揺れる世界 ― 雷風
世界の境界が揺らぐ中、ただ一瞬の選択がすべてを変える。
その時を告げる閃光が、静かに大地を照らし始めていた。
雷が生きた蛇のように嵐に絡みつき、うねりながら閃光を放ち、轟音が大地を震わせる。
カリースの**嵐の拳(Tempest Fist)**は威力を増し、さらに加速していた。
直撃こそ免れているものの、セシルとルクジムの神経は限界に近い。
視界は薄くぼやけ、呼吸は氷の刃のように肺を切り裂く。
「奴は放った嵐を循環させ、再利用している……過給機のようにな。」
セシルの声に焦りと憎悪が滲む。
「つまり、嵐の拳の錬成は一度だけで、後は弱った威力を足してるってわけか?」
ルクジムの琥珀の瞳が鋭く光る。
「面白い……無駄使いをやめたのは、お前だけじゃない。」
白銀のオーラが熱を帯び、金色に変色しながらルクジムの体を包む。
彼は**月影の呪牙**の構えに身を沈めようとしていた。
「待て、ルクジム!まだ早い!」
セシルが視界を遮る。
「今、賭けに出ても相殺するのがやっとだ。もっと奴を削らなければ勝機はない。」
その瞳は紅く深く、残光を放っていた。
その時、スーマの通信が割り込む。
「オッサンの考えてることは丸わかりだ!カリースを消耗させるには、前回みたいにナイトコード còigで相打ちさせるのが手っ取り早え!」
「しかし、それをやっちまうと後がねえ!前と同じ結果になりかねない。」
スーマの声が荒れる。
「今回はルクジムの**月影の呪牙**がある。còigを撃ち落とされても迎撃できる。」
セシルの言葉は執念に染まっていた。
「それこそ賭けと変わらねえだろ!頭冷やせよ、オッサン!」
スーマの激が通信機を震わせる。
「いいか、よく聞け!今さっきナイトコードリンクシステムのプロトコル解析とアルゴリズム構築が完成した」
「分かりやすく言うと、ナイトコード còig の代償をオメガワンの燃料で肩代わりして、一回だけノーリスクで撃てるんだ。しつこいが、一度きりだぜ!」
通信越しにスーマの顔が目に浮かぶ。
「次の嵐の拳を錬成する前に、月影の呪牙で勝負に出るのか!」
ルクジムが割り込む。
「ああ、だがタイミングが命だ。同じ質量同士をぶつけるなら、先に出した方が加速で優位になる。後出しは力負けする可能性が高い。」
スーマの声に電子音が混じる。
「詠唱を無視できても、奴はすでに嵐の拳を錬成済み……どうしても後出しになる。」
セシルが低く呟く。
「タイミングは俺様に任せろ!お前らは何時でも行けるように準備しろ。もうすぐ面白いことが始まるぜ。」
スーマはモニターに映るカリースの背後――蠢く岩を見ていた。
「抵抗せぬなら、もう終わらせるぞ。」
カリースが雷を帯びた嵐の塊を振り上げる。
雷鳴が光の帯となり、地表を伝って雪埃と土を螺旋状に巻き上げ、大地が震えた。
弾けんばかりの電磁音がバチバチと音を上げた刹那――
後方の岩石がカリースに襲い掛かる。
「バリバリバリバッシャーンッ!」
岩石はカリースに触れた瞬間、帯電した雷をショートさせ、弾け飛んだ。
「今だ!!」
「ナイトコード còig!」
スーマの通信とほぼ同時に、セシルの声が風を裂く。
嵐が、一瞬だけ止んだ。
雷鳴が遠ざかり、世界が息を吸う。
光の輝跡で描かれた四つの魔法陣が円を描き、円錐状に連なっていく。
瞬間、夜の瞬きとオーロラの輝きが消えた――。
刹那にして永遠の時。
消えた光が最後方の魔法陣に吸収され、トンネルを通過するたびに集約され、光の微粒子を撒き散らす。
「ヴォン!」
目も眩む閃光が音より早く駆け抜けた。
それに気づいたカリースが嵐の拳を再錬成し、迎え撃つ。
「ズガババギャリギャリーッ!」
カリースの瞳が、ほんの僅かに細められた。
閃光と雷が激突し、空気を引き裂く轟音と網膜を真っ白に染める閃光が、聴覚と視覚を麻痺させ、世界を無限の空間に変容させる。
駆け付けようとするエド達と、戦うヌエの耳にも轟音と地響きが伝わった。
成層圏から見下ろしたギャオは、彗星の落下地点の如き閃光を記録していた。
「怨恨、そして ― 厄催」へ続く。




