最後の砦 ― 反撃の狼煙
ファントムは理を消す存在。
金長の言霊すら食われ、因果律が崩れる。
今宵の夜は闇深く、風の音だけが山間を支配していた。
血を含んだ塵は重く粘り、足元に纏わりつく。
セシルは金長を庇いながら、バイパーの怒涛の攻撃を防御する。
肩に伝わる衝撃は、骨の軋みと共に内臓まで響いた。
その間隙を突き、ファントムに蹴りを放つ――。
「ガッ!」
だが、その一撃はバイパーに阻まれた。
「……」
セシルの顔に、わずかな笑みが浮かぶ。
その笑みの裏で、心臓は静かに早鐘を打っていた。
「スーマ、特異点サーチを!」
「長、もう一度言霊を!」
セシルが鋭く指示を飛ばす。
「了!」
スーマの画面がスキャンモードに切り替わる。
「お前の攻撃は味方に当たる!」
金長の言霊が飛ぶ。
その瞬間、ファントムの影が微かに揺らぎ、歪んだ光を放った。
光は一瞬、空間の形を噛み砕くように波打った。
「終わりだ、狸じじい!」
何事もなかったかのように、バイパーの一撃が襲いかかる。
「バババッ!」
間一髪でセシルが金長を救出。
背後の大木が無残に砕け散った。
「ふぉーっ……無茶をさせるのう」
金長の額に汗が滲む。
「スーマ、結果は?」
セシルがニヤリと笑う。
「オッサンの発案で、空間の特定元素の因果律を数字化したプログラム――特異点サーチの結果……」
スーマが画面をセシルに向ける。
「なるほど、概ねの仮説は当たっていますね」
セシルの紅い瞳が光り、バイパーとファントムを睨む。
「何の話をしてやがる? お前らが死ぬのは確定済みだ!」
バイパーが吠える。
空気の温度が振動で上昇し、靄に変わっていく。
セシルが低く告げる。
「その仮面の透けている男は、金長のように理を操作しているのではない。理そのものを――消している。いや、食っているのだ」
風が吹き抜け、セシルのマントが翻る。
「俺様のQR監視呪符は、空間の元素を監視できる。爺さんの言霊で特定の元素が変動した箇所を追跡し、特異点を割り出して数字化したんだ」
スーマが得意げに言う。
「つまり、攻撃行動を位置付けた結果に導くのが理操作だ。それを上書きしているのかと思ったが――仮面の男は、攻撃という理そのものを消滅させている」
セシルがファントムを指差す。
「そして、その男は物理攻撃可能。だが、防御力も攻撃力も、並みの契約者より遥かに劣る」
セシルの紅い瞳が鋭く輝く。
金長が顎を撫でながら呟く。
「なるほどのう……仮面の男への攻撃も、お主が受け止めるのはそういうわけか。しかし、ワシには最悪な相性じゃな」
「恐らくアイツは、因果律を可視化できるんだぜ。それを、変更された因果ごと食ってる」
スーマの画面がキラリと光る。
黙って聞いていたバイパーが、一歩前に出る。
草木のざわめきが加速する。
「そのために俺がいるわけだ。何も問題ねえだろうが」
バイパーが不敵に言い放つ。
セシルの笑みは止まらない。
「あなたは何故、攻撃を防御しているのです?契約者の再生力は、吸血鬼以上のはず」
紅い瞳がさらに深く光る。
「質量重視の攻撃特化型――パワータイプ。再生は苦手だろう?」
バイパーの分厚い顔が一瞬、硬直した。
「何の話をしてやがる……!」
彼の声は、わずかに上ずっていた。
「最終決戦 ― 合流」へ続く。




