表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の四つ巴交響曲  作者: jun( ̄▽ ̄)ノ
9/13

第九章・恋と女の子を待たせないで

恋と女の子を待たせちゃいけないんだ

 世間の多くが大嫌いな月曜日も夜になった。森尾拓夢は友人とともに駅にいた。改札をくぐって少し歩いたって位置。仲の良い男子高校生が会話を弾ませているって他人は見るのだろうが、実はそうでもなかったりする邪な2人。


「これなんだ」


 封筒に入ったレターを、拓夢が友人に渡した。受け取る谷川修一、略して谷修というやつは他校にいる友人。悠および音川琴美とも面識がない。拓夢がそれを利用するってこと。俺が言ったとおりに手紙を渡してくれよと肩を叩く。おぉ任せろ! と返事はいいとして、先払い報酬を要求された。友人とて無料で使ったりはできないのかと、拓夢はサイフから500円取り出して渡す。


「500円?」


「谷修、過剰に報酬を要求するとシアワセな大人になれないぞ」


 拓夢は修一の手にギュッと500円玉を握らせた。問答無用の悟らせとか強要な絵。それから、お! と声をだし修一を引っ張る。あの女だと指さした。音川琴美を見た。


「そこそこかわいいじゃん」


「やや胡散臭いように見えなくもないけどな」


 自分達の事をそっちのけで言いたい放題やってから、修一は拓夢に背中を押された。報酬分はしっかり仕事をしろよとか言われると、500円でエラそうにと思いながら歩き出す。かわいいなと思いながら声をかけた。ホームに向かわんと一人歩く少女に。


「何か?」


 ショーケースに見る洋菓子みたいな雰囲気。食べてみたくなる……とまでは考えたりせず、拓夢から預かった手紙を取り出した。指示された通りに添付。中津井悠に頼まれたと嘘八百なセリフを。


「えぇ、悠?」


「うん、そうなんだよ」


「なんで、さっきまで一緒にいたのに」


 当然ながら女子は怪訝な顔。受け取った封筒を見つめている。修一は握った右手を左胸に当てた。それは恋する男を理解できる戦友という顔。あいつ不器用で少しバカだからと、愚かな友を嘆きながらも応援する男を演じる。


 琴美は面食らいつつも、男の友情というのに真剣なまなざし。いっしょにいても、簡単に言えない事もあるんだと言われたら、そっと胸に手を当て目をつむった。


「男ってバカだけどさ……バカだけどピュアなんだよ。それだけは、女の子に分かって欲しい」


「そ、そう」


「じゃぁ俺はこれで」


 修一は完遂した。拓夢から、こういう風にやれと言われていた通りにやれた。我ながら感情の入ったいい演技だったと深呼吸。報酬500円じゃ割に合わないとか思っていたら拓夢が来た。すごい演技力だなぁ、見ていてメチャクチャ恥ずかしかったぞ! とベタ褒め。


「それホメてる?」


「もちろん」


 ボーナス! とか言って自販機で買ったジュースを渡してやる。谷修はそれを口にし、拓夢はどこかケチくさい気がするという思いと共に飲み込んだ。


 火曜日。


「ただいま」


 学校から帰ってきた。てっきり琴美の柔らかい笑顔が迎えてくれるのかと普通に思っていた。フワッと笑顔でご対面とばかり。おかげで、母が出てきたら拍子抜けで転びそうになってしまう。


「悠、これポストに入ってたよ」


「手紙?」


「琴美ちゃんからみたいだよ」


「ぇえ?」


 なんだろうそれと思って封筒を見る。可愛い封筒にシール、男子には真似が出来ないと思う丸い字。女の子だなぁと、ちょっぴり胸が温かくなった。部屋に戻ったら、手きれいに洗ってから封を切って中身を取り出した。実際には存在しないが、いまの悠にはいい匂いが広がったような錯覚まで発生。


