第二章・三女子登場
燃える恋に萌える
本日。どうでもよい学校が終了したら、駅にある喫茶店へと向かった。どこぞに向かうって営みが、こんなにファンタジックに感じたことはない。
「本当にいるんだろうか」
思いきって扉を押し店内を見る。面接とかいうモノに挑んでいるみたいに、ややこわばった顔で見渡す。女の子、画像で見た女の子。まさかからかわれていた? あるいは画像はフェイクだった? とかギューンと慌ただしい脳内。
「おぉ~い悠、こっち」
という声が聞こえた方を見てギョッとなる。にんまりと手を振るのはまりんであるが、なんと背の高いこと。周りにいないタイプだったので、許される範囲で「おぉ!」みたいな表情をしてから歩み寄った。雰囲気やら顔は悪くない。
「まりんさん?」
「だな」
「一度家に帰ったの?」
「いや学校帰りなんだけど着替えた」
まりんはフッと苦笑して、俺みたいな大きな女がかわいい制服を着ている姿は見られたくないと伝える。どことなく切な気っぽく。
「悪いな、こんなに大きくかわいく女で」
「どのくらいあるの?」
「180……くらいかな、でも女だぞ、本当に女だからな」
「身長以外は見れば分かるよ」
「そっか、それならいいいんだけど」
まりんと話をし始めて思ったのは、気風良さそうって想像がまちがいではなかった事。本人は自分が長身女子でかわいくないと気にしているようだが、いわゆる姉が欲しいならこういう女かもと悠は考えたりした。
わるくない。雰囲気って流れは悪くない。意識して落ちついている悠と、のっけから堂々な感じが崩れないまりん。先輩と後輩カップルみたいな感じだ。そんな2人は話をしていたので、ゆっくり近づいてきたもう一人に気づかなかった。
「失礼します」
ふと声をかけられ2人が顔を向けると、にっこりと甘い洋菓子みたいな笑顔を示す女子高生一人。おっとりしたマイルドな雰囲気。悠の近くには、いそうでいないってタイプ。
「いいよ、悠のとなりに座ってくれても」
まりんはそう言ったが、悠の顔を見ながら会話がしたいとの事。これで3人となって、前座のように他愛ない話をしてみる。
かん違いかもしれないが、全員気が合いそうな感じがした。一般常識に捉われない友達になれたら最高なんだけどなぁと考えてしまう悠だった。口にするジュースがほどよく甘くて旨い。自分がモテるという錯覚や自惚れがいい味出している。
ほどなくして悠が入り口へ目を向けると、一人の少女が手をふって声をだす。無邪気なラブリーで大きな音声。
「あ、悠だ、悠~」
ジュースを吹きそうになった。
Tシャツに短パンに黒いストッキングなんて格好でやってきた最後のひとり。Tシャツの絵が盛り上がっている具合を見て本当に巨乳なんだと心臓うち抜かれ。
「あ~、悠のとなりが空いてる、ラッキ~♪」
騒がしい爆弾みたいな巨乳少女の出現に、まりんと琴美は複雑めいた顔。ちょっと物言いしたそうってな感じだ。
「早く話しょ♪」
遠慮なくとなりに座って腕組み。ムニュっと温かくやわらかいが悠に伝わり、ビクんと身震いさせる。すごく気持ちいいと思った素直さが顔に出てしまうからか、まりんが口をはさんでくる。
「で、悠は誰を選ぶか聞かせてくれるんだよな?」
怒ってはいないのだろうが、いつなぐられても仕方ないような顔にも見えた。
「私も、それを楽しみにしてここに来たの」
琴美もさりげない笑みにプレッシャーという調味料を入れている。
「私で決まってるじゃない、そうでしょう?」
ほのかが悠の腕をやたらとバストに当て感じさせている。おかで悠の神経、テレビ画面に発生する砂嵐。
生まれつき優柔不断型。こんな事は生まれて初めて。冷静に高望みできる身分じゃないと自覚あり。
全員と仲の良いスペシャル関係を構築してみたいと、ごまかしのテレ笑い。でも、正面の女2人は笑わずジッと見つめるから酸欠。となりの女の子はやれやれと呆れた顔してつぶやいた。
「悠、私を女にさせて欲しいの」
追いかけるように咳払いしたまりん、大いにマジメな目線。
「俺ってこういう女だけどさ、女としての乙女回路はあるんだぜ?」
ギクっとなる悠に琴美が連撃。
「ともだちでは満たされないキモチっていうのがあるのよ悠」
して騒がしいほのかが追撃。
「ともだちだったら私のおっぱい触るチャンスが消滅しちゃうよ?」
もうどこを見たらいいのか分からなくなってきた。心臓が軽やかなステップを止めない。
「ごめんなさい、今はちょっと選べないのです」
この際だからとうち明ける、
メールもらった時点で誰を選ぼうとか考えたがまとまらなかった。それを優柔不断と素直に認め、平和維持のためにともだちではどうかと度同じ事を口にする。平和維持という名の下心と言われたらそれまで。
