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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

叶った恋 始まる時間

作者: 他月

『伝えなかった恋 叶った恋』の続編です


前作を読むことをお勧めします



「あ、(あきら)


携帯にメールの着信が告げられた。

相手は、同じ会社で営業のエースで、社内の有名なイケメン富士見(ふじみ)昭。

つい先日、俺の恋人となりました。

正直くすぐったいし、ムズムズする感じがする。

これまで俺は、こんな思いの恋愛はした事無かった。


「『今日早く終わるから、飲みに行こうか』か…」


ヤバイ…まだ仕事中なのに顔がにやけて止まんない。

隠すように口元に手をかざし、素早く返事をする。


「『OK。終わったら連絡よろしく』…こんなんでいいかな」


世の恋人同士のメールのやり取りなんてわからない。

こんなメールのやり取りなら、この関係になる以前も交わしている。

でも最近は、メールの相手が昭だと思うだけで、ドキドキを止められないのだから仕方ない。

これが恋、なのだろう。

それも幸せだと気付かせてくれたのが昭で嬉しい。


本気で脳内ヤバイ今日この頃。


豊島(とよしま)く〜ん。ちょっとこの資料これでいいかな?」

「っと、はーい!今行きます!」


さて、仕事終わりの楽しみも出来た事だし、最後までお仕事頑張りますかね!





「お疲れ様〜」

「お先!」

「お疲れ様でした」


俺は内勤の、品質管理課。

今は仕事も急ぎはないので、定時で上がり。

時間を確認すると、十八時過ぎ。

携帯にも連絡は無いから、昭は仕事中なのだろう。


「豊島 圭介(けいすけ)!この後暇か?」

鮫島(さめじま)さん。お疲れ様です。いえ、今日はちょっと予定が…」


空いた時間をどうするか考えていると、経理の鬼の鮫島 (まどか)が声をかけてきた。

長い髪を軽く巻きハーフアップにまとめて、白いブラウス、ベージュのベストにパンツスタイルは上手くまとまっていて、男女問わず振り返る。

彼女は、ヒールの軽快な足音を響かせ、さっそうと近づいて来る。


「何だ、恋人か?」

「えっ!いや…えっと、まぁそんな所です」


いきなり確信を言い当てられて動揺が、素直に表に出てしまった。

頬に熱が集まるのを感じつつ、どもりながらも肯定する。

嬉し恥ずかしい事このうえない。

しかし、相変わらずこの人の意志の強そうな綺麗な顔は苦手だ。

しかも一気に不機嫌なオーラを纏うし。


「貴様!私というものが有りながら!」

「ちょっと!変な言い方しないで貰えませんか!何ですかその『私というものが有りながら』って!」

「当たり前だろう。この私が誘っているのだから、断るバカが何処にいる」

「何処からそんな自信出て来るんですか…」

「自信では無い。事実だ」


この人は、人の話を全く聞いてないのだろうか。

マジな返しにため息しか出ない。

確かに容姿端麗、其れなりに噂も聞く。


「だったら、俺じゃなくて他の人を誘って下さいよ」

「何回言ったらわかるんだ。私は豊島圭介、お前(・・)がいいって言っている」


真剣な響きのセリフに、不意を突かれて間合いを詰められた。

確かに以前からアプローチをされていた。

でも、好きな人は他にいたし、心を揺さぶられる人もいた。

でも正直、真っ直ぐ思いを告げてくる鮫島には、嫉妬をしていたりした。


俺が出来ない、二の足を踏むような事でも軽々やってしまうとか、妬みの方が強かった。

その為、どんなに思いを告げられようと、そういった恋愛の感情は全く起きなかった。


「だから、俺はその気持ちに答えられないって、返事をしたじゃないですか…」

「それでも私は諦めない!それに、お互いをもっと知れば気持ちも変わるかもしれないだろう!」

「いや、それにさっき恋人出来たって言ったじゃないですか!」

「そんなの私が認めん!」

「いやいや!」


何処までも己にポジティブな鮫島。

押せ押せと腕に絡んでくる始末。


告白しよう。

俺は根っからのゲイだ。

だから恋愛対象が女性に行くことは無いのだ。

どうしようかと周りを見渡して見れば、割と大きな声で争っていた為、遠巻きにされている。

助けを求めれそうな知り合いもいない。

本当にどうしよう。


「圭介、これは何事?」

「へ?」


昨日ぶりに聞く、低めの声が耳をくすぐる。


「昭!」

「うん。お疲れ 、圭介」


振り返った少し先には、昭がこちらに歩いて来ていた。

誰か俺の高鳴るこのトキメキを、どうにかして欲しい。

長い足の彼は、あっという間に俺の元に来た。


「何だ、富士見 昭か。何の様だ?貴様は全くお呼びではないぞ」

「奇遇ですね。俺もですよ、鮫島課長(・・)。という事で、俺たちはこれから用事が有るんでこれで」

「おい!」

「それじゃ行こうか、圭介。鮫島課長それではお疲れ様です」

「え?あれ?」


俺がに昭に見惚れている内に、サッと切り上げた昭に肩を抱かれながら、ロビーを抜けた。


「あ、鮫島さんに挨拶忘れた…」

「大丈夫だよ。俺が代わりに言っておいたから」

「それはそれで、どうかと…」

「そんなことはどうでもいいじゃん。ていうか…実は先約が無かったらあいつと居たかったとか…言わないよね?」


昭さん、後ろなんか見えます!

