第十三章 あつい夏休み
あつい夏休み、もっとあつい恋
海の日寸前。
なつやすみへのキップ手にするため終業式。ギラギラする太陽のあつさも、青春エネルギーに変換できる。
ほのか、きょうは学校が終わったらショッピングモールに向かうとした。下着買わなきゃってことと、夏の女に必殺アイテムたるビキニを買うため。とにかく悠の心を、ビキニの胸や谷間にギュッと捉え込むため。
「ついてこなくてもいいのに」
ムリヤリついてくる2人の友人を、プーッとふくらませた頬で見つめる。
「ついていきたい、勉強のために」
「そうそう、ベンキョー、ベンキョー」
2人は同色の目をほのかに向けた。彼女たちにすれば、Eカップのブラや着替えを、ランジェリーショップなんて場所で見たい。
ビキニだってそう。ほのかみたいなタイプがビキニするとどんな絵になるのか? いちどは見てみたい、恋する者の渇望みたいに。
「中2で巨乳やってるほのかが悪いんだからね」
片方が、わたしの言ってることまちがってる? ってにくたらしい目。
「ほのか、おっぱいといっしょ。心も大きいところ見せて、ね?」
もう一方、笑顔ウインクで両手合わせ。
叱咤とおだて上げ、ほのかはクッとにぎった左手を服の上に、谷間の辺りに当てた。太っ腹な心を見せつける。
「しかたないの、いっぽ先ゆく者としてベンキョーさせてあげるの」
そしたら2人は、手をにぎって右腕を高々突きあげた。
―おぉ!ベンキョー大好き―
と太陽に向かってシュプレヒコール。
してたどり着きたるはランジェリーショップ。3人ともブラはしているものの、一人だけ例外ってゆたかさ、華のEカップ。残る2人は早くブラの試着してと急かしまくる。
「ちょっと待っててなの、先にパンツとか他の見るから」
2人の友人のドキドキを煽るほのか。でもこれ、練習をかねていた。じらすのも女の人生に必要なテクニックだからと。
もうひとつ。
パンツ(ショーツ)、ストッキング、これらも抜かりなくかわいく色っぽくエレガントに。中2にしてEカップの胸、その他もグッと悩め香しく合致するとき、生野ほのかは規格外な女子になれるという、そんな考え。
「げっ!」
焦ったゆえに出たって声が聞こえた。かわいいとか色っぽいパンツの並びを見ていたほのかが顔を上げる。
「あ、まりん」
そこには赤い顔して困惑するまりんがいた。ほのかになんぞ会いたくなかったと、口で言わなくても顔面キャンパスに書かれている。
「まりんもこういう店来るんだ?」
プチからかいの精神。
「悪かったな、おれだって女なんだからな」
ふん! と年上のプライドを必死で保つあかい顔。
「ねぇまりん、こういうパンツどう?」
ベージュ色のおちついた雰囲気ひとつ。地味! とっても地味! でも地味だからまりんに似合うかも? って、ニッとするほのかの目。
「そういうの趣味じゃない」
聞くとほのかは、デカい一粒いちごのパンツを手にして旗のように振る。
「これは?」
まりん右手をにぎりプルプルふるえて一言。
「あほか!」
ったく、と舌打ちしたまりん。ほのかがパンツやらストッキングを吟味しているから、先にブラをカゴに入れておこうとする。年下、中学生、なのにEカップ。あんなのと並んだ日には精神安定剤がいくらあっても足りない。
それから他のを見ていたら声が聞こえた。目を動かすと、試着室の方に女子2人。きっと中にいる友人を見てるんだろう。しかし女子というのは声がデカい。聞きたくもない会話が、無理やり耳穴に投げ込まれてくる。
「やだ、ほのかの乳ってサマージャンボじゃん!」
「Eカップって世界がちがう……」
「うぉ! ほ、ほんとうにEカップでピッタリなんだ?」
「その谷間……指入れてみたいよぉ……」
などと、聞かされる方が穴があったら入りたくなる。あの会話をボリューム下げずにやる女子中学生。まりんはあそこにいる3人に、ひとりずつ頭突きをしてやりたい気分になったりした。
一足先に退店したまりん。ちいさい口笛、おちつかない様子。もうひとつのお目当ては同じフロアにある。このだだっ広いところを、グルっと回るような気持ちで進んでいけば、奥に出てくる。
「う~ん」
恥じらいな顔。
「下着も水着もいっしょだと思えばいいはず」
自分の背中を押すようにつぶやきながら、クルっと方向を変えて上がりエスカレーター。金払って買い物するのに恥ずかしがってどうする! と、自販機の前に立つ。景気付けに一本ジュースを飲もうというわけだ。
「心身ともにスカっとするらしい、一回飲んでみっか」
とつぶやき、「超絶ドデカビタZ」を購入。キュッと小さな首をひねり、キャップという頭をゴミ箱に放り込んで口を当てた。
「んぅんんぅ」
勢いよく飲む。
ジュワっとくる走快感。甘ったるしい粘着性。でもウワサは本当だった。飲んでいると、それは脳内の一角に流れ込んできた。
(んぅ?)
