第七章・拓夢だって黙ってられない
そりゃぁ黙っていられなくもなる
「よぉ悠、いっしょに飯を食おうぜ」
拓夢が突然やってきて腰をおろした。悠はつかまっちゃったかと思った。いまさら一緒に昼食するを拒むのは難儀が生じる。この際だ、拓夢が突っ込んで来たら素直に話を打ち明けようと心を構えた。
一方の拓夢にしてみれば、最近の悠はひとりで昼飯をやる事が増えたと思い声をかけた次第。
ここは学校の中庭。気の合った者同士で固まるならよし。カップルなら最高。多くの者が卒業するまでに、「はい、あーん!」「あーん!」をやりたいとか思っていたりする。
拓夢はチラッと悠に目を向けた。弁当に水筒はいいとして、包みほどいた弁当箱が可愛い感じに見えた。大きさは良い感じだが、雰囲気がこう乙女っぽいかもだ。中身と一緒に見るとそんな気が強まる。
「それってかわいい弁当だな。お前のお母さんってラブリー」
きたな。悠は冷静に口を開いた。これは母さんが作ってくれたんじゃないと打ち明ける。なら自分で作ったのか? と言われりゃ、んなわけないとドキドキしながら否定。
「その、家政婦につくってもらったというか……」
悠が恥じらっている。なんだ? と思う拓夢。
家政婦なんて日常的でないキーワード。さらに言えば、そこからイメージするはオバさんかオバアちゃん。年の割にかわいいお弁当を作る人だと、勝手に話を進め盛り上がっていく。
「そりゃぁ、可愛いのはたしか。なんせ同い年の女の子だし」
おっほん! と咳払いの悠。
ピタッと動きを止める拓夢。同じ年の家政婦、そう聞いて流せるわけあらず。自分の弁当を置き、ドキッとする悠につめ寄った。話の内容によっては鉄拳食わらせそうな雰囲気。緊張する悠がタマゴ焼きを食べながら説明。
じつはこれがこうなって、つぎにこうなってああなって、それからこういう風になって……という風に、正直に語っていけば拓夢の顔が青ざめてきた。
「そういうことだったのか」
拓夢はちょいヤラカシターをやろうって時は、、定期的に悠のも覗いたりしていた。何やら知らない名前と、たまに親しそうな会話が少し見えていた。が、それはネット上のさみしい関係のモノだとばかり。以前に悠のアカに対して物言いしてたのと名前も違ったから。やられた! みたいな気分。
「よくもおれをだましたな!」
腹立たしいので首を絞めた。
「バカ、やめろ……飯が逆流する!」
ゴホゴホと、もう少しで窒息して吹きこぼすような悠。
ありえない。拓夢は飯を食いながら悠を責め立てる。一人で飯を食うのがチラホラあって、さみしい可哀相なやつと同情したらこれだ。自分だけ快楽にふけり、友人への報告を怠る。絵に描いたような最低なやつ。男としては許されないこと。
「いやだってさ、ちょっと恥ずかしかったってのもあった」
「イチャラブして純情ぶってるんじゃねぇよ」
拓夢は尋問して根掘り葉掘り聞いた、余すところなく聞かせてもらって感情を揺さぶられる。3人、まったり系にかっこういい系、あげく巨乳。欲しい、目の前の悠を殺してでも奪い取りたい。
悠は弁当を食べながら、拓夢には寂しがる理由がないだろうとつぶやいた。女に不自由しているように見えた事ない。女子と適度に会話して楽しんでいる。悠は自分のやっている事を、これはモテない男の話であり、モテる男は退場するべきなんだと語った。
「アホか、彼女いないつーんだよ。全部友だちってやつなんだよ」
「だったら一番の仲良しに恋人以依頼すればどう?」
飯を食い終えた拓夢。立ち上がり悔しさをにじませ両手を握った。いま本当に、「おれはいま猛烈に怒っている~!」などと空を見上げて叫びかけた。炎が出そうになった。そんな自分が恥ずかしく、腹が立った次にはさみしいから両手を合わせる。
「なぁ、頼む。俺も寂しいんだよ、一人くらい回してくれよ」
急に擦り寄るイヤらしい奴。悠はアドバイス、お前も彼女を募集してみたら? でもそれ言うと少し尻込みする拓夢。一見すれば何でもガンガンやりそうなキャラに見えるのに、意外と根性なしなんだなと悠が内心思った。
「今日はお前の家に行くぞ悠」
「断る」
悠はささやかな幸せを見せびらかす気もなければ自慢する気もない。だから友人が物見遊山しにくるなど歓迎不可能。弁当箱を包みもどし、拓夢の肩を叩いて一言つぶやいておく。幸せは自慢するモノでもないし、まして妬むようなモノでもないんだよなと。
それから数時間が経過。
夕方。ギュイーンと自転車をかっ飛ばす拓夢だった。本当ならいきなり家に押しかけてやるところ。でも、そんな自分が中学生みたいだとか、負け犬みたいだとか思えてプライドが……
「ちっくしょう、なんだこの惨めな気分は」
歯ぎしりを立てながら、悠の家の近くに自転車を止めた。こっそり身を潜め友人の家を見張る。
