龍の心臓 ― 決着
新月の夜、山は静かに息を潜め、闇はただ深く沈んでいた。
その中で、仲間たちの選択と覚悟が交差し、運命の歯車が大きく動き出す。
空間の熱が生んだ気流は、突然の雨を嵐へと変えた。
山の生物たちは巣穴に身を隠し、戦場は自然の怒りに包まれる。
バイパーが怒りに耐えきれず、大地を蹴り最大の攻撃をルクジムへ放つ。
「オオォ――ッ!」
雷鳴が轟き、二人の影が交差する。
ルクジムの瞳は金色に燃え、熱を帯びる。
刹那、白い閃光が爆ぜ、戦場を覆った。
「――月影の呪牙!」
ルクジムの叫びと共に、光撃がバイパーを貫く。
その攻撃は七連撃。だが、その軌跡を追える者は誰もいない。
「パアンッッ!」
遅れて響く衝撃音。
バイパーの巨体に亀裂が走る。
「グハッ……!」
血を吐きながら崩れ落ちるバイパー。
「なぜだ……俺は……最強のはず……だろ……」
その体は灰のように崩れ、静かに消え始めていた。
――対照的に、反対側では空間が揺れていた。
ヌエが八双飛燕でファントムへ跳ぶ。
雨に紛れてヌエの影が三つに分裂していた。
だが、その姿が揺らぎ、怪しく光る。
彼は、自身が攻撃を受けるリスクを冒して、ファントムの注意を引きつけ、セシルに最後の機会を与えていた。
その瞬間――
「暴走する前に仕留めます! スーマ、ナイトコード ceithir!」
セシルが叫ぶ。
「おうよ!」
スーマの声が応じた瞬間、雨が止む――いや、消えた。
周囲の水分が急激に奪われ、乾燥が加速する。
セシルの唇が裂け、血が滲む。
前方で、大気の歪みが霧状の光を反射し、無数の粒子が集約されていく。
次の瞬間、その光の礫がファントムへ高速射出された!
「ズバババーンッ!」
光の散弾がファントムを撃ち抜く。
ファントムに刺さった粒が、一瞬だけ体を凍らせ、次の瞬間赤黒く蒸発する。
歪み、継ぎ接ぎになりかけた空間が連鎖的に崩壊し、熱が消えていく。
その軌道は幻想的で、現実感を曖昧にする。
セシルが低く語る。
「ナイトコード ceithirは、周囲の水分を集約し、1mmの水泡として氷結させた散弾の雨だ。」
「その水泡には私の血液の鉄分が含まれる。故に超高速で射出可能。標的に当たった粒は砕け、一瞬で気化し表面の温度を奪う。」
「氷結と破壊を繰り返し、標的を削り取っていく――。」
礫に削られ、皮肉のように実体化したファントムが、声なき断末魔を上げることもなく消滅していく。
失われた水分が雨となって戻り、嵐は静かに小雨へと変わった。
「やったぞ! ワン公! セシル!」
スーマの画面には、安堵と歓喜の文字が踊る。
「ふぉふぉ……見事じゃ。あとは、アオトじゃのう」
金長は深く息を吐き、静かに数珠を握りしめた。
戦場に残るのは、疲弊した仲間たちと、崩れ去った野望の残滓だけだった。
「剣山 ― 激闘の後」へ続く。