 大事な話があるので来てください……と時刻と場所の指定が書かれている。文面が短いと気になる。いてもたってもいられない感じ。恋という一文字を失いたくないと切なくなる。これは何やら大事かもしれないと気持ちが高まり、慌てるようにして服を着替えた。


 ここでスマホを手にして立ち止まる。今日の朝にバッテリーという体力が不足気味だった。しかし今、活力を注入する時間あらず。


「でもまぁ……大丈夫かな」


 楽天家みたいにつぶやいて家を出た。チャリキにまたがり出発。琴美が待つ場所へ向かってゴー。待たせてはいけないのだ。男は女に、恋する者は恋って言葉に、そこに向かって突き進むばかりだ。


 一方そのころ……


 こちら拓夢。隠れて見張る。極悪アプリ入れたスマホを手に持って、恋という海で快適にユラユラする悠が来るのを待つ。ユラユラ快適してもいいのはクラゲだけ、悠なんかこむら返りでも起こして溺れてしまえばいいんだと思いながら。


「お、悠だ。いらっしゃい」


 愛機に乗ってやってきた悠の姿を確認する拓夢。早速スマホを取り出すと、外道アプリ経由で悠のナンバーを呼び出す。


 対する悠、指定された場所に到着し自転車ストップ。近くにある噴水に歩み寄り、一体どんな話をされるんだろうと考えてみる。う~んと悩んでみたり、クスっと笑ってみたり、えぇ急に困るよと一人赤らんでみたり忙しい。顔面七変化。


 すると体に伝わる振動。琴美だ! と思いスマホを取り出す。でもディスプレイ見れば拓夢から。がっくり。ただでさバッテリーが不安なのだから無視。すると出るまで諦めない相手。忍耐勝負やっているみたいになってきた。ありえないよとスマホ耳に当て応答。


「なんだよ」


「悠、ヒマなんだ、遊びに行こう」


「悪いな、用事があるのでパスるわ、また今度」


「なんだよ用事って」


「拓夢に関係ない」


「悠って冷たいなぁ、仲良くしようぜ」


 うっせーよと思う悠、スマホを耳から離し通話を切ろうとした。するとどうだ、切れない、通話が切れない。リモコンのスイッチ押してるのに消せないブルーレイレコーダー。


「切れない?」


「どうした悠」


「いや、電話が切れない」


「切れないってなんだ?」


「分かんないよ、でも切れないんだ」


 くくく、拓夢は笑い声が出ないよう太ももをつねった。どうして電話が切れないんだろうなと話を引っ張っていく。さも心配気に同情するような声で。


「拓夢、そっちで電話を切ってくれ」


「わかった」


 そう言って、しばらくしてから俺も切れないと伝える。悠がショックを受けたら、もう腹を抱えて笑いたい。爆笑したい、シアワセな奴が焦るのは面白いから。恋に溺れる奴が恋を失うかもしれないと思ったら、こんなに楽しい話があるんだろうか? だから。


「なんで切れない!」


 悠はイラついた。時間は約束を過ぎている。琴美の事だから大幅に遅れたりはしないだろうけど、もし電話があったらどうする。なんで拓夢の相手をしなければいけないんだ、なんで女の子より男友だちの方を取らなきゃいけないんだ。悠、マジでイライラが激しく上昇中。血圧うなぎ上り。


「おちつけ悠、なんでそんなにイライラするんだ?」


 そういう気遣った声をしているが、実際には必死も必死で太ももつねって笑いこらえている拓夢がいるのだった。アーユーハッピー? オォ~イェ~! みたいに。


 一方その頃、こちらは琴美である。


「遅いなぁ……どうしたのかしら」


 と小さくつぶやいた。バカな男子2人と違い、こちらは静かに待ち合わせ場所で待っている。忍耐を有しているので怒ったりはしないが、ふつうに心配はする。もう30分も経過したから、スマホに悠のナンバーを呼び出しコール。それが話中。


 メールでも来ないかなと思いながら待つもこない。もう一回とコールしたら話中。琴美は胸に手を当て心配。悠に何かあったのかなって。ただ待つしかできない身は、じんわりと来る不安に肩が重くなる。琴美という少女の胸は、悠に何かがあったら……と心配。


