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第一話 チュータ、学校に行く




ーーーー吸血鬼。それはアニメや漫画、映画なんかでよく見るだろう。吸血鬼が美人の血を飲むシーンなんかはドキドキしてしまう。俺の中では吸血鬼が一番最強だと思ってる。大抵のアニメや漫画だとそうだろ?一度で良いから俺も吸血鬼になってみたい……そして美人の血を吸ってみたい……。


「チュータ、ちゃんと歩かないと危ないよ」

「ふんっ。今度は何に影響されたんだ?」

「チュータ君は相変わらずですわね」


一緒に登校してる友人が順番に口を開く。チュータとは俺のあだ名だ。本名は御子柴(ミコシバ) 忠太(チュウタ)。まぁ、忠太を伸ばした感じだ。よくもまぁ、こんな名前を付けたもんだ。昔、名前について疑問を感じた俺は母さんに聞いた事があった。返ってきた答えは「適当よ」。いやー、あの時は軽く道を踏み外しそうだったなぁ。


「なんだよ、ちゃんと歩いてるだろー」

「むっ……せっかく注意してあげたのに」


今喋った奴が俺の幼馴染み、柳葉(ヤナギバ) (ツムギ)。セミロングの茶髪で瞳も茶色。肌が白くて、性格も良いらしくて学校ではモテる。本人は否定していたが、中学では三年間で百回以上も告白されたという伝説があるぐらいモテる。まぁ、中にはストーカーする奴も居るから登下校はなるべく一緒にしている。


「まーまー。んで、今は何にハマってんだよ」

「おぅ! 実は吸血鬼(ヴァンパイア)の漫画でさー」


この馴れ馴れしい奴は中学からの友達で、吉川(ヨシカワ) 巽美(タツミ)。髪は金髪に染め、その拳は血で真っ赤に染まる。返り血は顔にまで飛び散り『鮮血の悪魔』と町内で噂になる不良だった。正直、この頃の巽美は凄かった。俺達と歩いてても喧嘩挑まれたりしてたもんな…。今は保護者(?)が居るから下手に暴れたりはしないだろう。


「次は吸血鬼(ヴァンパイア)物ですか。チュータ君の後で結構ですのでぜひ、読ませて頂きたいですわ」

「いいぜ! ちょー面白いからなっ」


この上品な言葉遣いの子は中学からの友達の三好(ミヨシ) 仁香(ニカ)。三好財閥の令嬢で家はかなりの豪邸。巽美とは幼稚園からの付き合いらしい。巽美の保護者だ。大和撫子を思わせる艶やかな黒髪に上品な言葉遣い。まさしく令嬢。しかし、やっぱり暴走する巽美を止めるのは大変だろう。その苦労からか、二つ目の人格が現れた。向かって来る者を素手で蹴散らす。武器を持たせたら死人が出るだろう。それはまさしく『狂乱の美少女』。中学の頃、喧嘩成敗で巽美含め、十人以上を病院送りにした。


「ほら、チュータ。着いたわよ!」

「へいへい……それにしても何で夏休みのこの時期に学校来なきゃいけないんだー」

「それはチュータ君と巽美が馬鹿だからですわ」

「うぐ……仁香ちゃんって毒舌だね」


そう、夏休み真っ只中のこの時期に俺達は学校に居る。俺と巽美は補習。ま、俺達は中学からの常連だからな。紡は吹奏楽部の部活。うちの高校、部活に力を入れてて夏休み中でも平気で部活だからなー。仁香ちゃんは美術部の部活。仁香ちゃんの描いた絵は美術館に飾られるぐらい絵が上手い。絵心ゼロの俺とは段違いだ。


「じゃあ、チュータと巽美君はあっちだよね。私と仁香ちゃんはあっちだから!」

「ではお二人共、お勉強頑張って下さいね」

「あぁ。また昼なー」

「じゃあなー」


紡、仁香ちゃんと別れた俺達は補習場所である自分の教室に行く。教室に入ると既に四人いた。挨拶を交わしながら一番後ろの席に着く。この補習は俺達も含めて六人しか居ない。席に着くとまもなくチャイムが鳴って先生が入って来る。上下ジャージ姿に片手には竹刀を手に持った竹内先生だ。竹内先生は黒髪を後ろで束ね、黒縁眼鏡を掛けている。三十路で結婚はしてない。ちなみに男子体育の先生で見ての通り、やらかすと竹刀で叩かれる恐ろしい先生だ。


「……全員揃ってるなぁ?」


出席簿と竹刀片手に一人一人、ガンを飛ばすように眺めてくる。竹内先生が来てから教室の雰囲気が凍りついてる……心なしか、生徒達が震えている気がする。よりによって補習担当の先生が竹内先生とは付いてない。サボろうと思ってもこの先生じゃ無理だ。むしろサボったりでもしたら公開処刑が待っている。


「……今からぁ、一人一人に課題を渡すぅ。いいか、くれぐれもサボるんじゃねーぞぉ?」


おぉ、怖い。この先生、ガンを飛ばすだけで相手を失神されちゃうぐらい最強なんじゃない?サボるだなんて、そんな命知らずな事なんかする奴いないだろう。配られた課題に名前を書く。量はあんまり多くない。カチカチとシャーペンを走らせる音が響く。竹内先生の授業の場合、なるべく授業時間以内に終わらせなければいけない。さもなくば、竹内先生の必殺ガン飛ばしが待っているのだ。それもただのガン飛ばしじゃない。四六時中、例え家に居ても先生の視線を感じてしまう程学校に居る間中ずっとガンを飛ばされるのだ。だから皆、必死で課題を終わらせてる。


