ロンドン――湾岸倉庫事件現場
今回のお話は「ep12古書店「ノクターン」 ― 決意の夜明け」とリンクしております。
煌めく銀の海。
波は穏やかに揺れているが、海風は冷たく、肌に纏わりつくようだった。
海面は、すべてを覆い隠す仮面のように静かに佇み、何も語らない。
ミラ・カステリが現場に到着したとき、そこには何の痕跡も残されていなかった。
ただ、倉庫の壁に微かに残る、三重の円と中央に眼の印が描かれた、焼け焦げた紋様のような痕跡だけが、過去の事件との繋がりを示していた。
「三件の事件が同一犯とされる理由……それは、後に残された紋様のような焼け跡。」
「だが、この湾岸倉庫だけは、破壊の形跡もなければ、死体も見つかっていない。」
ミラは冷静に現場を見渡しながら、独り言のように呟く。
「これは……行方不明、消失の事件だ。」
海を見つめながら、彼女の思考は深く沈んでいく。
兄の最後の通信、あの焼け焦げた壁と、立ち上った硫黄の匂い。
そのすべてが、この場所と繋がっているような気がしてならなかった。
「情報だけが先歩きしているような……」
「ここに誰かが来る予定だった? いや、来させようとしていた……?」
風が吹き抜けるたびに、ミラのコートが揺れる。
遠くで船の汽笛が低く響き、倉庫の鉄骨が軋む音が波間に消えた。
彼女は足元の小さな紙片に目を留めるが、それもただの伝票の切れ端だった。
しかし、彼女の心は確信していた。
この事件は、まだ終わっていない。
現場で疑問を再確認したミラは、静かに踵を返す。
その背中には、冷たい海風と、未解決の謎がまとわりついていた。
「ロンドン――月は見ている」へ続く。




