境界の大地 ― 魔界印の悲しみ
白い大地の奥で、誰かの選択が静かに重なり、
やがて避けられぬ運命の一点へと収束し始めていた。
荒れる大地に冷たい風が吹き、薄積もりの雪を上空へ舞い上げる。
雲ひとつない夜空に数万の星が瞬き、その光が雪に反射し、世界の境界を曖昧にしていた。
「ミラ!通信、聞いてたな!」
エドが前方で交戦中のミラに回線を開く。
「ええ、ブレードの使い方は分かったわ!」
ミラは射撃を続けながら応答する。
雪に霞む視界の向こうで、ジョーともう一匹のセイウチが対峙していた。
セイウチは何度も攻撃を受けながらも、不気味に立ちふさがっている。
反してジョーの口からは血が滲み、全身に打撲痕と擦過傷――意識を保つのがやっとだった。
「バンバンバンッ!」
ミラは撃ちながら左に回り込む。
(殺らないと殺られる……)
その時、ジョーがセイウチの牙を後ろから掴み、羽交い絞めにする。
「ブオオオーッ!」
セイウチが咆哮し、暴れだす。
「ぐうーっ……ミラ、早くブレードを抜け!俺もそんなに持たない!」
ジョーの声が震え、暴れる巨獣を必死で押さえつける。
「……ミラー!」
後方から近づくエドの声が響く。
その声に、セイウチの赤い眼が視線を変えた。
ミラは咄嗟に銃を捨て、ブレードの柄を握る。
「カチッ――ヅオンッ……」
ボタンを押すと、空間が歪み、白刃が光粒子を纏って姿を現す。
勢いのまま抜刀――。
白刃を握る手が、僅かに震えていることに、ミラ自身が気づいた。
「ドガァッ!」
セイウチの力にジョーが弾き飛ばされた。
「ズバンッ!」
ミラの白刃が暴れるセイウチの二本の牙を切断し、胸部を深く裂いた。
「しまった……踏み込みが甘かった!」
ミラの声が漏れる。
無意識の躊躇いが、一歩の間合いを狂わせた。
「ブ……ブオ……ブブ……」
絶命には至らず、致命傷に喘ぐセイウチ。
その姿を見たミラの瞳が虚ろになり、パニックが押し寄せる。
「……止めを刺してやれ、ミラ!それが――そいつのためだ!」
飛ばされたジョーが叫ぶ。
残酷な現実が重くのしかかり、体が押し潰されそうになる。
その時――緊急回線が繋がった。
「ミラ!ブラックドックと剣山の猪、そしてさっきのエドの転送データの解析がまとまりかけてる。その命、救えるかもしれない!」
ドクター・リリアンの声が鋭く響く。
「そうと分かれば、ジェネシスで生成した救命用QRボットキットを射出する!受け取れ!」
スーマの通信が力強くこだまする。
もがくセイウチの赤い眼が、薄まりかけ、微かな安堵を覗かせていた。
魔界印に縛られた獣の悲しみが、氷原に滲む。
世界を揺るがす脅威は、まだ何も収まってはいない。
ギャオを駆け抜ける風が音を立てて吹き抜け――オーロラが赤く染まっていく。
「因縁 ― 激突」へ続く。




