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第三話 チュータ、城へ招かれる






「うっ……」

「チュータ、大丈夫?」


聞き慣れた声がする。目を覚ますと顔を覗かせる紡の姿があった。紡の周りには仁香ちゃんと巽美の姿もある。上半身を起こすとようやくここがどこなのか理解できた。俺が眠っていたのは部屋の中にある豪華なベッドだ。天井には高そうなシャンデリア。床も見た事ない柄の絨毯が敷かれている。つまり、ここは金持ちの家だ。あの神様の話が本当なら異世界か。


「…ここ、異世界なのか?」

「多分…な」


問に答えたのは巽美だった。しかし、その答えには勢いがない。自信がないんだろう。俺だってここが異世界だって根拠はない。でも前は教室にいた筈。しかも変な夢?まで見せて……そう、神様の…!


「なぁ、皆は神様って人に力を貰ったのか!?」

「え…チュータも? じゃあやっぱり全員貰ってるんだね」

「んじゃあ、なんの力貰ったのか一人ずつ言ってこうぜ!」

「チュータ君も巽美も想像付きますわ。チュータ君は吸血鬼(ヴァンパイア)、巽美は力が欲しいとかお願いしたのでは?」


巽美も俺も当たりだろう。巽美なんて言い当てられてビックリしてる。


「凄いな仁香ちゃん…」

「チュータ君の場合、今吸血鬼(ヴァンパイア)にハマっていると分かっていましたもの」

「なら俺はなんで分かった!?」

「巽美は何となく、ですわ」

「じゃあ紡ちゃんは?」


矛先は当然、紡へ。


「え! わ、私? えっと………言わなきゃダメ?」

「ダメだ。皆言ったからな」

「…恥ずかしいけど。魔法使いになりたいって…」


言いながら紡の顔が真っ赤になる。そういえば紡は小さい頃から魔法少女系が好きだったな。アニメが始まる時間になると俺までテレビの前に座らせられて、同級生に馬鹿にされたっけ。まぁ紡らしいかな。


「へー。なんか意外だな」

「いいえ…紡ちゃんらしいと思いますわ」

「へ? 私らしいって…」

「そうそう。昔は強引に魔法少女のアニメ見せられたなぁ」

「え! あ、そんな事あったかも。よく覚えてるね! 懐かしい〜」


嫌味のつもりで言った筈が紡には懐かしい話しだったらしく、目を輝かせていた。昔話しに花を咲かせていた時だった。コンコン、とノックの音。その数秒後にドアが開いた。部屋に入って来たのは薄いピンク色のドレスを纏った可憐な少女だ。巽美と同じ金髪だがその風貌のせいか、キラキラしていてまったくの別物に見える。瞳は鮮やかなエメラルド色をしている。こんな綺麗な瞳の色は見た事がない。


「…突然、お呼び立てしてしまい申し訳ございません。勝手ながら皆様を“勇者”として召喚致しました」

「ゆ、勇者!?」


思わずデカイ声を出してしまった…。しかし内心ではあまり驚いてなかった。だって神様に会ってここが既に俺達が知ってる世界じゃないと気付いてしまっているからだ。それに召喚ってなればやっぱり勇者だよな。


「はい。ここはウィスタリア王国、今皆様が居る場所は城の中です」

「…城」

「申し遅れました。私、ウィスタリア王国 第一王女のラティファ・ウィスタリアと申します」


ラティファと名乗る少女はドレスを掴んでちょこんとお辞儀をする。元居た世界じゃお姫様なんか見た事なかったから新鮮だ。目の前で愛くるしく微笑んでる少女はここが異世界だと決定付けるには充分だった。


「えっと、俺達はこれから何すればいいの?」

「はい。皆様には勇者として、悪しき魔王を倒して頂きたいのです」

「うぅ…や、やっぱり」


やっぱり。ここはまだテンプレだな。紡は多少、いやかなり怖がってるけど。確かホラー系は苦手だったか? それより魔王討伐か!

漫画の世界に来たみたいでワクワクする。


「この世界は五つの種族に分かれています。私達のような人間族(ヒューマン)、獣のような姿をした獣人族(ジュウジン)、高貴な存在とされる精霊族(セイレイ)、悪しき存在魔族(イデア)…そして人間と似た姿をしている吸血鬼(ヴァンパイア)です」

吸血鬼(ヴァンパイア)って…」

「……人間族(ヒューマン)獣人族(ジュウジン)と条約を結び、共に助け合って生きています。精霊族(セイレイ)は人間に見える人が少なく、また中立な立場です。しかし魔族(イデア)吸血鬼(ヴァンパイア)は非常に好戦的で残忍です。この二つの種族には気を付けなければなりません」


この世界で吸血鬼(ヴァンパイア)は悪い存在なのか。漫画の中じゃ凄い優しいんだけど、漫画と現実は違うんだな。


「ん? あなた、少し私達と違うような…」

「え!?」


た、確かに神様に吸血鬼(ヴァンパイア)になりたいってお願いしたっけ。でも意識を失う前に不完全とか何とか言ってた気がする。


「ち、違うってどこが?」

「耳が少し尖っているような……それに歯も。もしかして吸血ーーーー」

「ラティファ様っ!」


ラティファにジロジロと見られてマジで焦った!

