昔話:王都の迷宮と建築機械の郷愁
昔々ある所に王都があった
王都は、古代文明の遺跡の上築かれたもので、時折、その遺産が発掘された
ある日、王都で古代文明の遺産と思しき蜘蛛型機械がその手引書ごと発掘された
手引書の研究の結果、どうもそれは建物をつくる機械であるらしいことがわかった
王都の上層部は
蜘蛛型の建設機械の解析は国益につながる可能性が高いと判断し
建設機械と手引書の解析に国家規模の予算を付ける
人員の増加と環境の改善により、手引書の研究は飛躍的に進む
その結果、建築機械には
建築関係に特化した自己判断機能がついていること
そこいらの土や石を上手く加工することで建材をでっち上げる機能がついていることや
建築機械の燃料は高価ではあるが国の予算で何とか用意できるものであること
建築機械への大雑把な指示の仕方がわかった
そこまで分かったのなら、という事で建築機械の試運転が決定した
何かあった時の為に、少なめの燃料を建築機械に注入し、建築機械を起動
建築機械の自己判断機能がどの程度のものか
またこの量の燃料でどこまでの事ができるのか、という2つのことを確認するため
自己判断で現状の燃料で完成させられるものを建設せよ、とわざとあいまいな命令を出してみた
その結果、建設機械は研究者と王都上層部が見守る中
なんの迷いもなく地下に潜った
異常な速度だ
姿は一瞬で土埃に紛れて見失った
掘削音が異常な速度で遠のいていく
我に返った研究者と王都上層部が兵士を呼び
建築機械を追わせるも、兵士は血相を変えてすぐに帰ってきた
どうも、この建設機械、指示をどう解釈したか、異常な速度で穴を掘りつつ、迷宮を作っていたらしい
王都上層部は、一旦追跡を諦め、本格的な調査隊を編成する為に城に戻る
研究者たちは、すぐさま器具を用意して掘削音の遠のき具合から、建築機械の移動速度と位置を割り出そうとする
二日後、多数の兵士と少数の研究者で構成された第一次調査隊の編成が完了し、調査を開始する
すでに掘削音は意識しなければ聞き取れないほど小さくなっている
距離にすると、城の一番高い尖塔を地下に突き刺して建築機械に届くか、どうか、というところまで離れてしまっているらしい
よって、調査隊の目的は建設機械の追跡ではなく、迷宮の調査である
結果、迷宮は金になる、ということが分かった
建設機械には遊び心でもあるのか、床にしろ壁にしろ何らかの模様があり、所々に凝った意匠が凝らされている
それらはどれも丈夫なつくりではあるが、上手く器具を使えば十分に剥がせる程度のものであり
剥がしたところですぐに地肌ということもない
掘った穴を補強した上で、床なり壁なりの板を張り付けているのだ
美術価値のある建材が人件費だけで手に入る
調査隊と同規模の回収班を10回おくりこむことで、建築機械の為に掛けた資金を回収できる、という計算が成り立った
王都の上層部は、迷宮の調査と建材の回収に莫大な予算をつけた
さて、1年後
第83次調査隊は、奇妙な階層に出くわす
その階層は迷宮ではなかった
狭く道順が非常に単純だ
これまでと変わらず清潔ではあったが、これまでにあった装飾の類がほとんど見られない
所々にある扉を開ければ、用途不明の道具や機械が点在している
用途不明ではあるが、道具や機械の本来なら可動部分であろう箇所が全く動かない所をみるとそういう調度品なのかもしれない
装飾の代わりに調度品を置いた階層なのだろうか、と調査隊が首をひねりながら調査を続けていると
その階層の中央にある部屋で、建築機械が発見された
建築機械は完全に燃料が切れたようで、全く動かない
外面からわかる故障はない
建築機械の回収
調査隊は目的を果たしたのだ
調査隊が喜びに湧き上がる中、調査隊の研究者の一人がふと気づく
部屋が飾られている
迷宮の装飾に比べれば稚拙なものだ
紙の帯で輪を作っていくつも連ね、天井に弓状にぶら下げる
薄紙を折って束ね花状に開き、壁に貼り付ける
素人の手作り、といった風情だ
建築機械は壁を見上げる姿勢で停止している
壁には、一枚の紙が貼りつけられている
紙には、建設機械の完成を祝う文字がつづられていた
燃料が切れかかった建設機械は、最後に自身の至福の時を模倣しようとしたのではないか
そう研究者は思った
その後、建設機械は、地上に搬送され
再整備され、燃料を充てんされ
一年前とはくらべものにならないほど研究された手引書によって
王都を端から高機能化していくようになる
報酬は年に一度、王都を上げての祭りだが
さて、物言わぬ建築機械は満足しているのかいないのか
少なくとも以後地下に引きこもることだけはなく、黙々と働き続けたということだ