黒曜の翼 ― 世界へ
静寂に包まれた機内で、仲間たちは新たな出会いと再会に向き合いながら、
これまでとは異なる“世界の広がり”を感じ始めていた。
巻雲を抜け、艶のない黒い翼が大気を切り裂き、太陽を睨みながら滑走する。
空気が薄まる境界線――音もなく、現実感のない窓越しの風景は、異世界を想像させる。
オメガソナーは、アイスランド北部を指していた。
「目的地までは約18時間。皆さん、リラックスしてください。」
アリアが静かに告げる。
「この間に、当機のクルーとオメガ・ラインの主力メンバーを紹介します。」
大型モニターが起動し、アリアが指を差す。
最初に映し出されたのは、メインパイロット――ケイト・樋野。
画面が分割され、もう一人の顔が現れる。
「良い旅を。」
コ・パイロット――ライアン・ネインJrがジョーク交じりに挨拶する。
「彼らは元米空軍のトップガン出身。互いに家族をオルド・アークの事件で失いました。」
アリアの声が曇る。
セシル、ルクジム、ヌエは画面に軽く会釈した。
無音の機内に、エンジンだけがかすかに唸る。
その静寂を破るように、三人目――フライトエンジニアのタイラー・ジョンソンが笑顔で映し出された。
「よろしくな!」
彼の笑顔の裏に、子供をオルド・アークの実験で失った過去がある。
四人目――銃座長ビル・ロック・チャールズ。
「彼はeスポーツ全米無敗のチャンピオンでした。事件で左目を失い、今はQRボット製義眼を装着しています。」
アリアの声は微かに震えていた。
「……私たちは御覧の通りリバース。それを分かって助力していただけることに感謝します。」
セシルが画面へ敬礼する。
ルクジムとヌエも赤い目をしながら敬礼した。
「それぞれの無念を思うと言葉も無い。」
ヌエが囁く。
(彼らの目には、我ら妖が持つものとは異なる、血に塗れた「覚悟」が宿っている……。異国の武人たちだ。)
「プンッ」
突然、画面が切り替わる。
「相変わらず固いねー。」
聞き覚えのある声――エドワード・レイン。
「エド!!」
セシルとルクジムが声を上げる。
「アリアにスカウトされてね。美人の誘いは断れないだろ。」
エドが笑う。
「それだけじゃない。あの二人も居るぜ。」
モニターが切り替わり、ジョー・ファクシマスとカーロス・リングの姿が映る。
「セシル。聖者の刻は無事、洞窟の泉に戻ったぞ。」
ジョーの声に、セシルの眉が動く。
「ジョーが泉を離れたということは……」
「そう。あの洞窟も現在オメガ・ラインの部隊が護衛している。」
ジョーが答える。
雲の上を飛ぶオメガワンの翼から、エンジンの熱気と外気の温度差で白い雲の線が描かれていく。
「積もる話は後で個人的にお願いします!」
ミラがウインクする。
「もう一人、ロンドン本部から通信が入っています。」
アリアが切り替えると、音声が先に届いた。
「……深夜のロンドンで当方に暮れていたところを送ってもらって助かったわ。」
声に遅れて、見覚えのある姿が映る。
セシルは一瞬、眉を歪めた。
「文字通り血を分けた中なのに、まだ分からないの?……あの日から私の価値観は180度変わったわ。」
その人は画面の向こうで、白い指を絡ませ髪を払った。
「君は――リリアン!リリアン・クロス。あの日タクシーを探していた女性。」
セシルが珍しく取り乱す。
「彼女は元血液内科医で、今はオメガ・ラインの救護・衛生ドクター主任です。」
アリアが静かに説明する。
「まさかスーマが私の記憶にアクセスした時にスカウトを思いついたのでは?」
セシルがスーマを見る。
「まっ半分は当たりだが、俺様が連絡したのはセシルの現状だけだぜ。後はドクターの判断だ!」
スーマの画面は景色を映していた。
複雑な面持ちを抱えた一行を乗せ、黒曜の翼を広げたオメガワンは、地上の苦悩も祈りも背負ったまま、
世界へと静かに航路を描き始めた――。
「オメガワン ― 別れ」へ続く。