正体がバレたかと思った。俺は助かったみたいだが、何だか慌ただしい雰囲気だ。声がした方にはメイドさんが。慌てて来たのだろう、息が荒い。


「今勇者様を迎えている所です。下がりなさい」

「し、失礼を承知で参りました。城に侵入者が入りました! ラティファ様、一刻も早くお逃げ下さいっ」

「な…なんですって!?」


侵入者? この城に? 言われてみれば騒がしい気もする。城となれば国王も居る筈だけど今は居ないのかな。来て早々、運が悪い。


「…侵入者とは何者なんです?」

「……そ、それが噂だと吸血鬼(ヴァンパイア)魔族(イデア)だとか」

「あの種族が手を組む? そんな……」

「ラティファ様だけでもお逃げ下さい。城下町へ行けば騎士団達が保護して下さる筈です」

「で、ですが…」

「勇者様方。どうかラティファ様をお守り下さい!」


メイドさんが必死に頭を下げる。そんな時、爆発音が聞こえた。かなり近い。廊下から怒号やら叫び声が聞こえる。この状況だと敵はかなり近くに居るんだ。このメイドさんは俺達に頭を下げてる。応えないと。


「…あぁ、ラティファ様は守るよ」

「こうなったら私だって頑張るもん!」

「ぶっつけ本番だが、まぁ何とかなるだろ」

「うふふ。今度は沢山暴れる事が出来ますわね」

「…ゆ、勇者様方! ありがとうございます。逃げ道はラティファ様がご存知です。すいません、この短時間だと城地下の罠を把握するのは難しいんです」


罠!? いや、怖気付いてる場合じゃない。俺達はメイドさんとの約束を果たさないと。ラティファ様を城から脱出させる。


「…ありがう、レイメイ。ですが一緒に外へ」

「いいえ。私は逃げ遅れた人と一緒に行きます…ですからラティファ様は勇者様方と御一緒に」

「…………分かりました。必ず、来るのですよ」


こうして俺達はメイドさんと別れた。廊下に出ると余計に騒がしい。ラティファ様を先頭に走る。今居る場所が二階らしく、一階降りなければ地下へ行けないらしい。地下は大迷宮となっていてウィスタリアの王家じゃないと迷ってしまうと言っていた。


「……勇者様方、ここからはいつ戦闘になってもおかしくありません」


ラティファ様は小声で言う。ようやく一階に降りる階段まで来たんだけど、出入口があるせいか魔族(イデア)が見張りをしていた。見張りは出入口に一匹、出入口付近に二匹。最後に地下への入口に一匹の計四匹。これは必ずと言っていいぐらい戦闘になるな。


「ふっ…ようやく殴れるのか」

「手加減無しにどうぞ、殴って下さいな」

「わ、私と仁香ちゃんはラティファ様と一緒にここにいるよ」

「え! ずるー」

「おい、バカ! 声デケーよっ」


言われてハッとする。慌てて自分の口を手で塞いで一階を見る。一、二、三……三? 見張りは四匹いたよな。じゃあなんで一匹足りないんだ!


「キャー!」

「なっ」


すぐ後ろから叫び声。すぐさま身体が危険を察知して離れる。同じように瞬時に離れた巽美が横に。突然の事に訳も分からない仁香ちゃん、そして人間とは言い難い異形の者に腕を掴まれてる紡。


「紡っ!?」

「チュータ…たっ、助けて」

『ココニモ、ニンゲンダ』


恐怖で泣き出す紡。助けたい、助けたいけど…どうやって?

人間、本当に窮地に陥ると何も出来なくなると聞いた事があるけどそれが今分かった。漫画の中の吸血鬼(ヴァンパイア)はカッコよかった。でも今の俺は?

せっかく神様から力を貰ったのに……。ただ見てるだけでいいのか? そんなのダメに決まってる。やってやる! 力を信じるんだ。


「クソ野郎! 紡を離せぇぇっ!!!!」

『グエッッ』


紡を助けたい。そう思ったら自然と身体が動いた。走ったと思ったら次の瞬間にはもう化物の側にいる。後は拳で殴るだけ。巽美みたいに強くはないけど、俺の拳は的中した。すると信じられない事に壁を突き破って消えてしまったのだ。これが吸血鬼(ヴァンパイア)の力なのか…。


「ハッ! 紡、大丈夫かっ」

「う、うん」


良かった。傷一つ負ってない。紡がまた笑ってる…それだけで充分だ。


「今ので奴らも俺達の存在に気付いたようだぜ」

「…紡、仁香ちゃん。ラティファ様をお願い」

「分かりましたわ」

「…気を付けて」


紡達を巻き込まないように手すりに立ち、注意を自分に向かせる。敵は三匹、巽美と戦えば余裕で勝てる。巽美もそう思ったのか頷く。敵が何かを言ってるがそんなのは知らない。一気に叩きのめす。俺は手すりの上から敵目掛けてジャンプする。不思議と身体が軽い…羽でも付いてるみたいだ。そんな事を思いながら敵目掛けてパンチを繰り出す。すると、壁にくい込んで動かなくなった。


「いてぇー」

「バーカ。喧嘩なれしてないからだろ」

「む…って、もう二匹倒したのかよ!」

「言っただろ。お前とは経験が違うんだ」


悔しいがその通りだ。何も言い返せない。まぁとにかく四匹倒した。後は地下に行くだけ、そう思って油断していたんだ。俺は気付けなかった……敵はまだ居た事を。



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