オルド・アーク ― 真実の行方
赤く染まるオーロラの下で、語られようとする真実は、
彼らの運命を大きく変える“分岐点”へと繋がっていく。
周囲の温度がさらに下がり、空気中の水分が結晶化して舞い上がる。
その輝きは、氷の欠片が光を反射しながら宙に漂う幻想のようでありながら、肌を刺す冷たさが確かに“現実”を告げていた。
殺気立つヨハンス。
ジョーの表情に緊張が走り、エドとミラは反射のようにオメガブレードへ手を伸ばす。
「全員、待て! 様子がおかしい。」
セシルの声が空気を裂き、緊張が一瞬だけ凍結した。
だが--ルクジムだけは違った。
焦げ付くような怒りを宿した琥珀の瞳で、カリースを真っ直ぐ睨み続けている。
カリースは歩をわずかに進め、低く呟いた。
「……カウンシル・オブ・アークの老害共が、封印の解除を望んでいない……か。」
「止まれ! 一歩でも動いたら切る!」
ミラが刃を構え、震える声で叫ぶ。
だが、その声とは裏腹に、カリースの表情にはかつての威圧感は消えていた。
その姿は、あの暴風の悪魔のような女ではなく--
今にも倒れそうな、壊れかけの兵器に見えた。
「慌てるな。今の私は、お前たちに害を及ぼせるほどの力はない。」
その声に虚勢はない。
スーマの通信がノイズ混じりに割り込む。
「……〈黒い棺〉で一月ほど休まなきゃ、元の化け物には戻れねぇってか……?」
「カリース。」
セシルが一歩前に出る。
その紅い瞳が鋭い光を放つ。
「知っていることを全て話してもらう。」
「お前な……この状況で、よくそんな冷静でいられるな?」
エドが呆れたように言う。
「こいつは厄催だ!! 封印の怨敵だ!」
ヨハンスの怒号。
その激情は、百年守護を続けてきた者の痛みそのものだ。
「落ち着け。」
セシルは静かに言う。
「ルクジムが……この中で最も耐え難い怒りを抱えている彼が、耐えている。」
「今ここでカリースを討っても、状況は何も変わらない。」
怒りを燃やしながらも――それを理性で押さえつけている自分自身に、セシルは気づいていた。
ルクジムが、かすれ声で問う。
「……話せ。あの“天使”は何だ?オルド・アークは……封印をどう扱うつもりなんだ?」
その声には、母を奪われた血族の痛みが滲んでいた。
ジョーが気遣うように声を落とす。
「ルクジム……無理するな。」
だが、風の音と通信ノイズがその声をかき消していく。
カリースは静かに語り始めた。
「……我らパクトユニットとオルド・アークの思想が一致していたのは、ただ一つ。」
「悪魔の王--《ノクト・アビス》様の実体化だ。」
「奴らは手段を選ばず、無数の実験を繰り返した。成功も失敗も、全ては支配のためだった。」
その言葉は、苦々しく、どこか自嘲めいていた。
「私が生まれたのは……偶然だった。」
カリースはうつむく。
「吸血鬼のDNAデータを加えた結果……“実体化”した唯一の存在。」
ミラが息を飲む。
ジョーが拳を握る。
「だが、それでも私以降、契約者は誰も実体化しなかった。研究は行き詰まり、奴らは苛立っていた。」
「そしてある日、私は命じられた。」
「“脱走者の討伐”。」
ルクジムの瞳が鋭く揺れた。
セシルの呼吸が一瞬止まる。
「気づいた時には……私はヴェイルの血を奪っていた。」
「その意味を理解したのは、後になってからだ。」
カリースは目を閉じる。
「先ほどの戦いで倒された時……すべてが蘇った。皮肉なものだ。」
「老害どもが、いつ方針を変えたのかは知らん。」
「あるいは最初から、そのつもりもなかったのかもしれん。」
「だがな--」
カリースはゆっくりと目を開ける。
「私が自我を取り戻し、《魔界へのポート》を確定させた瞬間、契約者製造は飛躍的に進んだ。」
唇が歪む。
「悪魔の“自我”を宿す前提でな。」
空気が震え、通信ノイズが高周波を刻む。
スーマが問う。
「……天使の研究は、いつからだ?」
その問いに、カリースの目がわずかに揺れた。
――答えを口にする覚悟を、測るように。
過去から流れ続けた“点”は、いま一本の“線”になりつつあった。
だが、その線が向かう先は--救済か、滅びか。
そして、世界は今も混乱の中を流れ続けている。
鍵を握るのは“天使”。
運命という名の次元が、彼らの現在を駆け抜けていく。
「天使 ― 語られる真実」へ続く。




