暗躍より表舞台へ ― 天使の降臨
砂漠の夜を切り裂く光が、静かに世界の均衡を揺らしていた。
その“奇跡”は祝福ではなく、選択を奪う力として降り立ち、
やがて地上のすべてを、新たな混乱へと導いていく。
乾いた風が吹き抜け、砂漠と地続きの大地に文明の痕跡が点在している。
異なる文化と思想が衝突し、混ざり合いながら歴史を刻んできた「世界の交差点」――地中海東岸。
中東、ネゲブ砂漠北縁。
古くから独自の文化と宗教、そして幾度となく争いを繰り返してきた国の、某軍事区域。
遥か東の空より、二対の光体が飛来した。
直径およそ百二十センチ。
完全な球形を保った二つの発光体は、燃焼も排気も伴わず、音すら立てずに夜空を滑る。
だが――
その存在は、いかなるレーダーにも捕捉されて、いなかった。
光体は減速も回避運動も行わず、軍事施設上空を通過すると、地表をすり抜けるようにして地下へと消失した。
赤褐色の土壌が風に煽られ、砂塵となって舞い上がる。
次の瞬間。
地下深く、存在するはずのない“異物”の侵入を告げるかのように、サイレンと警告音が一斉に鳴り響いた。
《ウーーーッ……ウーーーッ!!》
軍事基地は一瞬で混乱に陥る。
警報灯が回転し、兵士の怒号が交錯する。
異常発生地点――弾道ミサイル保管庫。
その中央に、二体の光体が“顕現”していた。
武装した警備兵や技術士官が雪崩れ込む。
だが、その直後――
光体は一段と強い輝きを放ち、周囲の景色を“消去”した。
壁も、人影も、音も――存在という概念ごと。
ほんの一瞬。
視界と音、そして認識そのものが白に飲み込まれ――
次の刹那、光は消え去っていた。
そこに立っていたのは、二人の少女。
白く淡く輝く身体。
背には何重にも重なる純白の翼。
それは、神話に描かれた“天使”そのものだった。
現実感の欠如した光景に、兵士たちは銃を構えたまま動けなくなる。
思考が停止し、時間が引き伸ばされたかのようだった。
次の瞬間――
二人の天使は互いに右手と左手を掲げる。
その中心に、光の輪が生成される。
輪は瞬く間に拡大し、脈動し、やがて弾けるように崩壊した。
解き放たれた無数の光粒子が、保管庫内の弾道ミサイルへと降り注ぐ。
核--
兵士たちは本能的に“炎”を連想した。
「逃げろ!!」
誰かが叫んだのを合図に、基地内は完全なパニックに陥る。
暴動寸前の混乱が拡がる。
しかし――
何も起こらない。
爆発も、放射線警報も、炎も。
やがて、恐る恐る計器を確認する者が現れた。
そこで、研究員たちは理解不能な事実を突きつけられる。
核弾頭内の高濃度ウランは――
過酸化水素へ変換されていた。
中性子発生装置は完全に破壊され、核反応は成立しない。
天使たちは、すでに姿を消していた。
残されたのは、床に降り積もる光の微粒子だけ。
間もなく、世界に激震が走る。
衛星回線を通じて配信された映像と、記録された音声。
「我々は核を無効化できる。いつでも、どこでもだ。我々には――天使の御心がある。理解できなくとも、従えばよい。」
「ゆえに、世界の核兵器の沈黙を望む。実力行使も、いとわない。我々は――オルド・アーク。」
映像には、軍事施設で起きた“奇跡”が余すところなく記録されていた。
このニュースは瞬く間に世界中へ拡散され、ネットは炎上し、各国メディアはこぞって速報を打ち出す。
――暗躍は終わった。
オルド・アークは、表舞台へと姿を現したのだ。
だが、その“平和の宣言”の裏で蠢く黒い意思の真意は、未だ明かされていない。
選択の余地を奪われた世界は、静かに――
混乱という名の未来へ――引き返す道を失ったまま、足を踏み入れていく。
「封印の目的 ― 軍事バランス」へ続く。




