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第五話 機械vs機械

こいつホント運ないな

『接敵しました、戦闘を開始します』


進むこと、9エリア目。何度目かもわからない宣告と共に、サキの姿がブレる。

彼女が向かう先に佇むのは、機械の蝶。本物のように宙を舞うそれがサキに攻撃する前に裁断される。

サキは戦闘を終えると、ドローンに向かって心配そうな顔を向ける。


『今度はゆっくりめにやりましたけど…どうでした?』

「十分速い。映ってない」

『そ、そんなぁ…』


これ、本当に配信用の機材なんだろうか。いくらサキの動きが速いとはいえ、ここまでブレると不安になる。

もう一度、仕様書を読み直す。…確かに配信用に相応しいスペックだ。それでも追いつけないほどの機体を作れたことに喜ぶべきか、プロモーション用の映像が碌に撮れないことを嘆くべきか。

サキは世界に解けていく機械型の魔物とドローンを見比べ、複雑な表情を浮かべる。


『思ったんですけど、今飛んでるドローンより性能良さげですよね、ここの魔物』

「思っても言うでない」


機械型の魔物はそのほとんどが有機生物を真似て作られている。

今しがた倒れた蝶型の魔物もそうだ。遺跡型異界では珍しくもない魔物だが、プロペラなんぞどこにもない。薄い機械の羽で羽ばたき、霧状の溶解液を散布する超兵器である。

残骸を持ち帰って解析したいと目を輝かせた技術者は星の数ほどいたが、こいつも魔物カウントだと知り、漏れなく撃沈。かくいう私も肩を落とした1人だった。


『しかし、なんで機械が魔物になってんでしょ。文献を検索しても、憶測だらけでよくわかりませんし』

「お前もなんか論文出しとらんかったかの?」

「単位欲しさに書いたアレか。

アレのせいで『卵が先か、鶏が先か』みたいな論争にまで発展してる」

「不毛じゃのう」


「学会で使える論文書いたら授業出てなくても単位やる」と言われたので、「機械が魔物化したのではなく、生まれた魔物が機械に似た生体構造だったのでは」というテーマで書いた記憶がある。資料集めが非常に面倒くさかった。

すでに誰かが提唱してるものかと思ったが、どうやらデータを持ち込んだ上で提唱したのは私が初めてだったらしい。世俗に疎い私でも知ってるほどの学者先生方がこぞって不毛な論争を繰り広げていたのを見たときは、引き攣った笑みが浮かんだ。