笑顔で、瘴気を振りまかないで!

という心の声は気合で出さないが、顔が引きつるのは仕方ないと思う。


「ないない!逆にめっっちゃ助かったから!」

「本当に?」

「本当に、本当!」


これでもかってぐらいに、頭を縦に振ると、ようやく信じて瘴気を引っ込めてくれた。


「んじゃ、それよりこれからどうする?どっか店行く?それとも…」


ーー俺の部屋直行?


ボソッと耳元に告げられた余りに色気満載の台詞に、俺の脳内は沸騰する。

機嫌が直った直後の切り返しの早さに着いて行けません!


「なっ!?」

「可愛い。顔、真っ赤だよ」


驚いて見返した昭の顔は、俺を愛おしそうに微笑んでいた。

見惚れてほうけていた俺は、急に近付いてきた顔にビックリしている間に、素早く唇にキスを落とされた。


「そんな顔してるとここで食べちゃうよ」

「っ!?〜〜あきらっ!」


ここはまだ会社に近い場所出し、行き交う人数は一番多い時間帯だ。

キスに喜びながら、会社の人に見られたと思い、俺は赤くなったらいいのか、青くなったらいいのか分からなかった。


「大丈夫。周りからはちょうどここって死角にになってるから」

「そうゆう問題じゃ無いよ!俺はいいけど、営業のお前はもっと気にしなくちゃ」

「仕事の事なら安心して。俺、圭介好きになった時にそれとなく言って回ってるから」

「言って回ってるって何を?何て?」


確かに、周りは看板や街路樹で見通しが余り良くない場所ではあった。

しかし、この帰宅ラッシュの人の多い時間帯だ。

全く安心でき無いはず。

何処で誰が見ているのかわかったもんじゃない。

それでも昭は自信満々に言い切った。


「『俺、今好きな人男だ』みたいなこと?」

「……………………はい?」

「好きな人聞かれて、ある程度は誤魔化して言ってたんだけど、合コンとか飲み会とかやたら引っ張り出された時期が有って。圭介覚えてない?俺としばらく飲みとか遊びに行けなくなった時期」


覚えてる。

急にぱったり連絡が無くなって、こっちから誘っても先約があるって、なかなか会えなくなった時期が確かにあった。

その時だった。

俺の中で友情とは別の感情が存在して居るの意識したのは。

でも、同時に長く続いた片思いもあって、恋愛と意識することを鍵を閉めて心の奥底に閉じ込めた。


「そんで久しぶりに会った圭介は何処か距離を感じたんだ」


俺の勘違いかもなって思っていたけどと呟き、抱きしめられた。

その呟きの切なそうな声に俺は否定できず、代わりに彼のスーツを握った。


「あの時は本当にびびったよ。それでなり振りかまってられないって思ったんだ」

「……昭、俺」

「いいんだよ。これは俺の心の問題だったんだ。それからの俺って凄かっただろ?」


確かに、心の奥底に押し込めた思いを引きずり出す事まで成し遂げた。

それまで以上に優しく、穏やかに、強引に、切ない感情に揺れ動かされた。

そして、そん彼に憤りも覚えたりもしたっけ。

それは余談だが。


終いには一番ボロボロの時に側に居て、感情を誤魔化せなくなった。

だからどろうか、時折これは俺の心が見せる夢なんじゃないかと。

だから現実だと確かめたくて、手に力が入る。


「あ、昭…行こ。お前の部屋」


抱きしめている腕がビクッとする。


「それがどうゆう事か、ちゃんとわかって言ってる?」

「冗談が言えるかよ!この状況で」


これ以上ないかって位顔に熱が集まってる。


「それに!この手の話を俺が冗談で言えるかよ!」

「確かにそうだ」


もう心臓バクバクで泣きそうだ。

そんな俺を昭は笑うし。


「そうと決まれば急ごう!」

「わっ!ちょっと待って!」

「無理!正直今でさえ一杯一杯なんだから、これ以上待たされたら今ここで押し倒す。それでも良いんだったら止まってやる」


どうする?って手を引っ張りながら人混みを抜けて行く。

冗談かもと、思いながら、でも引っ張る力に昭の本気を感じた。



ああ、本気なんだって感じたら、奥から込み上げるものがあった。

手を引いて足早に歩く昭背中を、ただ必死に追いかける。

その先に幸せだけを感じて、同じ位の怖さも抱きながら先に進む。

始まったばかりの恋愛だ。

何処に行き着くかなんてわからない。

だからこそ、一緒に歩む愛しい恋人に伝えなきゃ。


「昭、好き!」


ピタッと止まった彼は振り返る。

驚いた顔が、嬉しそうに緩む表情にときめく。


「俺も圭介が好きだ!」



後は二人して帰宅ラッシュの雑踏の中を走り抜けた。




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