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マーシャル・ファンタジー  作者: リクヤ
3/10

間話1




「ここは?……僕は川に流されてそれで」


 気が付くとユリウスは真っ白な世界に立っていた。上下右左見渡しても白、白、白。


 ユリウスは混乱し、辺りをきょろきょろと見渡していると前方にぼんやりと黒い影のようなものが浮かび上がってくるのに気づく。


「なんだ?」


 影はやがて人間のような形をとっていき最終的に、ユリウスの前には白髪の老人が現れた。


 背丈はユリウスと大体同じぐらいであろうか、顔のしわやシミから相当なご老体のように見えるのに反して体に鉄の芯を一本通したように姿勢はピンッとまっすぐである。


 身にまとっている道着? のようなもので隠されてはいるが体の鍛え方が尋常でないことは素人のユリウスから見ても明らかだった。


 その油断なき双眸はまっすぐユリウスを見つめていた。


「お主がユリウス・カミーリアで間違いないかの?」


「え、ええ、そうですがあなたは?」


「おっと申し訳ない。儂は椿勇という」


「ツバキイサミ?」


「そうさな、君の世界では珍しい名前かもしれんのう。いろいろ聞きたいことがあるじゃろう? まだ少し時間がある。何から聞きたい?」


 ユリウスは答える。


「僕の世界? ……とりあえず、さっきまで僕は川に流されていたのですがここはどこなんでしょうか? それに……サヤは!? 僕と一緒に川に流された女の子は無事なんでしょうか!?」


「まぁ、焦るな。順に答えるぞい。まず、ここはだが、ここは一言で言えば生と死の境といったところじゃ」


 ユリウスの焦った表情など気にもせず、椿勇という老人は続けようとする


「そんなことより! サヤは!?」


 しかし、ユリウスは気が気でない。


「……はぁ、まずはそこに触れんと落ち着かんか。大丈夫じゃ。おそらく君の言うそのサヤとかいう娘は無事じゃよ。どこかの誰かが後生大事に抱えておるからの」


「! そうですか……よかった。申し訳ない、取り乱しました。それが分かればひとまずは安心です。生と死の境とおっしゃいましたね? ということはやはり僕はもう……」


「人の話はよく聞くもんじゃぞ坊主。儂は生と死の境と言ったんじゃ。今のお主は完全に死んだわけではない。そうさのう、川に流され生と死を彷徨った結果、魂だけがこの空間に飛んできてしまったということじゃな」


「ですが、もし仮にそうだとしても、あなたの話から察するに、僕は今死んでいるも同然ということですよね? 先ほどあなたは時間は少しあると言った。つまりは、そういうことですよね?」


 つまり、ユリウスが完全な死を迎えるまでということだ。


「ふむ、中々に鋭いな坊主。そうじゃの、それで?」


「それでって……死は免れないことが分かっただけですよ。それが逃れられない運命なのなら受け入れるしかないでしょう? どうやって知ったのかはわからないがあなたはサヤは無事だと言った。僕は弱っちくて頼りない男だ。けど、最後に誰かを守って死ねるなら……」


