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ナイトコードΩ 【残響の封印】  作者: 神北 緑


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無くなった感情 ― 心の均衡

切り開かれた山間に、静寂だけが沈んでいた。

その奥底で、ひとりの男が長い時を越えて封じてきた記憶へと手を伸ばす。


切り開かれた山間に、剥き出しの地盤が寂しく佇む。


イギリス南西部――コーンウォール州。

少し前まで稼働していた鉱山跡地。


地下より染み出す怨念が瘴気となり、蒼白いガスに変わり地上を漂う。

何かの呻き声が今にも聞こえてきそうな歪みを孕む空間。


蒼白いガスは、皮膚に触れただけでざらついた冷気を残す。

空気そのものが死んだように重く、誰も近寄らない場所だった。


――オルド・アークの原型が、そこにあった。


実験体に志願したセシルは、牢獄に幽閉されていた。

日々繰り返される陰惨な実験。

目を覆いたくなるようなテストも、彼には瞬間の痛みに過ぎず、翌朝には修復される。


「此処でも……私の願いは叶わぬか。」

セシルの声は、風に溶けるように消えた。


感情が、消えていく。

オルド・アークの目的も、何をしているかも――興味はない。


ただ、彼の願いは果たされることはなかった。


「吸血鬼のサンプルが、自分から申し出てきたというのは……あなたですか?」

その声に、セシルは顔を上げる。


彼女は――エリシア・ヴェイル。

数日前、この研究所に赴任してきたらしい。


元は自分と同じ被検体だという。

オルド・アークは超合理主義――能力ある者は、敵であろうと取り入れる。

テレパス(感情伝達体質)を持つ彼女は、実験のため捕らわれたが、その優秀な頭脳に目を付けられた。


その姿は――美しいという言葉そのものを体現した容姿。

心地よいワルツのような声。


彼女は毎晩、私の檻に話しかけに来るようになった。

持て余す時間の中で、私は彼女に語った。

自分の見たこと、知ったこと、行ってきたこと――それは懺悔にも似ていた。


そして、彼女も自分のことを話してくれた。

オルド・アークに秘密にしている予知能力のこと。

神の血のこと。

ヴェイルの血統のこと――それは、禁書、分断の記憶の始まりを意味していた。


短いのか、長いのか――そんな毎日が、風景に色を付けていく。


ある日、私は彼女に聞いた。

「何故、いつも私に話しかけてくるのか?」と。


「あなたの目には、本来、神から授かるはずの感情を持たず、人が砕いてばらまいた心の断片を、無心にかき集め、自分で魂を作っていった――尊い燈を宿しています。」

エリシアの瞳は、月のように輝いていた。


「紳士とは、そういう者です。どうか前を向いて――人間たちを見捨てないで。」

そう話すエリシアの目には、一筋の涙が零れていた。


「私は――エリシアの言葉に、凍った魂が解けていく感覚を覚えた。犯した罪や後悔の記憶が消えるはずもない。だが、心の均衡が取れていく。幸せとは、このようなことを言うのだろうか?」


私は、この何世紀もの孤独な旅路の中で、初めて私自身を肯定してくれた存在に出会ったのだ。


「いや――ただ私は、透き通るように美しい彼女の表情に、鼓動を早める声に、見惚れていただけなのかもしれない……。」

セシルの声は、震えているように聞こえた。


…「ガチャン!」

突然、聞こえた音で、瞬時に全員が現実に引き戻される。


画面越しに、ドクター・リリアンがカップを落としていた。


「ご、ごめんなさいね……手が滑ってしまって。」

慌てる彼女の表情は、画面越しだからだろうか――怒っているようにも見えた。


セシルは画面の向こうで震える彼女の指先が、なぜか妙に気になった。


一時の間を置き、ヌエが話す。

「その後、セシルに何があったのだ?」

(孤独な主の魂が救われた瞬間。その後の苦難が、どれほど重いものになるのか――。)


ヌエは静かに次の言葉を待った。


――再び、過去へ話が沈んでいく。


「見えた未来 ― 選んだ未来」へ続く。

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