結局のところどっちなのだろうか、と何度と湧いた疑問に首を捻っていると。

サキがふと、エリアの境目にあたる扉の前で歩みを止めた。


『扉の奥に強大な魔物の反応を確認。第一の番人です』

「チェックポイントか。気をつけろよ」

『了解。突入します』


ぎぃいい、と蝶番が軋む音が響く。

広がるのは、金属質の箱が立ち並ぶ空間。

企業のサーバールームを彷彿とさせる空間に感心を覚えるより先、カメラが揺れる。


『番人を確認。戦闘を開始します』


ずずず、と床が開き、巨影がせり出る。

のっぺりとした光沢。牙や鉤爪の代替品らしきカッターブレード。顔面のディスプレイには、鋭い目が映し出されている。

その姿を一言で表せば、機械のワイバーン。

翼を広げ、2本の足でタイルを踏み締めるそれ目掛け、サキの姿がブレた。


「テクノロジーとファンタジーのコラボレーション…、ロマンじゃのう」

「作るか?」

「あんなサイズのやつ誰が買うんじゃ」

「それもそうだな」


がきぃん、と刀を弾く音が響く。予想以上に装甲が硬い。

サキが着地すると同時、巨体からは想像もできない速度で開いた顎が向けられる。


『高周波カッターで行けますかね』

「ちょうどいい、試してみろ」


その口腔より光線が放たれる。壁を駆け上がることでそれを避け、刀身を震わせるサキ。

刀の変化を感じ取ったのだろう、機竜は距離を取ると同時、身体中から銃火器を出して一斉に放つ。


『範囲攻撃…、私のコンセプトだと厳しいですかね?』

「あの剣術、範囲攻撃みたいなもんだろ」

『そりゃそうなんですけど、もっとこう、わかりやすくデカい一撃が欲しいというか…』

「そういうのは無理。お前のコンセプトに合わん」

『あ、はい』


ばっさりと要望を跳ね除けられたことに項垂れるサキ。しかし、その体は弾幕を切り落とし、逃げる機竜へと迫っている。

インターバルが終わったのか、それとも近づかれることを嫌ったか。機竜は再びサキに向けて光線を放つ。

サキはそれを飛び越えるように避け、ディスプレイに斬撃を叩きつける。


『やっぱ硬いですね、コイツ』

「魔物じゃなかったら鹵獲して解析したいんだがな」


ついた傷はディスプレイのヒビだけ。遺跡型の番人は総じて硬いと聞くが、まさかここまでとは。

どのような技術なのだろうか。非常に気になるところだが、相手は魔物。どう足掻いても解析する術はない。

剥がれた破片でも残ってたらいいんだが、と叶うわけもない希望を抱きながらも、私はサキに指示を飛ばす。


「『耐性貫通』と『奥義』の使用を許可する」

『了解』


今回は性能テスト。武装、及びサキの性能を試すための攻略。そのため、これまでは『奥義』と『耐性貫通』の使用を制限していた。

いや、正確に言えば、試せる相手を探していたのだ。

ただ敵を倒してもインパクトがない。故に私は、サキの性能をもってしても大したダメージを与えられない魔物を求めていた。

この機竜ならば条件に当てはまる。プロモーションに相応しい散り様を見せてくれ。

私の指示を受けたサキは深く、深く、腰を落とした。


『「蒼天流(そうてんりゅう)奥義:天砕(あまくだき)」、発動体制に入ります』


刀身を黒が包み、サキの足からスラスターが突き出る。

機竜が弾幕を展開するよりも早くサキの姿が消え、並ぶ箱が吹き飛び、かろうじて張り付いていた床のタイルがまとめて捲れ上がる。

それが床に落ちるより先、機竜の体は斬り砕かれた。


蒼天流(そうてんりゅう)奥義「天砕(あまくだき)」。

膂力と爆発的な速度に任せ、天を砕くほどの勢いで叩きつける斬撃。

本来のものより劣るとは言え、サキが放った「天砕」はその名に恥じぬ威力を見せた。


「…………信じられるか?これを生身で撃てる人間がいるんだぞ?」

「知っとる」


あの人だったら、この機竜を一太刀で裁断できていたのだろう。機械でアレを再現しようとした過去の自分を小一時間褒め称えたい。

崩れていく機竜を前に、サキが刀をしまう。その顔は期待に満ち溢れていた。


『マスター、どうでした?カッコよく撮れてました?』

「ああ、カッコよかったぞ」

「確かにカッコよくはあったぞ。ほぼ映っとらんが」

『あ、あはは、やっぱり…』


「天砕」に関しては、サキの目と同じ性能のカメラでも厳しいと思う。

…ドローンの設計を見直そう。でないと、サキだけでなく、次の機体以降もプロモーション映像が撮れない。

やるべきことが雪だるま式に増えていく。ものを売り出すってこんなに大変だっけか、と思いつつ、私はサキに指示を飛ばす。


「奥にチェックポイントがあるだろ。そこから帰還しろ」

『了解です』


10エリア以上ある深い異界には「チェックポイント」と呼ばれる空間がある。神の情けのように用意されたとしか思えない、出入り口と奥につながる通路があるだけのエリア。どうしてそんなものが発生するのかは今のところわかっていないが、害がないと証明されている以上、活用しない手はない。

機竜がせり出た床の奥、ひっそりと佇む扉をサキが開けると、それらしき殺風景な空間が広がる。


『チェックポイントを発見。帰還します』

「ああ。お疲れ様」


サキが出入り口たる荘厳な門を潜る。

と。私の膝下に置いてたパソコンを弾き飛ばすように、新たな門が地面からせり出た。


「「あ」」


がしゃん、と天高く打ち上がったパソコンが砕け、落ちる。

その直後、漂う沈黙を破るように、やり切った顔のサキが門の奥から姿を見せた。


「ただいま帰りましたー…って、どうかしたんですか?」

「…パソコン壊れた」

「……………はい?」

「録画データ入ってたパソコン壊れた」


びしっ、とサキが固まる。

予備は数台あるし、これがメインのパソコンというわけじゃない。

しかし、あのドローンと繋がっていたのはこのパソコンしかない。

プロモーション映像を作るどころの騒ぎじゃない。録画中だったため、クラウドに保存できてるかもわからない壊れ方をしたパソコンを前に、皆が口を噤んだ。

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