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恋の四つ巴交響曲  作者: jun( ̄▽ ̄)ノ
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第四章・まりんのハートは大きめサイズ

まりんのハートは大きめ

「ぅっしょ!」


 米袋担いで反対側には重たい買い物袋。


「だいじょうぶ?」


 となりが気遣うと余裕の笑顔ブチまかして見せる長身少女。


「これくらい持てなきゃ俺の見た目がウソになるもん」


 悠の母と共に歩いて家に向かう海野まりん。買い物につき合った。長身でパワーキャラであるまりんにしてみれば、米袋一つ担いで反対側の手に重い買い物袋を持つくらい余裕ってだけのこと。


 この見た目で弱かったら気持ち悪いって、コンプレックス線上の意識も胸にあり。


「ステキねぇ、ホレボレするわ」


 薫子は感心って目。並ぶと気風のいい息子がいるみたいと目が言っている。まるで宝塚に対してハートが熱い女子。


「いや、俺ってこれくらいしか取り柄がないから」

 

 ニッと、どこか自悟があるような笑み。まりんは信号で足を止めた時、俺は女としてはまったくダメなんですとつぶやいた。自分自身を十字架にかけ火を放ったみたいに。


 なぜか高身長。世間がいう小さいとかかわいいい女って絵姿と無縁。クスっと笑い、自らを絶望的と語り歩く。


 悠の母から格好良いからいいじゃないと言ってもらったら、そう言ってもらうしか取り柄がないんですと悟りめいた顔で空を見上げた。フッとちいさい吐息を大気に流した。


「わかってるんです」


「何を?」


「俺が悠に選ばれるわけがないって」


「そうかしら?」


「考えるまでもないと思います」

 

 スーッと息を吸い込んだまりんに言わせれば、琴美は女としてまったりな味わい。言うなればデザート。ほのかなんぞ女の敵でしかなく、あれが女の理想とか男に思われるなら、この世の女の9割は自決せねばならんとする。


「俺が家政婦とか話に参加してるのは思いっきり意地なんですもん」


 クスっと笑い、勝てないと分かっていてもやるのが男らしい女の生き方と口にした。となりを歩いていた薫子、ハンカチを鼻に当て涙を浮かべている。授業参観で感激母親みたいに見えなくもない。


「えぇ、なんで泣くんですか?」


「ほこりが目に入ったのよ」


 薫子は咳払をして、私はまりんちゃんが好みだとつぶやく。


「同情?」


「同情に似せた愛情よ」


「ハハ、上手く言いますね」


「悠があなたを選ばなくても、私はあなたと友達やりたい気がするわ」


「それはどうも」


「いや本当に、友達にも母にも仲人にもなってあげるから」


「感激っす」


 まんざら悪くないとか思うような笑みにて、まりんはたどり着いた家の中に上がる。それから手伝い。案外とって言い方はまりんに失礼かもしれないが、思いのほか家庭的な雰囲気で手伝いをまぁまぁ良い具合にやってのける。


 夜の7時、中津井家の夕飯。


 4人でテーブルを囲む。まりんは座っても目立つが、雰囲気や話し方も相まって姉さん女房みたいに見えてならない。母さんはまりんを気に入ってるのかな? と悠は思ったりしまりんの話を聞きながら食事。


「でね、俺はこういう風に思ってきたんです」


 まりんには男気のような感じがあって、琴美やらほのかと違って他人をホッとさせるような感じがある。しっかり者の姉とかいう感じ、確かにそれは格好良い。


「きみのような娘がいたら面白いのかもしれないなぁ」


 目立たない父がそんな事を言う。


「いや、それは悠に言って頂かないと。なぁ悠」


 油断してた悠、こんな風に話を振られるって構えていなかった。みそ汁を飲みながら考えられないよとか言うにとどまる。サイテー! と罵るような声が聞こえたような気がした事は放っておく。 

 

 そうして夜の9時。彼はまりんを駅前で送って行くという役割。わかってはいたが、並ぶと女の方が改めて大きかった。


「自分より大きい女ってかわいくないだろう?」


 とくる。


「小さくてもかわいくない女は多いよ、大きさは関係ないと思う」


 話のついでだからと過去の思い出をいくつか語った悠。小学生の時、中学生の時、冷静に考えると小さいだけで女をかわいいと思った事はない。


「本当かよ、お前ウソ吐きまくってるだろう?」


「いや、マジメに話をしてるってば」


 何かの弾みか、無意識的に立ち止まった自販機でジュース一本購入、それをまりんに投げ渡してつぶやく。


 身長は関係ないと思う、身長なんかオマケ、多分……それを第一にホレたりはしないはず。結局は心ではないだろうか。そう言った悠、ちょっと恥ずかしいセリフだったなと頭をかく。