「…なぁ、チュータ」


隣りの席の巽美が小声で話し掛けてきた。竹内先生の授業中に話し掛けるなんて巽美はなんて命知らずなんだ!しかもバレたら俺にも被害があるんだぞ!? しかし、ここは友達の頼み。せめて聞くだけでも…。


「…な、なんだよ」

「…………今日の竹内、化粧濃くね?」

「………」


それだけ!? 言いたかった事ってそれだけかよ! それだけで命を捨てるのか巽美ー。しかも笑ってるし、肩震えてるし。さすがの俺でも竹内先生の授業中では喋んないぜ。俺だって命は欲しいからな。呑気な巽美に呆れてる時だった。俺は寒気を感じた。危険察知が反応している。ギギギとぎこちない感じで右を向く。すると既にガンを飛ばす竹内先生の姿が。


「……どーしたぁ、御子柴ぁー。何かわからない所でもあったかぁ?」

「いいいいえ! な、なんでそう思うんですす?」

「…いやー。手が止まってたからなぁ、吉川と楽しそうにお喋りしていたようだがぁ?」

「めめ、滅相もありません! 俺はこの通り課題に集中していますっ」

「……そうかぁー…………」


あの竹内先生がニコッと笑う。でもその笑顔が逆に怖く感じるのは恐ろしい。竹内先生が笑顔のまま俺の耳元で何か呟いた。もうね、死ぬかと思ったな。先生が行った後、チラッと巽美を見る。するとまだ笑っていた。よし、後で巽美をぶん殴ろう。







それからは真面目に死ぬ気で課題と格闘する事、三時間。無事授業は終わり課題も終わらせた。全員分の課題を手にし満足したのか竹内先生は教室を出て行った。張り詰めてた糸が切れたようにバタバタと机に伏せる生徒達。まぁ、分からなくもない。俺もこの三時間でかなり疲れた。誰かさんのせいでな。


「おい、巽美! さっきはよくもやったなっ」

「…気付いちまったんだから仕方ないだろ。お前、よく笑い堪えられたな」

「あそこで笑ったら俺が殺されるだろうが…」

「アハハ、確かにな」


笑い事か…と言いたくなったがやめた。俺にはもうそんな体力が残ってないからな。時間は昼か……紡達と合流して昼飯の時間だな。昼飯の後、夕方までまだ補習が残っている。そう考えると身体の力が抜けてしまう。


「ま、あれは流石に悪かったよ。詫びに昼飯奢ってやるよ…」

「え! マジか! やったー」

「そうと決まれば、早いとこ紡ちゃん達と合流しないとな」

「だな」


合流場所は前に決めていた。使われてない空き教室だ。紡と仁香ちゃんは自分で弁当を作って来てて、俺達は購買部で買っている。夏休み中でも多くの部活メンバーが残っている為、購買部は営業しているのだ。


「チュータ。お前、カレーパンだろ?」

「何でもいいぜ! じゃ、俺は先に行ってるからなー」

「りょーかい」


購買部へ向かう巽美と別れて俺は合流場所に向かう。使われてない空き教室、それがなんで昼飯の場所なのかというと。普通の教室は違う学年や部活なんかで使ってるらしく学食が買える場所は閉鎖されてる。だから空き教室になったという訳だ。まぁ、そっちの方が昼飯が終わってもすぐ移動出来るから楽なんて理由だ。空き教室に入ると先客がいた。


「…あら、チュータ君。早いのですね……巽美とは一緒ではないのですか?」


机に座って本を読む仁香ちゃんの姿があった。仁香ちゃんが座る席の他に四つの机と椅子が用意されている。一つは仁香ちゃんのデカイ弁当箱を置く机。あとの三つは俺達が座る席だ。


「あぁ。竹内先生の補習で色々あって、昼飯奢って貰う事になってさ。今買いに行ってるよ……それより一人で用意させちゃってごめんな」

「いいえ。これぐらい、なんともありませんわ」


机と椅子は一セットずつ後ろに下げられている。それを五個分動かすのは女子一人じゃキツかっただろう。もう少し早く来れば良かったな…。


「何かあったの?」

「お、紡に巽美! いーや、何でもないよな仁香ちゃん」

「えぇ」


早速合流した俺達は席に着いた。


「チュータ、ほらよ」

「おわっ! サンキュー」

「それだけじゃお腹すくでしょ…良かったら食べる?」

「それならば私のもぜひ、皆さんに食べて欲しくて作りすぎてしまいましたわ…」


確かに、重箱四段は作りすぎだと思う。それにしてもこれだけでお腹いっぱいになりそうなんだが…。紡の方は一般的な弁当だ。二段弁当で一段目はおかずが入ってるな。という事は二段目がご飯か。それに比べて俺は巽美が買ってきたカレーパンのみ……巽美はメロンパンのみか。


「ちゅ、チュータ。玉子焼好きでしょ? 甘くしたつもりだけど……いる?」

「いいのか? なら食う!」


紡の作った玉子焼は美味いんだよなー。紡は少し顔を赤らめて弁当箱をそっと差し出す。そのまま取れって事か? 俺は弁当箱から玉子焼を一つ掴み、口の中に放り込む。その瞬間、甘みが口の中に広がった。柔らかい玉子焼は一口噛むとまた更に甘みが広がる。やっぱり美味い。


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