まりんの目が大きく開く。眠っていた部分がたたき起こされるような感覚。からだ中にみなぎる黄金エナジー。活性という名の海が目の前に広がってきた。
「ふぅ……効くぅ!」
ちょい感激ってな表情。ゴミ箱に入れたブッ太いビンが立てる音。さぁ行くぞ! と、まりんはエスカレーター、お目当てフロア。
「あら、まりんじゃない」
ふと、振り向けば琴美の姿。
「あ、琴美か……」
「まりんも買い物?」
「もしかして琴美もいっしょじゃない? 水着売り場とか」
「すごい、まりんって読心できるんだ!?」
「いや……フツーに察しがつくと思うんだけど」
琴美が歩き出すと、まりんが肩をつかんだ。こっちから行こうと立てた親指でうながす。ランジェリーショップの前を通ると、生意気な中学生でうるさいと思って。
「わたしは、あれだ……琴美みたいにかわいい水着は似合わないと思ってる」
琴美に言われるより先に、自分から痛々しい発言をしておくまりん。すると琴美、軽く首をひねった。
「それはちがうわ」
「ちがうって?」
「水着がまりんを選ぶんじゃないの、まりんが水着を選ぶのよ」
ピタッと足が止まったまりん。
「どうしたの?」
琴美が振り返ると、あかい顔したまりんが頭をかいていた。
「いや、琴美って言うことが冴えてるなと思って」
「そう?」
「そう思う」
「まりんにホメられるとうれしいわ」
ニコっとエレガンスな微笑み。一方のまりんは思った。なぜか、思いっきり、負けたようなキブンと。
とある店に到着。ただいまは夏をエンジョイするためのサマーセールが行われていた。その名も「夏を飾る乙女フェア」
「えっとさぁ、琴美」
「なに?」
「ビキニとかやるつもり?」
「えぇ、そのつもり」
琴美はあれこれ語った。自分はどういう女でどういう体型で、バストはいまのところCカップ、似合う水着やら色などしっかり考えた。ビキニなら何でもオーライ! ってわけじゃなく、自分に合うモノをしっかりチョイスする精神。
「それってどういうの?」
「たとえばこういうの」
琴美の手は、ペイズリー柄のネオンカラー(ピンクが目立つ)の三角ビキニ。暑苦しい夏を涼しくするだろうリゾート感。
「さすが……」
まりん、ビキニと琴美を交互に見た。たしかに似合うのだろう。自分の事をとっても心得ているゆえの選択に思える。抜かりないって感じが琴美らしい。
おっほん。
咳払いしたまりん。小声でアドバイス乞うた。わたしみたいな女は、どういうのが似合うだろうかと。
「まりんもビキニすればいいじゃない」
「で、でも似合う自信ない……」
「まりんは背が高いから、チューブトップビキニとか似合うんじゃないかしら」
「そ、そうかな」
「何事も試してみればいいじゃない、新しいトビラを開いてみないと」
「あ、新しいトビラか……たしかにそうかもな」
海野まりん。顔に出すまいとドキドキしていたら、ちょっとほろ酔いみたいな感じに浸りかけたら耳に声。
キャピキャピ、にぎやか、やかましいって声。はぁ~っとためいき。振り向かなくても誰かわかる。そうか、やっぱり来るのかって感じだ。
「あ、まりんと琴美がいるの」
ほのかが立ち止まる。
「あら、ほのか」
琴美が微笑み。
「ふん」
そっけないまりん。
ほのかは2人の友人を見ると、両手を合わせてにっこり。知り合いだから、悪いけど今日はこれでパス! と。
えぇ~! と残念そうな2人。ほのかのビキニ姿を見せてもらうつもりだったのだ。そのうちの一人が、ほのかの肩を叩いて耳元でささやく。
「あの背が高い人、さっきも見たけど格好いい」
「女だよ?」
「女だから格好いいわけじゃん。サイン欲しいな」
「ダメなの、あの人はそういう話は通じないから」
「残念……」
「はい、帰って、今日はこれでオシマイだよ」
ほのかはうるさい2人を追い払い、ニンマリ顔で琴海とまりんの間に割って入る。やっぱり夏は海だよね、水着だよね、お色気だよねと前置き。それからチラッとまりんを見る。
「まりん、どんな水着する気なの?」
「お、おれは」
まりんは一瞬ためらった。でも、にくたらしいほのかの笑顔と、言っちゃいなさいよって顔の琴美を見てうなづく。
これだ!