「よし、じゃぁ悠はここで終わり。後は女だけで話をするから帰っていい」
けっこうな時間が流れ、もうこんな時間かと悠が思った時にまりんが言った。悠がいなくなるのは愉快じゃないと琴美とほのかが口を開きそうになったが、まりんは抑え込んで悠に帰るようにと促す。全員がスマホのメールアドレスとナンバーを交換したので問題ないとして。
「じゃ、じゃぁ……帰る」
いいのだろうかと思いながら悠は立ち上がって店を出た。まるで逃亡犯のような気持ちを味わいながら喫茶店から離れていく。とっても最悪なんじゃない? とか、この後どうなるんだ? とか、リピートしてリピート。
「なんで悠を帰すの、女同士で話なんかしてもつまらないよ」
プンプンしてるほのか。
「まぁまぁ、おち着いて」
まりん、となりの琴美も交え3人に恋愛経験があるか否かと切りだす。直に言わずとも、性経験は? っていうのも込みっぽく。
「俺にあるわけないって言わずともわかるよね」
「私もないわ、だから恋愛したいと思ってここにきたの」
「私、恋愛豊富ってかんちがいされることが多いけどまだなの、胸がドキドキしてるの」
というわけで3人とも恋愛実経験で処女だと認知し合う。一番年上の女は、3人とも恋愛願望がある者同士だから、ここは一つフェアに楽しくやろうと提案。
「同じ話に身を置いて例外とかヌケガケとか禁止にする」
「ヌケガケとか何の事かわからないの」
「ほのかみたいな女が一番やりそうな事じゃん」
まりん新しいジュースのストローを噛み、どういう形で何をやるかは後回しにして連盟を組もうとつぶやく。後腐れがないように、もし悠に選ばれなくても怨みが湧かないように、可能ならともだちでもあれるようにと。
「せっかく知り合ったのも縁、なれるなら友達になってもいいわけだしな」
まりんはカバンを取り上げ、中からふでばこを取り出しテーブルの上に置く。何をするのかと琴美とほのかが見ていると、カッターナイフを取り出した。ポケットティッシュを置く顔は引き締まりを演出。琴美が聞いた。
「それ何する気なの?」
「血判。約束は血があると一味もふた味も違うからね」
メモをピリッと3枚破き、全てに三人の名前を書きすべてに血判するという話だ。
「では俺から」
まりんが軽く指先を切って血を出す、そうして3枚の紙に指紋をつける。ほのかは怖いからイヤだと言うが、琴美はふつうにカッターナイフを受け取る、そして指先を切って同じように3枚に押す。
「悠のためなら」
ほのかも血で押した。こうして3女子は、ではどうやって悠に接し勝負しようかと話をし始めた。すでにけっこうな付き合いがある友だちみたいになって見合う。
「毎朝悠を散歩に連れて行くとかどうかな?」
「悠は犬かよ」
ほのかとまりんがボケと突っ込みをやっていると、琴美は冗談っぽく悠の家に家政婦みたいな形で訪れるのはどうかと口にする。尽くし具合で一番評価されたのが悠の彼女になるとかねと、微笑む琴美。けっこう良いアイデアだなとまりん。
「ぇえ、まりんに家政婦できるの?」
ほのかが込み上げる笑いをこらえている。笑えない場所でギャグ漫画を見て、必死に耐える姿そのもの。
ギャーギャーボケと突っ込みをやっている2人を制止した琴美。全員で悠の家に行ってこの提案を直訴しようと言った。こういう風に話が進むのは、そもそも悠に発端があるのだからと、やわらかくも磁力が強そうな笑み。
「琴美の笑顔って見方によってはエグいよな」
フンフンとまりんが笑いながら見る。
「そうかしら、まりんの笑顔も一癖ありそうに思うけど」
ふふっと笑いを投げ返す琴美。
「私の笑顔が一番ピュアだと思うの」
それを耳にしたまりん、お前は笑顔も他もいちばん悪質だと投げ返した。そんなこんなで、女だけでしばし……というよりは長々談義を延長。
***
翌日、学校後に寄り道しようとしていた流れを変更した悠がいる。大急ぎでゴーホーム。ドアを開いて大きな声。
「ただいま」
小学生みたいに靴を脱ぎ飛ばし、手洗いとうがいだけをしてから、居間に通ずる扉を開けた。ソファーやらオーディオやらCDの山、それらが見慣れた絵。でもここでは見慣れない人の数が3人。
「お帰りなさい」
一斉に4色の声。母はいいとして、問題は3人の女子。男は悠だけ。この感じ、妙な甘さ+スリル。
悠は母からお茶をもらって、メールで見た内容を問う。家政婦がどうとか書いてあった。現実では見たことも聞いた事もないと。それに対しては琴美が説明してくれるらしい。
「私たち3人で連盟をつくったの」
「連盟?」
「ほら、一人だけ抜け駆けで成功するとかいうのは……色々と精神的に」
相変わらずのスゥイーツっぽく微笑む琴美。気恥ずかしい言い方をチョイスすれば、マカロンの微笑みのよう。そして続く。
