剣山 ― 反撃開始
セシルの分析が戦況を逆転させ、知の勝利が光を差す。
ざわめく風が山間に吸い込まれるように流れ、上昇した温度が気流を生み、唸り声へと姿を変える。
焦げたような匂いが混じり、空気はじっとりと肌にまとわりついた。
不気味な沈黙を挟み、睨み合いが続く。
セシルが何かを感じ取り、スーマに囁く。
「スーマ、あの二人が現れる前と後の気温差が分かるか?」
「ああ、分かるぜ!……3度も違う!俺たちが熱くなってんじゃねえ、周りの気温が上がってやがる。」
スーマの画面が真紅に染まり、答えを返す。
「やはり……。あと一つ確認したい。」
セシルは金長に耳打ちする。
「……。」
「フム、やってみよう。」
金長が低く呟いた。
「ヌエ!」
「はっ!」
号令とともに、ヌエがファントムへ飛びかかる。
「足元滑るぞ!気いつけい!」
金長が見送りながら言霊を放つ。
「大岩にぶつかる!」
その瞬間、言霊がファントムに跳ねた。
山が騒めく!
バイパーがヌエの跳び足刀横蹴りを受け止める――と同時に、ファントムが鈍く光り揺らめいた。
……何も起こらない。
そう思った刹那、ファントムがはじけ飛ぶ!
「ドササッ!」
破片が霧のように散り、熱を帯びた残滓が空中に揺らめいた。
セシルの拳が、確かにファントムを撃ち抜いていた。
「概ね理解しました。回答が必要かな?」
セシルが冷ややかに言い放つ。
ズズンッ!
バイパーが足を滑らせ、巨体が地に倒れ込む。
「なに!」
驚愕を隠せないバイパー。
セシルは口角を上げ、語り始める。
「仮面の男は理を食らう時、無防備になる。だから代わりに攻撃を受ける者が必要。そして、理は一度に二回は食えない。」
「だからお前は足を滑らせた。あの言葉はヌエへのものではなく、言霊だった。」
視線をファントムに落とし、さらに告げる。
「そして理を食らう時、大量の熱を放出している。理を処理するために、熱核反応をエネルギー変換しているのでしょう。」
折しも、ファントムの熱で暖められた空気が上昇気流を生み、木枯らしのような渦巻く風が戦場を包む。
その中で、バイパーが吠える。
「それが、どうした――!」
真紅の顔で激怒するバイパーの前に、ルクジムが立つ。
「言ったよな。お前の相手は俺がするって。」
燃える闘志を宿した瞳が、黄金に染まり始めていた。
「スーマ!頼むぞ――ナイト・コード sia!」
ルクジムが叫ぶ。
「おうよ!任せな!」
スーマの声と同時に、ルクジムの胸元で眩い閃光が弾け、満月の立体映像が浮かび上がる。
その光がルクジムに吸収されると同時に、低く響く鼓動のような衝撃波が地面を震わせた。
瞬きの間に、彼の身体は白い和装束に覆われ、瞳と爪は黄金に輝いていた。
「な、なんだ!」
その場の全員が息を呑む。
スーマが得意げに笑う。
「何のことはねえ、月の立体映像を出してワン公がそれを吸収し、神獣化するためのプロセスを端折っただけのコードだ。変化が一瞬で終わるだけだ。」
「なるほど……siaのコードナンバーが塞がっていたのは、そういうわけですか。」
セシルが目を細める。
ヌエがそっと呟く。
「しかし……色は違えど、慈無様の道着姿に酷似している……まるで、師匠の魂が、ルクジムに宿ったようだ。」
「剣山 ― 崩れ去る野望」へ続く。




