新たな封印 ― 阿波の国
阿波踊りの像、潮風、太鼓の音。
そのすべてが、次なる封印の舞台を予感させる。
今宵は満月。
雲一つない澄み渡る夜空に、星々が幾重にも瞬きを放ち、流星が静かに軌道を横切っていく。
それは、旅路の祝福なのだろうか――。
空港へ向かう車の中。
静かなエンジン音の中、セシルがスーマに問いかける。
「次の目的地の絞り込みはできましたか?」
スーマの画面がくるくると回転しながら応える。
「ああ。ルクジムの夢の話をまとめると、キーワードは“東洋”、“お囃子”、“リズム”、“カーニバル”、“ダンス”、そして“blade Mountain(剣山)”。」
画面がピタリと止まり、スーマが自慢げに言い放つ。
「すべてが揃うのは――阿波ダンス、つまり阿波踊りだ。日本の四国地方、阿波の国(徳島)だ!」
「夜明けの便で出発だ。ウェットスーツを忘れるなよ、セシル。」
ルクジムが皮肉交じりに笑う。
セシルは窓の外に目を向けながら、静かに呟く。
「……日本国。世界でも稀な霊道の交差する地脈が多い場所。この地に封印があるとすれば、我々の旅は容易ではない。」
「そして、剣山(Blade Mountain)は、この国におけるリバースの伝承で、特別な“境界”を意味する場所だ。」
その声には、軽微な不安と、使命への覚悟が滲んでいた。
車は滑るように空港へと向かっていく。
満月の光が、彼らの影を長く引き伸ばしながら――次なる封印の地、阿波の国へと導いていた。
ロンドンを午前9時に発った航空機は羽田を経由し、徳島に到着したのは夜の22時を回っていた。
長い旅路の果て、小さな空港のロビーを抜けると、阿波踊りの像が静かに出迎えてくれる。
景観に高い建物は少なく、潮風が街を包む。
潮の匂いに混じって、どこかで太鼓の音が遠く響いた。
しかし、リバースの鼻には、ロンドンとは異なる“瘴気”が確かに漂っていた。
「目的地まではまだ数時間。ゆっくりしている暇はありませんね。」
セシルが険しい表情で言う。
「車を探そう。」
ルクジムが短く返す。
空港の外に出ると、日本の月が夜空に浮かんでいた。
なぜだろう――その月は、どこか神秘的に見えた。
それは、霊道が交差するこの地が持つ“力”のせいなのか。
それとも、次なる封印が彼らを見つめているからなのか――
阿波の国。
静かに、そして確かに、物語は新たな章へと進み始めていた。
「阿波の国 ― つるぎ町」へ続く。




