1話
血のように赤く染まる夕日
イヴはそれを見て、眉をひそめる。
(まるで…誰かが血が流しているみたい)
そんなことを考えながら、イヴは町を歩いていた。
すると、通りすがりの男達の話が耳に入る。
『どうやら、この辺りに吸血鬼が出たそうだ』
(吸血鬼…?この近くに…?)
吸血鬼は人の血を糧として生きている。
永久の命を持ち、美しい美貌は目を瞠るほど。
そんな吸血鬼が人のいる町の近くにいるなんて珍しかった。
異世界、ラビンス。
自然が溢れ、多種族が暮らす世界。
ラビンスを支えているのが魔王と呼ばれる魔界の王。
世界の均等は魔王に支えられていた。
イヴは知っていた。
魔界の王は吸血鬼であるということを。
しかし、この町は他の国や街とは隔離されているため、その事実を知らない。
町民は吸血鬼を消そうと、武器を手にしていた。
イヴは急いで家に戻り、包帯を手に取る。
辺りが闇に染まった夜、イヴは家を飛び出した。
「はぁ…はぁ…」
イヴは森を徘徊する男達に見つからないように木の陰に隠れながら歩いて行く。
暫くすると、月の光に当てられて何かが光っているのが見えた。
恐る恐る覗き込むと、そこには目を瞠るほど綺麗な男の人が眠っていた。
漆黒の髪
整った顔立ち
まるで人形のようだった。
その美しい顔は血を失っているせいが、白に近かった。
(早く…手当てをしないと…)
そう思い、彼に手を伸ばすと―――――
「…何の用だ」
低い声がイヴの手を制す。
真っ赤な瞳がイヴを捉える。
「美しい…髪だな」
そう言って男はイヴの長い髪を優しく掴む。
イヴの銀色の髪が月の光に当たり、真っ白に輝く。
「あ…手当てを…」
イヴは戸惑いながらも、男の傷を見つめる。
男は「あぁ」と呟くと、肩を竦める。
「こんな傷、すぐに治る」
男はそう言っていたが、見るからに痛そうだった。
血は止まることなく、流れ続ける。
男はそれを見て、ちっと舌打ちをする。
「血が足りないのか。忌々しい」
男はよろけながら立ち上がる。
だがすぐに小石につまずき、倒れそうになる。
イヴは男の体を支えた。
男はイヴの胸に顔を埋める。
そして、ぽつりと呟いた。
「いい香りだ…」
(瞳が…)
男の瞳は真っ赤に染まっていた。
さっき見たよりも赤く…血のようだ。
イヴはぎゅっと下唇を噛み、勇気を振り絞る。
震える声で男に囁くように言った。
「血が必要なら…私の血を…」
「……すまない」
(怖い。でも…)
イヴはぎゅっと目を瞑る。
男の唇がイヴの首筋に触れる。
「…っ!」
次の瞬間、鋭い痛みが体中に流れる。
気を失いそうなほど、鋭い痛み。
イヴの記憶はそこで途絶えてしまった。