まるで印籠を突きだすように見せた。
「チュ、チューブトップブラ……」
突然にほのかの顔が青ざめる。まりんが的を得たチョイスしている。的外れな事を言ったらクスっと笑うつもりだったのに。
「まぁ、わたしには大人の色気があるからな。こどもには負けない」
調子にのったまりんの顔。クスっと笑った琴美。それはほのかの闘争心に火をつけた。赤色矮星が太陽になった。
「本気出す!」
とかいったほのか、三角ではなくブラタイプのビキニをチョイス。琴美は一瞬、それ来るか! って顔した。でもまりんは意外だなって顔してつぶやく。
「地味じゃん、ほのかだから極小三角でもやるのかと思ってた」
「まりんゼーンゼンわかってないの」
「な、なんだよ」
「そんな目先の刺激なんかいらないの」
ほのかによれば、巨乳、自分の身長や体系などからブラタイプで谷間を見せるのがグーらしい。ヘタなビキニよりずっと悩め香しくてトレビアーンらしい。
「ま、似合う水着を選んでも、太陽を味方につけないとね」
つぶやいた琴美。そのスマイルには、口で言わずとも自信たっぷり。その自信がどこからくるのか分からないとしても、その自信もまたエレガンス中エッセンスか。
「太陽は若さと巨乳の味方なんだよ」
ほのかは琴美につぶやいた。次にまりんを見る。
「わたしの谷間、まりんなんか寄せつけないから」
言われたまりんが返す。
「太陽は知と美の味方。谷間だけのやつは嵐に抱かれておぼれてろ」
「まりんには知も美もリッパな谷間もないの」
「なんだと!」
と言い合って水着を選ぶ3人だった。
数十分後。
モールの前にいる3人。仲良し3人組のようだが、夏休みを飾りたいってキモチで張り合ってる。
音川家も、生野家も、海野家も、それぞれ中津井家と交流しましょうって思い描く絵が固まりつつあった。
もっと深く、もっと親密に、もっと絡み合うように。悶々たるキモチ、意識の融合、共有、離れがたい感性のハーモニー。
「夏休みは親戚がよく遊びにくるのよね」
琴美がつぶやいた。親戚というバックグランドで、悠との間柄にうかぶメロディーを濃密なモノにしようって頭かもしれない。
「うちは親戚いっぱいいるんだから」
ほのかはEカップ胸に腕組みをあて、親戚を利用するのも手だなと考える。利用できる者は何でも利用し、悠との恋にもっともっといっぱい花を咲かせる。うすいピンク色の蓮、あるいはかがやくスイレンの花。
「うちは親戚の家がちと遠いんだよなぁ」
って言いながら表情がシブいわけでないまりん。いざとなりゃ悠もいっしょに親戚の家に泊まりがけしようかなんてあざとい物語。
あつい夏、あつい夏休み、そしてあつい青春。顔を見合わせた3人。出会ってみりゃいい関係とか友だちになれそうとしつつ、夏休みに進展を起こしたいキモチではビリビリっと電流。
「じゃぁ、これで」
ほほえんだ琴美。
「バイバイなの」
早くかえって夏休みの絵を描きたいほのか。
「じゃぁな」
一見冷静ながらも、心の中は……みたいなまりん。
それぞれ別の方向に歩き出した3女子。やけどしそうにあつい夏休みが展開されるだろう。それは、中津井悠が思う「あつい」の10倍、いや20倍くらい。
あつい夏休みの始まりだ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
みなさんにもたのしい恋が訪れますように!




