流れる時代 ― 混沌
仲間たちの胸に去来するものは、それぞれ異なりながらも、ひとつの記憶へと収束していく。
そして、長い旅路の途中で――ひとりの男が、封じてきた過去と向き合おうとしていた。
見渡す限りの大自然。
その合間に、人の建造物が目立ち始めた頃――何時しか、大きな流れが動こうとしていた。
セシルは大きな影の前に立つ。
「獣人か?怪物の噂を聞いてわざわざ来てみれば……興醒めだな。」
この当時、リバースという総称はまだ存在せず、異能の存在は怪物伝承として各地に語られていた。
セシルが一歩踏み込み、獣人の胸に拳を突き上げる。
「ドドーン!」
怪物は爆ぜるように宙へ浮き、そのまま足元へ崩れ落ちた。
「フン。噂ほどでもない。たかが人の三、四倍程度の腕力しかないとは……。」
眉一つ動かさず、獣人を倒してのけるセシル。
微かに生き続けたネアンデルタールの血統の突然変異。
変異理由は――ウィルスか、放射線か、宇宙規模の介入か?
それは分からない。
しかし、それはリバースの枝葉の始まり――獣人伝説の始祖であった。
セシルは丘の上に立ち、遥かな人里を見つめる。
時代は動いていく。
リュイヌ公が病に倒れたのち、ルイ13世は国務会議による統治を始める。
しかし治安は定まらず、戦争は続いていく。
気まぐれに眺めるように、セシルの目は時代を見つめていた。
興味があるわけではない――永遠という流れの中の、ただの風景に過ぎない生命の歴史。
人は瞬く間に老いる。
死する前に子を残し、紡がれていく。
半面、戦争は続く。
理由なき同族の殺し合いは終わらない。
不死ゆえに「生きる」ということが理解できない。
それでも、時代は流れていく。
四歳にしてルイ14世は王位に就くが、争いが終わることはない。
たった数十年、王が変わろうと戦が起きようと、セシルには同じ景色にしか見えなかった。
17世紀後半――やがてスペイン継承戦争が始まる。
そのころ、セシルはフランスを離れ、イギリスを放浪していた。
愚かと蔑む生物――人間が、なぜここまで気になるのか。
セシルの頭の片隅には、もう何年も前から疑問が浮かんでいた。
不死の命ゆえの戯れだった。
セシルはその長き営みの途中で、人の書物を見つける。
書かれていたのは――
神が天地を創造し、アダムとイブが人の始祖だという記録。
ノアの箱舟……。
「神だと?この世界を作っただと?」
書物を握るセシルの手が、紙を裂きそうなほど強くなった。
「――とんだ戯言だ。」
「なら、私の存在は何だ?」
セシルの紅い目が、悲しみとも怒りとも取れない炎をともす。
しかし、それを期に――
セシルはその書物を起点として、手当たり次第に古文書、科学書、哲学書などを読み漁り、無限の時間を書に沈み、その先で“人という存在”の謎へと迷い込んでいった。
「不死 ― 生命」へ続く。




