不死 ― 生命
永い時を漂う孤独の中で、ひとりの男は世界の理へと手を伸ばしていく。
書物に沈み、時代を越え、命の意味を探し続けた果てに――
蝋燭の光が不規則に揺れ、現在と変わらぬ月夜が闇の時間を映し出す。
終わることのない時間――セシルは書を読む毎日を過ごしていた。
命の記録、生命の根源、宗教的思想、神話……
その全てが、彼の心を形成していく。
やがて伝承や承継の話を学び、魔界の存在を知り、時には禁忌を犯し――世界の構造に辿り着いた。
そのころには、殺生という行為そのものに憎悪を覚え始めていた。
自分がしてきた行い――全てが呪われ、穢れた凶事。
自らの手で奪ってきた命の数だけ、胸の奥に冷たい重りが積み重なっていく。
気づけば、過去の自分を直視することすら恐ろしくなっていた。
その半面で、こうも思う――
命とは限りがあるから生命なのだ。
子孫へ繋げるから眩しいのだ。
死する故に、生まれ変わるのだ。
輪廻の輪から外れた己の存在に、強烈な疎外感が襲う。
言い知れぬ孤独感。
相談する者など、どこにもいない。
季節が巡り、時代が変わり、人々が入れ替わっていく――。
セシルがふと顔を上げたときには、ランプの様式が変わり、外套も様変わりし、すでに19世紀が始まっていた。
セシルは――死を願うようになっていた。
しかし、その願いは絶望に支配され、永遠の時を刻む。
そんな時、ある噂を耳にする。
人道とは無縁の研究、実験を続ける集団が組織化しているという。
死を研究し、魔を呼び起こす理を作る者たち。
――オルド・アークが産声を上げていた。
セシルは、その狂気の思考が昔の自分と重なるのを感じた。
そしてこう考える。
「奴らなら……或いは俺を殺してくれるかもしれない。」
セシルは、オルド・アークの実験体になることを決め、その中核に身を投じていく。
そして、そこには一人の少女がいた。
彼の運命を大きく変えることになる――エリシア・ヴェイル。
「無くなった感情 ― 心の均衡」へ続く。