「悠、あんまり格好いい事を言うな、俺がホレたらお前どうする?」


「ただいま返答不可能です」


 そうやってたどり着いた駅。階段を下りてキップ売り場のところまでつき合った。まりんはキップを買いながら、家政婦をや事はと退屈しのぎになっていると言った。かわいい女をやる自信がないから、練習していると思えばいいんだとか。


 なぜかどうしてか、まりんが言うとほんのり切なく耳に届く。そんなに気にしなきゃいけないんだろうかと、悠は自然と思わされてしまう。


 バイバイ! と姿が見えなくまで手を振った悠。腕組みにチェンジして小さくつぶやく。まりんさんもいい女、まちがいなくいい女と。


     ***


 ここはとある高校。在籍者の中に海野まりんという名前あり。


「腹へったよぉ……」

 

 腹の虫をおち着かせられないと、まりんが食堂に到着。席にカバンとお茶を置き、何を食おうかと壁に貼られているメニューをグルっと見つめる。


「ん?」


 ふり返ると友人の一人。


「あれ解決して欲しい、お願い」


 言って指差した先には、同じ学年の男子と女子。何が原因か知らないが、いわゆる言い争いとかケンカとかそんなクチ。


 高校生の男女がケンカ? まりんはゲェって顔をして吐き捨てた。あんなのと関わりたくない、放っておこうよと冷たく。


「助けてよ、まりんだったら一発なんだから」


 同じ女なのにつよい男の子に哀願するような目。まりんにしてみりゃ昔から何度もよく見せられてきた。購入した食券を先に出しておき、情けないトラブル現場に足を運ぶ。興奮したのであろう男子の動いた腕を後ろからつかむ。


「女に暴力振るうと後のしっぺ返しが痛いぞ?」


 グッと握り、平和にいこうと促す。背が高い、力がつよい、それで女。腕を掴まれていた男子生徒、潔く怒りを飲み込むとした。すると女子の方が水面を荒立てるような事を一つ口にしかけた。

 

 ストップ! 


 まりんが言う。ここで気持ちよく終わりにしようよと。テレくさそうな顔でウインクひとつ。そうして、つまらないトラブルは刈り取られた。着席した大きい女、うなる胃袋にラーメンを入れていく。


「さすがまりん、やっぱり格好いい」


 仲裁を求めていた女子が笑顔で向かいに座る。


「男と女のケンカなんて中学生で終わりにしなきゃな」

 

 そんなセリフを口にするまりん。ラーメン啜って内心思う。そんな、格好いい男を見て赤らむような目を向けるのはやめてくれ……と。


 学校終了。


 帰らんとする途中、友人が本屋につき合ってと誘ってきた。早く家に帰って、似合わない制服を脱ぎ捨てたいと思いつつ、人がいいのか何やらで本屋につき合い入る。


「俺、マンガの方に行ってるわ」


 まりんは友人が見ている場所には興味がないと素っ気ない。どうせティーン女子向けの雑誌。かわいい女であるための極意を写真付きで語るような代物。自分が買ってもムダになると思って近づきもしない。


「あっと忘れてた、これの新刊が出てたんだ」


 少女コミックに手が伸びかけた。雑誌を持った友人が近づいてきたので手を引っ込め、少年コミックの前に移動。


「まりんは何を買うの?」


「いや、今日は別にいいかなって」


「そっか、なら行こうか」


「行こう」


 チラッと本棚を見ながら出口へ流れていく。その夜、まりんはお目当ての新刊コミックを部屋の中で寝そべりながら読む。あの後いちど家に帰り、私服に着替えてから別の書店に出向いて購入した。


 背の高い女子が恋愛に苦労するという内容のマンガ。まりんは中2の時からを愛読しヒロインを応援し続けている。ふと表情をしかめた。軽く鼻をすすってこぼす。


「泣けるなぁ……」

 

 側に置いておいた箱からティッシュを取って鼻をかみ没頭。もしかしたら自分を重ねているのかもしれない。


 たとえば中学生の時、デカい女はうざいと陰で言われ傷ついたこととか。あるいは小学生の時、まりんは男に生まれるべき人間だよねと笑いのネタにされショックを受けたこととか。


 そうやって1時間ほどの読書時間が終了。起き上がったまりん、チーンと鼻をかんで一つ口にした。


「〇〇の12巻サイコー」


 ポイっとゴミ箱に放り投げもう一つ。


「メタクソ泣けたわ」


 最後の締めにもう一つ。


「体もハートもデカい方がいいよね」


 それで終わり。楽しかったって顔で着替えを抱える。フロに入るかと口笛が始まる。これがお気に入りマンガを読んで得られる、明日への活力だった。ビタミンのひとつだった。

次回・ほのかちゃん活躍。おっぱい星人は必読!

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