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羅神盤  作者: H70 A110 B80 C95 D60 S70
始まり
1/1

絶望の始まり

いつも通りの日常。

普段と何一つ変わらなく、チャイムが鳴り、教師が教科書を閉じ、教室にざわめきが戻る。授業が終わり、下校の時間になるだけの、何の意味もないはずの一日だった。


「みやもん〜、帰ろうぜ〜」


背後から聞き慣れた声が飛んでくる。振り返ると、部活仲間がいつものように軽く手を挙げていた。


「おう!」


短く返事をして、机の横にかけていた鞄を肩にかける。

俺の名前は宮代雅門みやしろがもん。何となく入った高校で、何となく部活をやって、何となく毎日を消費している高校二年生だ。特別な才能も、明確な夢もない。ただ流されるように日々を過ごしている。


教室を出て、友達と他愛もない話をしながら駐輪場へ向かう。俺は自転車を取り出し、歩いて帰る友達に合わせて押し歩きにした。


「今日もあの『だー』面白かったよな」


「あー、山田先生のやつだろ」


「黒板に向かって急に叫ぶやつな」


そんなくだらない会話を交わしながら、校門を出て、夕方の風に吹かれる。オレンジ色に染まりかけた空。住宅街へと続く道。すべてが、いつも通りだった。


その時だ。


「チリン」


鈴のような、澄んだ音が、確かに聞こえた。


足を止め、無意識に周囲を見渡す。だが、風鈴があるわけでも、自転車のベルが鳴ったわけでもない。


「……?」


「だよなー、他の先生がやっても全然だし。……ん?どうしたんだ、みやもん」


「いや、今鈴みたいな音しなかったか?」


そう言うと、友達はきょとんとした顔で首をかしげた。


「は?聞こえてねーけど」


どうやら俺にしか聞こえていなかったらしい。気のせいか、疲れているのか。そう自分に言い聞かせる。


「何だよそれ、ラノベの読みすぎで頭おかしくなったんじゃねーの?」


「かもなー」


軽く笑って、また歩き出そうとした、その瞬間だった。


視界が、ぐにゃりと歪んだ。


足に力が入らない。地面が遠ざかる感覚。自分の体が自分のものじゃなくなったような違和感。


「……っ」


声を出そうとしたが、喉が震えるだけで言葉にならない。膝から崩れ落ち、アスファルトの冷たさが伝わる前に、視界は白と黒に塗り潰された。


「おい!!どうしたんだ!!」


友達の叫び声が、ひどく遠くで響いている。まるで水の中に沈んでいくように、意識が薄れていく。


――そして、俺は気を失った。


次に目を覚ました時、そこは現実とは思えない場所だった。


上下左右、どこを見渡しても白一色の空間。床も壁も天井もなく、距離感さえ曖昧だ。その中に、無数の球体が浮かんでいた。


俺は不思議に思い、体を動かそうとした。だが、動けない。


いや、正確には――動かす「体」がなかった。


俺自身も、球体になっていたのだ。


混乱が一気に押し寄せる。声を出そうとしても、口がない。手足もない。ただ、思考だけがはっきりと存在していた。


その時、どこからともなく声が響いた。


聞いたことのない言語。だが、その意味だけが、直接頭の中に流れ込んでくる。


『よし、全部集まったな』


ぞわりと、恐怖が走る。


『えー、今からお前らには二十回、殺し合いをしてもらう。楽しませてくれよ』


……は?


意味が理解できた瞬間、思考が追いつかなくなる。殺し合い? 二十回? 何を言っているんだ。


叫びたかった。否定したかった。だが、声を上げる術はない。


『今から異世界に送るから、頑張って殺されないように鍛えてくれー』


ふざけたような口調が、かえって現実感を奪っていく。


その言葉が終わると同時に、白い空間が強烈な光に包まれた。考える暇も、覚悟する時間も与えられない。


――次の瞬間。


俺は森の中に立っていた。


湿った土の匂い。ざわめく木々。現実的すぎる感覚に、逆に混乱する。


周囲を見ると、自分と同じくらいの年齢の男女が、何人も倒れている。まだ意識が戻っていないらしい。


理解したくなくても、理解してしまう。


俺たちは、ここに「送られた」のだ。


これからどうするべきか。逃げる? 助けを探す? そもそも、誰が敵なのか。


森を見渡した、その瞬間。

胸の奥に、言いようのない寒気が走った。


ここには、救いなどない。

これは、ただの始まりに過ぎない。


――救いなき絶望の、始まりだった。


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