天使 ― 語られる真実
目には映らず、音もなく――ただ確かに“何か”が近づいている。
その気配に気づいた者たちは、まだ知らない。
これから語られる真実が、世界の形そのものを変えていくことを。
衛星軌道上を巡回する監視衛星が、地表の三地点を同時に捉えていた。
カナダ・イエローナイフ。
日本・剣山。
そして――ゴールデンサークル、アルマンナギャオ。
映像に変化はない。
流れる雲、穏やかな大地、揺らぐオーロラ。
しかし衛星の解析値だけが、“何か”を強調していた。
目視では捉えられない異変が――封印の三地点で、確かに近づいていた。
ヨハンスは、角の抜けた跡がひりつく痛みを感じていた。
(……この疼き……封印が共鳴している……?)
静まり返った深部。
固形燃料の炎がかすかに揺れ、赤い光がカリースの顔を照らす。
その声が、低く――しかしよく響いた。
「まず……“天使”の概念から話してやろう。」
全員の呼吸が止まる。
「天使とは――神族ではない。……人間だ。」
突き刺さる一言に、空気が固まった。
ジョーの額に汗が浮かび、エドとミラは思わずオメガブレードから手を離した。
セシルが息を呑む音が伝わる。
ルクジムの呼吸は荒く、拳に力が入る。
通信機のピープ音だけが、冷たい風の中で不気味に響いた。
「天使とは、“神の命令核”を持って生まれる人間のことだ。」
カリースの声音に、わずかな苦味が滲む。
「次元を絶った後の神々にとって、現世へ干渉できる唯一の方法……それが“命令核”を持った人間を生み落とすこと。」
「命令核を持つ者は……ある日、突然目覚める。」
「神の命令によってな。」
エドの喉が鳴る。
ミラの表情が強張る。
「その力は神には及ばぬが……以前の“私”と遜色ない。いや、場合によってはそれ以上の存在も生まれる。」
言葉にできない重さが、カリースの瞼を沈ませた。
「……では、オルド・アークは“天使を捕まえた”のですか?」
セシルの鋭い問いに、
遠隔のスーマも、アリアも固唾を飲んで通信越しに聞き入る。
カリースは、静かに……そしてはっきり言った。
「いいや……」
一瞬の沈黙。
「あれは“人工天使”。偽物だ。」
空気が裂けた。
「……やっぱりな。NOAの解析結果と一致しやがった。」
スーマが思わず言葉を漏らす。
「どういうこった! 話に全然ついて行けねぇぞ!」
エドが叫ぶ。
ミラが彼の肩を叩き、静かに言う。
「スーマ、続けて。」
スーマの通信が入り、低く、鋭い分析を投げる。
「オルド・アークは元々“神の力”を欲していた。だが、命令核を持つ天使は捜索すらできない。だから――模倣し始めた。」
「その過程で人工生命の開発が進む。やがて“フランケン”、契約者の器、魔界印獣が作られた。」
通信の少しの沈黙。
カリースが口を開く。
「概ねその通りだ。」
「初現の契約者である私の身体は……吸血鬼のDNAデータを強制上書きされて生まれた。」
その苦痛を思い出すように、カリースは目を細める。
「古来より禁忌として伝わる“悪魔”は、生贄により接触できる。だが、人工生命に悪魔を宿す試みは、ことごとく失敗した。」
「それで奴らは……生きた人間を贄にする手段を思いついた。」
ジョーが歯を食いしばる音が伝わる。
「そして……」
カリースは小さく笑った。
**「実験に、私が“手を加えた”。悪魔の“自我”を投影させる方法でな。」**
その顔は、人の表情ではなかった。
そこにあったのは――感情を知った“悪魔”の笑みだった。
スーマが唸る。
「……つまりその段階で、カウンシル・オブ・アークとパクトユニットの両方で、思想の乖離が生まれ始めたわけか。」
アリアの息が通信越しに震えを帯びる。
ヨハンスは怒りを抑えきれず拳を握る。
カリースは答えない。
沈黙が、答え以上の重さをもっていた。
夜空のオーロラが、怪しく色を変えて瞬く。
風が吹き抜けるたび、雪と霧が小さく舞い上がる。
そして――
全員が、“次の言葉”を待っていた。
「人造の天使 ― 悪魔と契約者」へ続く。




