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ナイトコードΩ 【残響の封印】  作者: 神北 緑


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偽りの神罰―輝くほどに漆黒に染まりし者

温度を持たない光が二つ、静かに降りて来る。

それは太陽ではなく、救いでもなく、ただ世界の理を塗り替える“意志”だけを帯びた光。


温度の無い光の輝きが、さらに増していく。

それに呼応するかのように、大陸の境界線が影を失っていった。


夜は、まだ明けていない。

だが――

熱を感じない、小さな朝日が二つ、確かにそこに佇んでいる。


「……フフッ。太陽を克服した気分ですね」

精一杯の虚勢。

セシルの額には、大粒の汗が滲んでいた。


網膜を焼き尽くさんばかりの光量とは裏腹に、周囲の温度は際限なく下がっていく。

空気中の水分が再び結晶化し、無数の氷晶が漂い始めた。

それらは煙幕のように広がり、天使の発光を乱反射させる。


その光景を切り裂くように、雪煙を上げた一台のバギーが近づいてきた。


「カーロスか!」

先を急ぐヌエが、迷いなくバギーに飛び乗る。


「お前、無事だったのか!」

ハンドルを握るカーロスが叫び返す。


「心配無用だ! 急ごう!」

ヌエはバーを強く掴み、低く身を構えた。


ギャオの深層部。

そこでは、天使の光が徐々に地表へと降り、ついに――


その姿が、肉眼で認識できる距離にまで近づいていた。


性別の分からない、小さな子供の姿。

閉じられた瞳。

白銀の髪。

透けるように白い肌。

背中には、幾重にも重なる四枚の翼。

そして頭から爪先までを、無限に往復し続ける光の輪。


古文に記された“神”の姿。そのまま。

だが――本質は、底が見えないほどの暗さをまとい、言い知れぬ恐怖を周囲へと撒き散らしていた。


ヨハンスは、静かに呟くと、自身の角で擬態させた封印への扉の前に覆いかぶさった。

「俺は……此処で、一族の使命を全うする……」

その言葉と同時に、ヨハンスの身体が変質を始める。


擬態ではない。

封印を覆う岩板への同化――いや、封印を覆う物質そのものへの変質だった。

それは、元に戻れないことを意味している。


剣山にて、慈無が辿った道と同じように。


「諦めんのが早ぇんだよ!」

何もできない悔恨が、エドの喉を突いて飛び出した。


ジョーの瞳にも焦燥が映る。

「エド……」


ルクジムは、ヌエとの禅の教えを思い出し、ゆっくりと呼吸を整え始めた。

(……飲まれるな……。落ち着け。冷静さを失えば、相手の思う壺だ……)


「……これは、通用するのか?」

ミラが、オメガブレードに手をかける。


その瞬間だった。

二体の天使が、それぞれ右手と左手を、別々に天へ掲げる。

光が再び拡散し、同時に――収束していく。


「いかん!!」

セシルは、反射的にカリースを突き飛ばし、自らも身をかわした。


その瞬間――

世界から、音が消えた。


――ビュンッ。


圧縮された光弾は、一瞬で二人の脇を掠めていく。

閃光が貫いた大地には、地獄まで届きそうな、一本の穴が穿たれていた。


周囲には、微細な光の粒子が舞っている。

その穴は、どこまでも長く、どこまでも深い。

永遠を思わせるほどの漆黒に染まっていた。


光弾を掠めたカリースの左腕は、皮膚一枚分ほどの傷。

否、消滅したような損傷を負っていた。


それは、傷と呼べるものなのか。

初めから存在しなかったかのように、皮膚が消えている。


パワータイプとはいえ、カリースは契約者だ。

だが――

再生は、まったく始まらない。


「……どういうつもりだ、吸血鬼」

カリースが、低く問いかける。

「私を庇うなど……」


「今のお前はな」

セシルは、天使から目を離さぬまま答えた。

「軽口を叩きながら、立っていることしか出来ない状態だ」

わずかな間。

「……なら、紳士の答えは一つだろ」


その言葉に。

「フッ」

「ヘヘッ」

「フーッ」

「……だよな!」

ルクジム、ジョー、ミラ、そしてエド。

四人の胸に、確かな呼吸が戻ってきた。


「スーマ!」

セシルは皆の顔を見渡し、通信機へと声を叩きつける。

「状況を! 分かる範囲のデータを下さい!」


返事は即座だった。

「急かすなよ、オッサン! 秒でやってやるぜ!」

スーマの声が、断層に反響する。


見えない闇を裂くように。

――光だけの世界に、確かな“影”を作るように。


その時。

天使の光が、ほんの一瞬だけ――

冷たく、深く、黒く見えた。

それは裁きではない。

救済でもない。


ただ、世界を“理想の形に変えようとする”

偽りの神罰だった。


――輝くほどに、漆黒に染まりしゆく者。


「開戦―人工天使」へ続く。

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