「あぁ……どうしたらいいんだ」


 悠が頭を抱える。琴美は来ない、連絡取れない、心配、なのに拓夢の声ばかり聞こえて精神状態は戦争中の兵士。でもここで事態が動いた。少し黙ってくれと、拓夢に言おうとした時スマホのバッテリーがアウト。ブツって聞こえたら真っ暗と無音。


「切れた?」


 拓夢は驚いた。なぜ、どうやって切った? と。


「やった、これで動ける」


 悠はチャリにまたがった。最寄りのコンビニに、まるでパフォーマンスやってみるみたいに自転車を急停車。中に駆け込むと安い緊急バッテリー(手回しタイプ)をゲット! 店の前でさっそく行動。琴美のため、恋を守るため、全身全霊で回す。まるでスポーツだ、オリンピックなら金メダルだ。それほど恋は熱い。そして約3分ほどの会話が可能となる。ダイヤル、汗びっしょり、激しい呼吸。


「あ、琴美」


「悠、いったいどうしたの? 心配してるのよ」


「いや、こっちも待ってるんだよ?」


「悠が私を呼んだんじゃないの?」


「こっちは琴美に呼ばれたと思ってるんだけど」


「わたし、○○にいるんだけど」


「分かったすぐに行くよ」


 ハァハァ、悠は自転車にまたがる。焦り、疲労、もうクタクタだった。でも、だからといって恋を待たせていい理由にはならない。全速力。待ってくれる恋に手を伸ばすため。太陽より熱く風より速くたどり着くため。道がいくつあっても迷わない。恐れない、何が行く手を阻もうとも。


 ハイスピード。恋に信号は不要。通行人や車の運転手から白い目で見られたってかまわない。その痛みは一瞬、でも恋に傷をつけたら……胸の痛みは一生。悠の自転車は走った。走れチャリキ、走れメロスを超えていけ。本当なら20分かかる所を8分で到達するほどに。


「ハァハァ……琴美」


 酸素不足の呼吸。息を切らし汗をかき、待っていた女の子の姿が見える。でもちょっと無理をし過ぎた。琴美を見て微笑んだとき、疲れ切った悠は自らの足に躓く。ガッシャン! と自転車と共に倒れてしまう。


「悠!」


 おどろき駆けよる少女。


 琴美のハンカチが汗を拭ってくれる最中、ふわっと漂ういい匂い。身を削った甲斐があった。ちょっと心配させてしまったものの、焼き立てメロンパンのように甘い雰囲気を味わえたのだから。後は2人で話をすればいいだけ。


「一体どういう事なんだろう」


 2人は腰を下ろし会話。悠は谷川なんて奴は知らない、琴美は手紙なんか書いた覚えはない。琴美はややテレ笑い浮かべて、今の私だったら直に口で伝えるよと添えたりする。


「誰がこんな手の込んだ事を」

 

 悠が弄ばれたような悔しさに身を震わせると、立ち上がった琴美が自販機に歩んでジュースを2本購入。そのうちの1本を相方に差し出し笑顔で伝えた。


「おつかれさま」


「ありがとう」


 琴美はもうちょっとだけ、その顔にくどさのない笑みを持たせた。嬉しいわとつぶやく。耳にして、隣りを見て、悠はデコボコ道をチャリで走る振動くらうようにドキドキ。何が嬉しいの? と聞くとき、とても小さいけど温かい気持ちに浸りたくなる。


