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Blood✝Moon  作者: MaYuRi
3/6

3話

目を覚ました部屋に戻ったイヴはグレイをじっと見た。

グレイはイヴの視線に気づかない様子で、呑気にお茶を淹れていた。


「我が主、ユエ様を救ってくれたこと、感謝いたします」


「私は何も…」


イヴは首を横に振る。

グレイは「いいえ」とほほ笑み、イヴの手にカップを乗せる。


「自ら血を与える者などおりません。ユエ様はこの世界の王。死を迎えるなど早すぎます。ユエ様に変わり、私からお礼を申し上げます」


イヴはどうしていいか分からず、カップに口をつける。

花のような香りが口いっぱいに広がる。

そして、じっと窺うようにグレイを見た。


ユエの瞳と同じ赤色の髪

ユエの髪と同じ黒い瞳

二人の瞳と髪は逆の色だった。


それでも…二人の容姿は美しかった。


「それにしても…イヴ様の髪色は美しい銀色ですね。人間とは思えない」


「嫌いです…こんな髪」


そう言ってイヴはキッとグレイを睨んだ。

グレイはそんなことを全く気にせず、イヴの髪をじっと見つめる。


「家族に…そのような血統の持ち主がいたのでしょうか」


「グレイ、イヴ様に失礼なことをするな」


二人の間に入ったのは、グレイとよく似た女だった。

二人の容姿はどちらが見違えるくらいにそっくりだった。


彼女はイヴを見て、にっこりとほほ笑む。


「イヴ様、大変失礼しました。グレイの妹のクレイと申します。エリルと同じく、貴方の世話をさせていただきますので、以後お見知りおきを」


「クレイ、いつ戻ってきた」


「つい先ほどだ。ユエ様に話は聞いた。イヴの世話は私はやる。お前は下がれ」


クレイのきつい言い方にグレイは苦笑した。


「下がれって…まぁ、下がらしてもらいますよ。ではイヴ様、また」


グレイはにっこりと笑みを残して、部屋を去って行った。

そんなグレイの背中を見て、クレイは溜め息をつく。


「申し訳ございません、イヴ様。グレイはああいう感じなので、あまりお気になさらず」


「それは分かりましたけど…。私は此処で暮らすのですか?」


エリルもクレイもイヴの世話をすると言っていた。

あまり気にも留めてなかったが、イヴは凄く気になってしまった。

クレイは不思議そうに目を丸める。


「ユエ様から聞いておられないのですか?」


こくりとイヴは頷く。

クレイはイヴを見て、しまった!と思った。


主がまだ告げていないことを自分が先に言ってしまった。

クレイの中では後悔が生まれた。


「あの…クレイ…さん」


「さっきの話は忘れていただきたい!!」


その大きな声にイヴはびくりと身体を動かす。

クレイは頭を下げたまま、上げようとしない。


「ク、クレイさん…顔を上げてください」


「本当にすまない」


「だ、大丈夫ですから…」


「…逆に困らせてしまっているな。改めて詫びを言う」


そう言って最後に頭を下げ、クレイは顔を上げて微笑んだ。

イヴは首を横に振り、にっこりとほほ笑んだ。


「気になさらないでください。私は何も聞いておりませんから」


「そなたは…優しいな」


人間という種族がクレイは嫌いだった。

己がが正しいと傲慢し、異形な者をはじきだす。

そのくせ、己が危険な時は相手に助けを求める。


自分勝手な人間。

優しさの塊もない。

クレイはずっとそう思い続けていた。


だが…目の前にいるイヴはその人間とは違うようだ。

相手を想いやり、異形な者にも優しい手を差し伸べる。

『主が惚れるわけだ』とクレイは納得した。


この者なら…信用してもよい。

クレイの心にそういう気持ちが芽生えた。


「…ユエ様はイヴ様に此処にいてほしいと考えている。己の妃に出来れば…とな。御身は慈しみの心をお持ちの様子。他の人間とは明らかに違う。…貴方の容姿も人間とは少し違うようだ。人間を嫌う我々にも認められるのではないか…と考えたのだろう」


