剣山 ― 崩れ去る野望
理を食らう影は暴走し、空間が断片化する。
次元崩壊の危機が迫る中、雨は戦術の鍵となる。
戦闘で熱せられた空気が上昇気流となり、雲を孕み、やがて驟雨を呼ぶ。
激しくはないが、確実に体温と体力を奪っていく冷たい雨。
その中で、バイパーの怒りが周囲の雨粒を蒸発させ、白い蒸気が立ち昇る。
「大男はルクジムに任せましょう。」
セシルが低く呟き、金長とヌエに視線を送る。
「我々は、ルクジムが奴に仕掛けた瞬間を狙う。長の言霊をフェイントに、私とヌエで同時攻撃を仕掛ける。」
戦法を告げ、セシルも構えを取った。
ヌエが目を光らせる。
「なるほど……バイパーをルクジムが攻撃で手を塞いでいる間に、ファントムへ長の言霊を飛ばす。それを食われたら、その隙に二人で物理攻撃。食わなければ理操作で攻撃……抜け目ない戦略だ。」
怒りの頂点にあるバイパーだが、無暗に動けば隙を晒すことを理解している。
睨み合いが続く。
降りしきる雨の間隙を縫い、ルクジムとセシルが目を合わせる。
一瞬、雨の落下が止まったような感覚――その時、銀色の帯を引く光体がバイパーへ飛んだ!
「大木が倒れ落ちる!」
同時に金長の言霊が走る。
「ドガガガガガッ!」
次の瞬間、バイパーとファントムが左右に弾け飛んだ。
ルクジムの一撃をこらえきれず、バイパーは右へ。
言霊を消したファントムは、ヌエの蹴りをまともに受け、左へ。
降りしきる雨の中、ルクジム、セシル、金長、ヌエが互いの相手を見下ろす。
理解が追いつかないバイパーが身を起こし、叫ぶ。
「ガアァ――! 何でだ、俺の攻撃が通じねぇ!」
だが、その対角線上に倒れたファントムの様子がおかしい。
その姿は揺らぎ、歪みが広がり赤い光を放ち始めている。
肉体ではなく、存在の輪郭そのものが断片化し、空間の欠片が紙のようにめくれ、別の景色へと張り替わるように入れ替わっていた。
――明らかに異常だ。
「理がランダムに食われて、空間の均衡が保てなくなっとる! 奴自身も食うた理を処理しきれとらんのじゃ!」
金長が焦りを隠せず声を上げる。
「キィィィィィン」と、耳障りな高周波音が響き渡り、空間がガラスの破片のように砕けている。
「暴走してんのか! 次元が崩壊するかもしれねえぞ!」
スーマが真紅に点滅しながら叫ぶ。
セシルが低く呟く。
「御あつらえ向きに雨も降っている……水分は十分だ。」
「ヌエ、奴の注意を引いてくれ!」
セシルの声が鋭く響く。
静かに頷いたヌエ。
雨粒すら置き去りにする速度で、歪む空間へ跳び込む。
「――残空・八双飛燕!」
境内の左右で激震が走る。
気流は雲を呼び、大粒の雨が螺旋状に降り注ぐ。
方や不気味な空間の歪み、方や大地を揺るがす怒気と覇気――二つの力がぶつかり合っていた。
「龍の心臓 ― 決着」へ続く。