ぜひとも見てみたいと心をどっしり下ろす。家政婦が出てくるまで待つと腕組み。そこから時間が流れていく。1時間、2時間、約3時間……夜の8時過ぎになって誰も出て来ない。
やっぱりウソか、しょせんはいい格好しいのウソ、見栄っ張りなやつ。笑う拓夢は夜空見上げ、ざまーみやがれとつぶやいて満足な笑み。時間のムダだったぜと自転車にまたがった。
「あばよ」
と、言ったところで家の扉が開いたので慌てる。自転車ごと身を潜め、家の灯りに照らされる者を見据えた。
悠の次に出てきた女、それは確かに自分と同じくらいだと見えた。なんとなくやわらそうな雰囲気。洋菓子を気取ったような感じで、胸はまぁまぁだなぁと見る。
「あれが弁当の家政婦とか? マジか?」
自転車を押して尾行開始。多分、駅かバス停まで送っていくとのだ。で、たのしく会話でもしているのだろう。その雰囲気だけで、後ろから悠の背中にとび蹴りかましたくなる。
「あの女はちょっと胡散臭い感じがしないでもないな」
ケッ! もっといい女は他に一杯いる! と、あざ笑ってやるつもりでハハハと声を出す。でもやっぱり腹が立つ。俺も女子とイチャラブしてぇ! こみ上げる怒りのエネルギー。これを電力に変換できたら、1か月分の電気代が浮くかもしれない。
拓夢は、残る2人も見てみたいと思った。悠に聞かされた昼間の話を思い返してみると、水曜日は誰も来ないので木曜日に出向いてみるかと結論。
翌日。
何だかんだ言いながら早起きが出来なかった。昨日と同じように夕方からこっそりと隠れて見ていた。小腹が空くからとコンビニのおにぎりを食いながら見張り。もう完全に刑事。するとどうだろう、えらく長身な女が登場。
「でけぇ……なんだあの女」
かなりの大柄で、気風の良さが備わっているような女。耳にする声によれば俺とか言っている。けっこう中身は大人で格好良いかもって気はするが、嫉妬する必要はないなと笑み。
さて一番の問題が土曜日だ。聞けば年下、しかも結構な巨乳らしい。友人をあの世に送ってでも手に入れたくなるような話だ。そして2人は出てきた。
「ほのか、一人で先に行くなよ……」
「悠が遅いからダメなの、私を追いかけて欲しいの」
などとチャラけた会話する2人を見て、不謹慎的な刺激をいただいた。見た目や声からして中学生だろうが、ドキッとするほどに充満した巨乳ぶり。衝撃やら嫉妬やらもう……ごった煮の鍋。ダシが出まくり。
「女の話で悠に嫉妬するとは考えもしなかったな」
夜道にただよう負け犬感。どんどん自分だけ置いて行かれるムービングウォークの絵。なんとかしよう。そう思った拓夢、自分がどうするかではなく……悠を貶めようと考えが固まった。いい気になって歌っている奴のステージを狙撃しようかみたいに。
さて月曜日、拓夢はさっそくになって月光が始まると陰謀詭計を開始する。
「あ、そうそう、これって聞いた話なんだけどさ」
と、お喋り出来るくらいの女子を掴まえては言いふらした。悠は大人しいとか真面目に見えて実は凄まじく女ったらしであると。もうギリシャ神話の神さまもびっくりなんだからと言ってやる。
「えぇ、中津井ってそんな風には見えないんだけど」
女子が驚けば、真剣な面持ちを披露し、大変に胸が痛いという巧妙な演技力を交え残念そうな口調で語っておく。自分の友達を悪く言いたくないけど、悠って女好きだから気を付けた方がいいと。手をにぎり、あぁ、友人を悪く言った自分をさばいてくれ! みたいな悲痛ぶり。
「分かったわ、教えてくれてありがとう。森尾っていいやつなんだね、見直したわ」
悪魔に魂を売った。幸せは自分にさえ訪れれば良し。拓夢の思惑通り、あっという間に中津井悠の悪評が水面下で流れる。どんどん肥大化して大げさになっていく。
「ねぇ聞いた、中津井って保険も含めて彼女が10人以上いるらしいよ」
「どこまで本当か分からないけど、本当だったら最低だよね」
「そんな不埒に見えないんだけどなぁ」
「そういうのが実は一番危ないんじゃない?」
とかいう感じで、悠の評価は水面下でどんどん落下していくばかり。拓夢は構えていた、悠が自分の所にやって来て怒りをぶちまけると警戒および戦闘態勢。そうなったら拓夢は、自分を被害者ぶった話に持っていくだけ。女子が自分に同情し恋愛に発生すると思うから。
ところが悠は来ない。3人の家政婦を有する悠は、学校の女子にどう思われているかとか興味ない。恋は盲目ではなく、「余裕ある勝者は盲目」とでも言っているかのように。
そして拓夢は女子が自分にやってくるのを今か今かと待つ。中津井悠の悪行を教えてくれてありがとう! って、感謝する女子の一人がやってきて、それが恋愛に発展するんだろうと思いめぐらせ。明日は来るかなと思い今日が終わる。
嫉妬だって青春じゃん