イヴは顔を俯かせる。

不安なのだろう、それは仕方がないとクレイは思った。


いきなり吸血鬼の城に住めと言われ、王の妃になるという話なんて…

だが、クレイは『イヴ』だったらいいと思っていた。


「イヴ様、ご無礼を承知でお聞きします。貴方は…人間、なのですよね?」


種族、性別関係なく優しさを向ける心。

女神のように美しい容姿

育ちの良さを感じさせる所作


人間とは思えなかった。


人間とは粗暴な者

吸血鬼の間ではそう有名だった。


ユエが怪我をしたと聞いた瞬間、やっぱりそうなのだと確信した。

なんて自分勝手な種族だ。と他の者も人間を憎んでいた。


だが…イヴは違う。

明らかに他の人間と違うところがある。


イヴはこくりと顔を上げ、不思議そうに首を傾げる。


「何故…そのようなことを?」


「貴方の容姿、所作…一部の人間を知っているせいか、あいつらとは違うように感じた」


「そう…ですか」


イヴは顔を曇らせる。

変なことを聞いてしまった…とクレイは後悔した。

言いたいないことを無理にいわせる必要なんてない。

クレイは首を横に振り、謝った。


「…すまない。言いたくなければ言わなくていい」


「いえ…こちらこそごめんなさい。私…まだ誰も信用できなくて…」


「信用…出来ない?」


(それはどういうことだろう?)

クレイは首を傾げる。


だが…すぐにその疑問を払った。

首を突っ込んではいけない。

彼女は彼女の理由がある。

クレイは首を横に振った。


イヴはふっと力なく微笑むと、「ごめんなさい」と小さな声で謝る。


「今のは…忘れてください」


「…ユエ様はまた夜にこちらに赴きになります。それまでの間、他に聞きたいことがあれば出来る限り、お答えしますよ」


「クレイさんは…グレイさんと良く似ていますよね?お二人は…双子なのでしょうか?」


イヴは遠慮がちに尋ねる。

クレイはふっと微笑み、頷いた。


「そうだ。だが、性格は全くと言っていいほど正反対だ」


「いつも…ああいう感じで?」


「日常茶飯事だ。あまり気にしないでくれ」


クレイはグレイがあまり好きではなかった。

『兄妹と言うのはそういうもの』と母親が良く言っていた。

だが、周りの兄妹は仲が良かった。

クレイとグレイとは違って。


そのことが余計にクレイは嫌だった。

まるで浮いているようで…。

グレイは全くそういうのを気にしない奴だった。


のんびりとしていて、本能のまま進むグレイ。

厳格なところがあり、自分の信じた道を進むクレイ。

グレイは母親似、クレイは父親似だった。


「グレイはユエ様に気に入られている。のんびりしているし、ユエ様を慕っていて、ずっと傍にいるからな」


「クレイさんは…違うのですか?」


と、イヴは不思議そうに首を傾げる。

「どうだろうな」とクレイはほほ笑んだ。


実際、ユエにどう思われているのかは知らない。

知りたくないとクレイは思っていた。

知ってしまえば…なにか変わってしまいそうだから。


「クレイさん…ユエ様はどういう方でしょうか?」


「…ユエ様か?」


どういう方…そう言われると難しいところがあった。

ユエがどういう者なのか…クレイにはまだ分からないことがあった。


「冷酷…というわけではない。かといって優しすぎるわけでもない。ただ…グレイと同じく、本能のまま進むところがあるように感じる。実際のあの方がどういう方なのか…分からない。誰にも素顔をさらさないからな。そういう主義なのだろう」


「そう…ですか…」


と、イヴは何処か悲しそうな表情を見せる。

ユエのことでそんな表情を見せる者は初めて見た。


(この人は…誰かの為に涙を流す者なのかもしれない)


と、クレイは思った。

この人が傍にいれば…ユエは安らかな時を過ごすことができるのだろうか?

永久に続く命に…『幸せ』を刻むことができるだろうか?


もし、少しでもその可能性があるのならば…


「イヴ様、お願いがある。ほんの少しの時で良い…この城に…ユエ様の傍にいてはくれないだろうか?」


クレイは勢いよく頭を下げた。

イヴの顔は見えないが、きっと戸惑っているだろう。

それでも…この気持ちをクレイは伝えたかった。


「頼むっ!本当に少しだけでいいんだ!」


「……クレイさん、顔を上げてください」


その言葉に、クレイはおずおずと顔を上げる。

そこには優しく微笑む、イヴの笑顔があった。


「私には…母も…父もおりません。必要されているのであれば、私はクレイさんの頼みに答えます」


「ありがとう」


そういってイヴはすっと真っ白い手を差し出す。

クレイはふっと微笑み、その手を握った。

イヴの優しさをこの身に感じ、この者なら傍にいてもいいだろうと思った。


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