身体強化前と比べてかなり上がっていた。木々に上り辺りを見渡せばこの森をすべて見渡せるほどだ。さらには、風で舞う木の葉を一枚一枚捉えられることから動体視力も底上げされていることがわかる。


 もちろん、強化されているのは目だけではない。


(聴力の方もだいぶ上がっているな。なるほど、これは便利だ。しっかし、これは俺だからできたことであって他の人にはおそらく無理だろうな。)


「……それよりも、一番気になるのは」


 そう、一番重要なことをまだ確認していない。


「早速、失礼して……これでいいか」


 ユリウスは近くの割と一本の太い木を眺め、その横に立ち、構える。身体強化の一番の醍醐味と言えばそれこそ体の運動性能の向上だ。今からそれを確かめられ

ると思うとユリウスはうずうずしてしまう。


 精神を統一し、拳を固め、気合いと共に正拳突きをその太い木に放つ。


「――はあ!――」


 ドゴンッ!! という音が森に響き渡った。あまりにも響いたその音から一撃が相当のものだったと窺えることが出来る。ユリウスはそれに満足し、木に背を向け、後ろにおいてあった本を読もうとする。


 しかし、背後でバキっと何かが折れる音がした。


「なんだ?……え」


 振り返ったユリウスは信じられないものを見たような顔をする。それもそうだろう、先ほど一撃を放った木がユリウスが立っている方向とは反対の方向に倒れようとしていたのだから。


「まじか」


 ユリウスがそうつぶやくと同時にけたたましい音を立て、木は倒れた。ユリウスは思わず、自分の手を確認するがどこにも外傷は見られない。木の内部が腐っていたのかとも思ったが、頭を振ってすぐにその考えを振り払う。


(拳に違和感はない。今のはただの正拳突きだぞ? ということは、身体強化魔法とはこれほどまでにすさまじいものだったのか? 軽く魔力を込めただけなのに? ほかに要因として考えられるのは……俺自身の魔力がとんでもなく上がっているということか。その原因は……考えるまでもないか。おそらくは昨日の一件だろうな。まぁ、魔力が上がっているというのなら俺にとっては好都合に他ならない。いろいろと試してみたい技もこの魔力があればできるかもしれないしな)


 ユリウスには伝説の武人である『椿勇』の魂と融合した記憶は存在しない。なぜなら、そのやり取りは魂を介して行われたことであり、肉体には記憶されるわけもなかったからである。


 そして、この『身体強化魔法』について、ユリウスは実に惜しいところまでいっていた。完璧な身体強化を成功させたところまでは良かった。しかし、この魔法にはある落とし穴が存在していた。


 ユリウスは体を動かすべく、肩を思い並べ技をその場で次々と繰り返していく。


「……ふっ……はっ……」


 拳を突き出し、足を蹴り上げ、体を捻り勢いのまま連続して、さながら舞うように、しかしながら、その技の数々は速く、鋭く、重たくと三拍子そろっている。


 さらに、ユリウスは魔力をどんどん追加していく。身体強化魔法につぎ込む魔力が増せば増すほどユリウスの動きは速くなり、その打撃は空気を打ち始め、蹴りは空気を摩擦して焦がしていく。


 この修行を始めてからどれくらいたっただろうか、ユリウスは自分の体に異変を感じた。


「がは!!! ……これは!?」


 突如としてユリウスの体に激痛が走る。全身が軋み、内部から裂かれるような痛みだ。その痛みに堪らず、ユリウスは地面に崩れ落ちる。


「……ぐっ……はぁ…はぁ…はぁ……なるほど、これは反動か」


 そう、この身体強化魔法の落とし穴とはつまり、この体に降りかかる反動のことである。というのもこの魔法は細胞一つ一つにまで魔力を行き渡し干渉し、無理やり動かしているというのもあり、体にかかる負担が半端ないのである。


「(強化も全身ではなく、要所要所にした方がよさそうだな)」


 すでに、体は汗でビシャビシャになっており、ユリウスはすぐにでも水浴びしたい気分だった。


 さらに、狙ったかのように腹が鳴り始め、空腹が襲ってくる。もう少し修行をしていたい気分だったが、宿に戻ることにした。


「って、こんな汗でびっちゃびちゃの恰好じゃ門番に怪しまれないかなぁ。……まぁ、いいか」




 結局、門番に疑わしい目を向けられることになるのだが、そこはうまくごまかし、門を抜け、宿に向かった。


 この時、ユリウスが幸運だったのは修行の現場をほかの人に見られなかったことだろう。朝早いとはいえ、冒険者には早朝から活動する人もいる。はっきり言ってユリウスの修行は相当高度なことを行っていた。


 そんなことを誰かに見られれば話題になることは目に見えており、そのことをユリウスは後から思い返し、次からは気を付けるよう心に決めたのだった。





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