「だって、悠はここまでマッハのようなスピードで来てくれた」


「そんなの普通かなって」


「でも私のために一生懸命になってくれて嬉しい」


「あんな事で良ければいつだって」


「もうちょっと聞かせて」


 ここで立ち上がった悠。やや気恥ずかしいセリフでも今なら言える。それは罪じゃないって、恋の神さまが優しい手を肩に置いてくださっている。


「女の子を待たせたりしちゃいけないんだ」


「悠……」


「いつだって、全速力でたどり着かなきゃ」


「ステキ、とても胸にくるわ」


 しんみりって感じの琴美を見下ろしたら、悠は一瞬見えた気がした。いや、単なる妄想とか勘違いな想像かもしれない。でも一瞬、琴美から透明なエンジェルが浮かんできて、そっと微笑みながら手を伸ばしてきた。自分の手を伸ばしかけた、うっとりしかけた。


「じゃぁ帰ろうか」


 もうちょっとで幻に溺れるところだった悠。自転車にまたがり、後ろに乗ってくれてもいいよと言ってみた。いけないのだろうけど、ちょっとだけ2人乗りしてみたい。琴美も同じキモチらしいって伝わった。そうねって微笑んで後ろにやってくる。


 単なる2人乗り、最高。悠の心が表には出さない詩を書いた。


ーあぁ、かみさま。ぼくは今、デザートの相方であるコーヒーか紅茶です。互いに協力し合って、甘くてホッとする時間をつくるようなモノです。あぁ、かみさま。ぼくは、この溶けて絡み合うようなキモチを上手く表現しにくいです。だって、だって、いま本当に……ー


 1台の自転車が2人の世界を紡いでいた。


     ***


 その日の夜。結果はどうだった? と知りたい小春が拓夢に電話。けっこういい感じだったと言いながら、タイミングよくバッテリー切れが起こったみたいですと聞かされた。ちくしょうって悔しがっている声。恋の神さまに味方してもらえなかった者の舌打ち。


「バッテリー切れまでに、30分か40分くらいの時間はつぶしたと思うんですが」


「多分ダメね、40分程度じゃあの女には逆効果だわ」


「逆効果?」


 小春が口にする所によれば、5時間くらい遅れたらスィーツな女も激怒した可能性大。さりとて40分程度では、あのタイプは我慢を享楽に変換するかもしれない。そうだとすれば前よりイチャラブに発展してしまうかもしれない。と、聞かされる拓夢はスマホを放り投げたくなった。


「それって俺らがキューピットを演じたみたいな事になりません?」


「あの女も中津井も図々しいやつらだわ」


 2人はその後しばらく談義した。他愛ない話をチコチコ織り交ぜながら、どうやって中津井悠と3女子に亀裂を入れてやろうかと思案。


 ここで小春の口調に変化。ピンと来たわ! って暗に言っているような雰囲気。中津井悠はどれくらい勉強ができる? と拓夢に問う。


「悠は全体的には……普通の下くらいなんだけど、一部おおいに問題あり」


「なにがどのくらい問題か言いなさい」


「古典と理科はダメ、その2つに関しての頭は不良品」


「他は、大体50点は超える?」


「なんとかいけるんじゃないかなぁ」


「大体70点っていうのは?」


「まず無理っしょ!」


「なるほど、なるほどね、それよそれ」


 フフっと小春の笑い声が耳に聞こえると、その笑みが目の前に浮かぶような気がして思わず生唾飲んでしまった拓夢。しかし笑った理由を聞かせてもらうと納得。


「なるほど、さすがですね」


「というわけで明日、2人で一緒に押しかけるわよ」


「明日ですか?」


「バカね、物事にはすべて大切なタイミングがあるの」


 年上の女は言う。今日は何やらハプニングが発生したものの、おそらくだが2人は結果としてラブラブをやったはず。そういう直後は頭が無防備っぽくなって攻め込むにはうってつけだと。人を殺すに刃物は要らない。人を殺すには頭を色ボケさせりゃ十分。


「さすがクロい性格」


「なんか言った?」


「いえ、何も」


 かくして通話終了。スマホを机の上に置き、本棚に並んでいる教科書やノートに目を向けニマっと意地が悪そうな笑み。


「おれもちょっと性格がクロくなってきた気がする」


 ククっと、他人が聞いたら「今さら?」と突っ込みそうな事をつぶやき笑った。


待ってくれるならたどり着きたい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