「3人が週に2回ずつ、この家で家政婦をさせてもらおうと話が成立したの」
家政婦!? オーバーなアクションこそ発生しなかったが、目が点になるくらいは起こった。。
「悠に尽くし、花嫁修業にもなる。お互い損はしないでしょう?」
琴美のスマイルはどうしてか生々しい。
「私、昼だけじゃなく夜のお仕事も一生懸命やるつもりだよ」
ほのかが真っ赤な顔で身を乗り出す。やる気満々なご様子だが、プルンと胸が揺れたところでまりんに頭を小突かれた。悠は、しっかり者に見える年上女子にたずねる。
「まりんさんもそのつもり?」
すると年下の巨乳を小突きながら年上は返答。
「もちろん、俺だけ蚊帳の外は愉快じゃない」
ほのかに負けずやる気満々としか見えない。そこに今まで黙っていた母が、じつに白々しくつぶやく。良い話じゃない! と肯定。そのあげく、ちゃんと全員に給料を払う意思があるとも。
「給料?」
「あたりまえでしょう、無料でコキ使うなんて出来ますか」
「でも、みんな学生だぞ……ほのかって中学生なんだぞ」
「別にいいじゃない、今どき中学生が労働を経験したって」
バンとテーブルを叩き息子をビクッとさせた母は、ジッと自分を見つめる3人の女子をそれぞれにかわいいと評価。対する悠はぼっちで情けないと批判。
「でも母さん、その言い方だと一つ考えなきゃいけないんじゃないか?」
「何を?」
悠は言う。日本じゃぁ最後は一人しか選べない。家政婦なんかさせて選ばれなかった2人はあんまりにも気の毒じゃないかと。物語を立てた自分そっちのけで、母を悪人っぽく見つめる息子。
「それは大丈夫よ」
「どういう風に大丈夫なんだ」
「悠に選ばれなかった2人は、私が一切の責任を持つから」
「責任?」
「そう、良い相手が見つかるまで自分の娘のように面倒見る」
あぁ、これってもう決まっちゃってる話なんだと悠。あれこれ言ってもムダな抵抗って感じがある。一応父さんはどう思っているのかと言ってみたが、女の多勢を恐れているらしくノータッチだそう。女に制圧されたってことだ。
「悠、大切なことを忘れてるわ」
「大切なこと?」
「そもそもの発端は悠にあるの、とやかく言う資格はあなたにないのよ」
スッパリ母の真剣、悠の首が斬り飛ばされた。3人を見ると、琴美が口を閉じたままにっこりと笑う。まりんのニンマリ。
「悠、大きいおっぱいが好きなら私との出会いは運命だと思うの」
ほのかの声は悠をがっちり縛る。
テーブルの上に大きな画用紙がある。そこに母が濃いめの鉛筆と定規を使って簡易的なグラフもどき作って記入し始めた。
「ほのかちゃんは土曜と日曜日ね」
つぶやく母が書き込んでいる。
「私は月曜日と火曜日の朝、夜も顔を出します」
琴美はその趣旨を母に伝える。
「俺は木曜日と金曜日に」
まりんがそう言った。というわけで、悠が一人落ち着けるとかほざけるのは水曜日だけとなる。
それを良しとする母によれば、3人ともに1日3000払うらしい。という事は、合計すると月に家政婦代として7万円ほどの支払い。母は息子が幸せになるためなら気にしないと明言。親のカガミ?
「では明後日の月替わり、1日から始めてもらうって事でいいかしら」
カレンダーを見た母、引き出しから家の合いカギを3本取り出して女子たちに渡した。悠が驚いた顔をすると母は力強く言い切る。
「信頼してこそ絆や愛は生まれるもの」
感動的な言葉に3人の女子はスペアキーを握りしめる。
「では、明後日の月曜日からよろしくお願いします」
述べた母と3人の向き合いと一礼。もはや悠の意見なんぞどうでもよいわけであり、生真面目な人が聞けば不謹慎と激怒するような生活の始まりだった。
夜。部屋をもう少しきれいにしようと努力をしている悠。母は掃除が好きだ。ゆえに女は男より掃除が好きなのかもしれないと思う。三女子が掃除とか言い出しても大丈夫にしておく必要あり。男子としてスキがないように。
そこに拓夢から電話。相手が何の話をしたいかは楽に想像つく。スマホを耳にあて応答した。やっぱり思った通りだ。
「で、実際どうなったのよ」
「う~んっと……」
一瞬言いかけた、3人の女の子が日替わりで家政婦でやってくるとかいう事を。でも瞬間的に、言わない方が平穏を保てる気がする。言うな! って書かれたプラカードが空気中に見えた。。
「まだ話はなにも決まってないっていうか」
「そうだろうな、それがフツーだよな」
拓夢は一人で散々に語った。そんなクサレな話がうまくいくわけがないんだと、安心したような声で言い切ってから電話を終了。ま、この拓夢には言わなくてもいいか、黙っておいた方が平穏だと胸に決める悠だった。
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