 ユリウスは体を震わせる。死が恐ろしいのだ。いかに潔い言葉を並べようが、恐ろしいものは恐ろしいのだから。


「無理はするな坊主。それに、そのサヤとかいう嬢ちゃんとて、確かに無事とは言ったが一時的なものじゃよ?」


 ユリウスはその言葉に目を見開く。


「どういうことですか?」


「なに、簡単な話じゃよ。お主らは川へ流された。そして坊主は死ぬ。しかるに、残された嬢ちゃんは果たしてこの先無事でいられるのかということじゃよ」


 人ごとのように椿は語る。ユリウスはハッとしたような顔をし、すぐに顔を青ざめさせた。


「そ、そんな。では、どうすればよいのです!? ……ぼく……は……」


 顔を俯かせ無力感に苛まれる。だが、椿は続けた。


「まだ絶望するには早いぞ坊主。そのことを伝えに、または伝えられるためだけにこの空間に来たわけでない……ったく、最近の若者は生き急ぎ過ぎなのだ」


 悪態を吐き、椿はユリウスに言った。


「どういうことですか?」


「ここからが本題ということじゃ。なぁ坊主、儂、実はもう死んでるのじゃよ」


 笑顔でそう椿は言った。ユリウスも自分が死にかけているという情報から目の前の老人もそうなのではと思ってはいた。


「……ええ、なんとなくは察しています。だからどうだというのです?」


 状況は変わらない。そんなことを聞かされたところで何も変わりはしない。


「まぁまぁ…………のう坊主、この状況からもう一度生き返られると言ったらどうする?」


 椿の雰囲気ががらりと変わった。自分と同じ高さだったはずの老人が今では何倍にも大きく見える。そして、その言葉は悪魔の囁きのようにユリウスの頭に響き渡った。


 ごくりと唾を飲み、ユリウスは答える。


「……それが本題ということですか」


「然り」


「どうやって?」


「ほう、疑わないのか?」


「疑うも何も、僕はもう死ぬ身です。生き返って彼女を守ることが出来るのなら願ってもない」


「それがどんな形になってもか?」


「ええ」


 二人の間に極度の緊張が流れる。



「……その意気や気に入った!」



「……へ?」


 途端、緊張が霧散し、ユリウスは肩を透かされたようになる。がははは! と笑う老人にユリウスは困惑してしまう。


「うむ、やはりこの奇跡、偶然ではないな」


 と独り言ちる椿に置いてけぼりにされるユリウス。


「あの、どういうことか説明してもらっても?」


「ああ、すまない。お主を試そうと思っただけじゃよ。……どうやって生き返るのか、だったの」


 再び真剣な表情に戻る椿。今度は先程のような圧迫感はない。


「……はい、そうです。それにあなたの目的も不明です」


「そうじゃの。では、それも含めて説明しよう。儂が死んどるのはさっき言ったのう?」


「ええ」


「儂はお主とは違う世界の出での、そこで儂は武を極めた。一時は武神なんて呼ばれたりしてのう。じゃが、年にはかなわなんだ。ちょうど100歳だったかの?」


「かの? って他人行儀な」


 ユリウスは目の前の老人に呆れ始めていた。そして、この老人が年齢とはかけ離れた肉体をしているのにも理解が及んだ。


「死んでしまえば元の肉体なんぞ他人も同じじゃよ。それよりもじゃ、儂は死ぬ寸前後悔が残ってしまっての」


「後悔?」


「うむ、後継者がいなかったのじゃよ。誰も儂に届くものがいなかった。こればっかりはどうしようもなくての」


「それが、僕が生き返るのとどうかかわってくるのです?」


「うむ。実はお主がこの空間に来たタイミングと儂がこの空間に来たタイミングはほぼ同時じゃ。すなわちお主と儂は簡単に言って同時に死んだというわけじゃ」


「では、なぜあなただけそのような知識があるのです?」


「先ほど話したが儂は元の世界では武神として扱われていての、そのうちに人と少しずれた存在になっていたようでの。その辺が理由に当たるかの。そういうものだと理解しとくれ」


 そりゃ後継者も生まれないだろう。人ではないのだからとユリウスは思った。


「……お主が生き返る方法じゃが……一言で言えば儂の魂とお主の魂を融合させることにある。お主の魂と儂の魂の波長は驚くほどにぴったり合ってるみたいでの、生と死の境に来たと言ったが、多少ニュアンスが違ってての、正確に言えば互いに引き合って出会ったのがこの場所ということにすぎん。それも含めて奇跡ということじゃな」


 確かにそんなことが起こるのならばそれは奇跡以外にはないだろうが、今ユリウスはその奇跡に頼るしかない。その説明を聞いてユリウスは疑問に思う。


「今の説明を聞く限りでは、あなたが僕の魂と融合してそちらの世界で生き返ることも可能ではないのですか?」


「それは無理じゃ。それにそんなつもりもない。儂は後継者がほしかったと言ったろう?」


 ここまででユリウスはこの老人が自分に何をさせたいのかに気が付いた。


「……そうか、あなたは僕に後継者となってほしいのですね?」


「うむ、やはり頭の回転はいいようじゃの。そう、それが儂の目的じゃ。つい先ほどまで、きれいに天寿を全うするかとも思ったんじゃが、これも運命かの、こうも波長の合うものがいるとは思わなんだ。しかも異世界に」


「ちなみに、なぜあなたはそちらの世界で生き返られないのです?」


「お主の世界では魔法というものがあるじゃろう?」


「ええ、僕はほとんど使えませんが」


「儂の世界には魔法なんてものはなくての。故に、その元となる魔力もあったところで機能しないのじゃよ。魔力というのはそちらの世界では自然治癒能力も底上げするのじゃろう?」


 そこまで聞いてユリウスは納得する。ユリウスの体自体は今は半死半生の状態にある。ここで思い返すのが魔力が己が魂に由来するということだ。ここで目の前の老人の魂と融合することで魂に変化をもたらし魔力が上がれば助かるかもしれないということだ。


「しかし、それは仮にも魔力がけた外れに上がった場合。確率の低いかけではないのですか?」


「ふんっ、仮にも武神とまで呼ばれた儂じゃぞ? 舐めてもらっては困る」


「……分かりました。その賭けに乗りましょう。融合後、どうなるか分かりますか?」


「そうさの、魂のありようが変わるのじゃ多少の性格の変化は出るじゃろう。記憶も混在してしまうじゃろうしの。基本はお主の人格が優先されるじゃろうよ」


「生きていれば御の字です」


 ユリウスは覚悟を決めた。


「かっはっは! いい表情じゃの。ではやるとするかの? ここでのやり取りは恐らく記憶には残らんと思うがな」


 椿は右手を差し出す。ユリウスはそれを迷わず握り返す。


「よろしくお願いします」


 目の前が光に包まれる。


 こうして二人は一つになった。






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