オメガワン ― 別れ
仲間たちは揺れる想いを胸に、それぞれの役割と向き合いながら、
新たな地平へと踏み出そうとしていた。
感情を置き忘れたような青い空を、オメガワンの翼が切り裂き、白い雲が後方に線となって流れていく。
東北へ進路を取るオメガワンは、北極線を目指していた。
ドクターがセシルに画面越しに微笑む。
「家まで送っておいて連絡先も教えないなんて、紳士としてどうなのよ?」
リリアンの言葉に、セシルがわずかに動揺する。
「いやいや、私は紳士の前に吸血鬼ですよ。そんなこと出来るわけありませんよ。」
そのやり取りに、緊張した空気が緩和されていく。
しばらくして、アリアが口を開いた。
「皆さん、申し訳ございませんが……私たちは1時間後に小型機で本部に戻ります。別行動となります。」
「私たち……達とは?」
セシルが疑問を投げる。
「俺様は、ここで前線から離脱だ。」
スーマの画面がオレンジに染まる。
「おい、スーマ、何言ってるんだ?」
ルクジムが声を荒げる。
「説明をしてくれるかな。」
セシルがルクジムの肩に手を置き、静かに問う。
室内の空調音が、やけに大きく聞こえてくる。
「まず先に、お前らにコレを渡しておく。」
スーマが言うと、アリアが小さな端末を差し出した。
「こいつはQRボット技術を移植した超小型通信端末だ。視覚連動カメラ、マイク、骨伝導スピーカ付きで静電気充電――つまり充電不要。」
「耳の後ろに着けとけば、何時でも何所でも俺様と繋がる。ナイトコードも起動可能だ。」
スーマの画面に(真)の文字が浮かぶ。
「剣山の経験で、ルクジムもコードを使うからには、俺様一つでは危機に陥る可能性が出ると思ってよ。」
スーマが続ける。
渡された端末は、小さなボタン状のものだった。
少し興奮気味にルクジムが問う。
「それはありがたいが……離脱するってどういうことだ?」
スーマの画面に写真がロールする。
激戦のショット、ほのぼのした瞬間――記憶の断片が流れる。
「戦場でスマホをぶら下げて戦えるわけがねえ。デビルズの俺様が実戦の戦力はゼロ。足を引っ張ってるだけだ。」
光度が下がり、画面が暗くなる。
「だから俺様はアリアと本部に戻り、戦略支援へ回る。それに……個人的にやりてーこともある。」
笑顔が映るが、遣り切れなさが滲んでいた。
「何だよスーマ!俺たち、今まで上手くやってきたじゃないか。なんでここで?友達だろうが……。」
悲壮な顔でルクジムが言う。
「ありがとうな、ワン公。俺様のことを友達と言ってくれて。でもな、本体デバイスが居なくなるだけで、何時でも見てるし聞こえてる。話もできる。」
「何も変わらないぜ。通信機が壊れても、俺様の安否を気づかう必要もねえ。」
画面が回転し、何時ものスーマに戻る。
セシルの顔が厳しくなる。
「スーマ、お前……私の記憶を覗いた時に、変な勘違いをしてるんじゃないのか?」
一瞬の沈黙が走る。
「勘違いでも何でもねえ。実際にオッサン達が俺様のことを僅かだが気にしながら戦っているのは事実だ。」
スーマが呟く。
「それは違う!仲間を思いやるのは誰だって同じだ。」
セシルが声を荒げる。
「そうだ!お前が居ないと、誰が冷静な判断をするんだ。」
ルクジムも語気を強める。
「それでも俺様は、自分の不甲斐なさが許せねえ!デビルズにもプライドがある。」
スーマの画面がバグを起こしたように乱れる。
重苦しい空気が機内を覆う。
窓の外には、ただ青い空間が広がるのみ。
アリアが静かに言う。
「今、自分の出来ることを互いにする。それが私たちには後方支援になるのです。」
ヌエが言葉を添える。
「二人共。友だと言うなら、その友の決断を尊重するのもまた真理だ。」
オメガワンは他国の監視領域に差し掛かり、ステルスモードへ移行する。
QRボットでコーティングされた機体は、音波・電波・赤外線・熱探知を無効化し、表裏の景色を投影して視界から消えていく。
スーマの声を残したまま、オメガワンは空へ溶けるように姿を消していった。
「北へ ― 物語は語られる」へ続く。




