剣山 ― 封印守護の意味
老狸・金長の一喝が試練を静める。
そして、青白い燐光に照らされた無限の階段。
深夜の堂内に、重い言霊が響いた。
霊気が熱を帯びて渦を巻く。
だが――金長の一喝が、その全てを静めていく。
「ヌエ、アカ。お主ら、目的を忘れるでない!」
老狸の眼光が、火焔のように一瞬光った。
金長は息を吐き、再び柔らかな表情に戻る。
「すまなんだな、異国の妖よ。こ奴ら、血の気が多くてのう。」
セシルが一歩進み出て問う。
「試練――だったのですかな?」
「フォッフォッフォッ、察しが良いわい。」
金長の笑い声が、燭光の中でくぐもる。
「そこの携帯の魔物が申しておった“契約者”――奴らが現れたのじゃ。幻術で煙に巻いたが、恐ろしく強い闇の気配を感じた。…奴らの狙いは“封印”、龍の心臓よ。」
金長は祭壇の奥を見つめながら、静かに語る。
「そんな最中に、あんたらが現れたので、こちらとしては仲間の援軍かと思うた。しかし、あんたらは我らと同じ“妖”。そちらでは“リバース”と呼んでおるらしいの。先に来た奴らとは、根本が違った」
「で、現在に至る……と」
セシルがルクジムとスーマに目をやりながら呟く。
「誠に察しがええのう」
そう言うと、金長はアカを手招いた。
よく見ると、アカは口元から血を流し、腹を押さえていた。
誰にも見えていなかったが――
ルクジムは、アカの拳を受け止めた刹那、反撃を加えていたのだ。
金長はアカの腹部に手をかざす。
次の瞬間、傷が消え、血も消えた。
「長、すまねえ」
アカが金長に礼を言う。
セシルは冷や汗を額に滲ませながら呟く。
「これは……治癒や再生の類ではない。攻撃でできた傷が、ダメージそのものが消えた」
……
「まさか、理を操作できるのか?」
セシルの瞳が鈍く光る。
スーマが画面を三回転させながら割り込む。
「因果律を変えられるのか?……こりゃあ、トンでもねえな!」
「ほう、お二方は大したもんじゃのう。初見でそこまで見抜かれたのは初めてじゃ」
金長は髭を撫でながら続ける。
「限定的で、単発、単純なものしか操作はできんがな……とはいえ、理を弄ぶは、天の逆鱗に触れる行い、慎重を要する。」
「アカは“負傷しなかった”ことにさせてもらった」
ルクジムは、まだ理解が追いついていない様子だった。
金長は真剣な表情で三人を招いた。
「それだけ察しが良いなら、話が早いわい。こちらへ一緒に付いてきてくれ」
そう言うと、金長たち三人は祭壇の奥へと歩き出す。
セシル、ルクジム、スーマもその後を静かに追う。
歩くルクジムの横に、ヌエが近づいて話しかける。
「お主は武道の心得があるのか? あの初動の踏み込み――どうやって身につけた?」
ヌエの問いに、ルクジムは静かに答えた。
彼に対して、嫌悪感はないようだった。
「俺は物心がつく前から、リバースの集落――獣人の里で育った。人虎の爺ちゃん、ラクザムに教え込まれたんだ。狩りや戦いの初動の歩み方を、小さい頃から叩き込まれてた。それだけだが」
ヌエは小さく頷きながら、呟く。
「なるほど……しかし、人虎、ラクザム……どこかで聞き覚えがあるような……」
ルクジムは足を止め、ヌエに静かに問い返す。
「知っているのか、その名を?」
一行は、祭壇の奥にある大きな階段へと向かって歩き出す。
階段は無限に続くかのように暗く、青白い燐光が一段ごとに浮かんでいた。
地下から、低い鼓動が響いていた。
それは地の底の龍が、今もなお心臓を動かしているかのようだった。
「剣山 ― 龍の心臓」へ続く。




